[スポンサーリンク]

一般的な話題

2007年ノーベル化学賞『固体表面上の化学反応の研究』

[スポンサーリンク]

?スウェーデン王立科学アカデミーは10日、今年のノーベル化学賞を、独マックス・プランク財団フリッツ・ハーバー研究所のゲルハルト・エルトゥル氏に贈ると発表した。授賞理由は「固体表面上の化学反応の研究」。

 

固体表面の化学反応の知識は、鉄がさびる理由から燃料電池の仕組みまで、幅広い分野におよんでいる。化学肥料や半導体など産業的にも幅広く活用されているほか、オゾン層の破壊や自動車排ガスの浄化など環境の分野でも重要な意味をもっている。(引用:asahi.com)

 

今年のノーベル化学賞が発表になりました!「化学者のつぶやき」でも予想していた、ゲルハルト・エルトゥル教授が単独受賞となりました。余談ですが、エルトゥル教授は本日(10月10日)が71歳の誕生日だそうです。おめでとうございます!

 

受賞理由は“for his studies of chemical processes on solid surfaces”(固体表面の化学反応過程についての研究)です。

 

表面科学(Surface Science)とは、その名前が示すとおり、異相間の界面で起きる物理・化学現象を扱う学問の総称です。すなわち、

 

固体表面に接する気体や液体はどのような相互作用をするのか?なぜパラジウムや白金、様々なナノ粒子などの不均一系触媒は固体にも関わらず反応に関与するのか?その表面ではどのように反応が進行するのか?

 

こういった疑問を扱い、解決していくことがその学術的到達点になります。表面科学のパイオニアであるエルトゥル教授は、金属表面と気体間の相互作用に特に注目し、研究を行ってきました。

 

1960年頃から、低エネルギー電子回折(LEED)、UV・IR分光、X線回折、電子顕微鏡などを用い、その相互作用の様子を明らかにしてきました。

 

1980年代には、ハーバー・ボッシュ法(リンク:Wikipedia)に用いられる鉄触媒表面上での、窒素・水素の挙動を分子レベルで解明しました。これは化学肥料の原料となるアンモニア製造への理論面からの貢献になります。

 

そして1990年代にかけては、一酸化炭素がパラジウム・白金触媒表面で酸化され、二酸化炭素へと変換される反応の詳細を研究しました。この成果により、自動車排ガスの浄化技術の発達にも貢献しています。

 

表面科学はまた、最近の花形研究でもあるナノテクノロジーにおける重要な理論基礎ともなっています。ナノスケールでは比表面積の大きな物質が扱われます。つまりバルクスケールと異なり、物質表面の特性が全体に比して無視できないことが多いのです。

 

このように現在では必要不可欠な学問分野となっている「表面科学」の発展に寄与した業績が称えられ、エルトゥル教授には日本国際賞(1992年)、ウルフ賞(1998年)という大きな国際賞が過去に授与されていました。そしてこのたび、研究者にとって最高の栄誉であるノーベル化学賞が与えられる運びとなりました。

 

固体表面化学分野で同じくノーベル賞有力候補であった、ケンブリッジ大・キング教授やUCバークレイ・ソモライ教授(2008年プリーストリーメダル受賞者)は選考から漏れる結果となっています。このあたりの差異・選別基準がどういうところにあるのかは、正直なところよく分からないですが(筆者が非専門というのもあります)。?

 

関連文献

[1] GERHARD ERTL FESTSCHRIFT: J. Phys. Chem. B 2004, 108, 14183-14788.

 

外部リンク

 

関連書籍

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 2008年イグノーベル賞決定!
  2. 国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟でのColloidal …
  3. 第30回光学活性化合物シンポジウム
  4. 有機合成化学協会誌2021年3月号:水素抽出型化学変換・環骨格一…
  5. 普通じゃ満足できない元素マニアのあなたに:元素手帳2016
  6. 2007年度ノーベル化学賞を予想!(5)
  7. アミン化合物をワンポットで簡便に合成 -新規還元的アミノ化触媒-…
  8. アステラス病態代謝研究会 2018年度助成募集

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. TMSClを使ってチタンを再生!チタン触媒を用いたケトン合成
  2. 縮合剤 Condensation Reagent
  3. 芳香族化合物のスルホン化 Sulfonylation of Aromatic Compound
  4. トリス(2,4-ペンタンジオナト)鉄(III):Tris(2,4-pentanedionato)iron(III)
  5. パクリタキセル(タキソール) paclitaxel(TAXOL)
  6. アリルC(Sp3)-H結合の直接的ヘテロアリール化
  7. 小説『ラブ・ケミストリー』聖地巡礼してきた
  8. 環境ストレスに応答する植物ホルモン
  9. 日本化学会:次期会長に藤嶋昭氏を選出--初の直接選挙で
  10. 黒よりも黒い? 「最も暗い」物質 米大学チーム作製

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2007年10月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

注目情報

最新記事

マリンス有機化学(上)-学び手の視点から-

概要親しみやすい会話形式を用いた現代的な教育スタイルで有機化学の重要概念を学べる標準教科書.…

【大正製薬】キャリア採用情報(正社員)

<求める人物像>・自ら考えて行動できる・高い専門性を身につけている・…

国内初のナノボディ®製剤オゾラリズマブ

ナノゾラ®皮下注30mgシリンジ(一般名:オゾラリズマブ(遺伝子組換え))は、A…

大正製薬ってどんな会社?

大正製薬は病気の予防から治療まで、皆さまの健康に寄り添う事業を展開しています。こ…

一致団結ケトンでアレン合成!1,3-エンインのヒドロアルキル化

ケトンと1,3-エンインのヒドロアルキル化反応が開発された。独自の配位子とパラジウム/ホウ素/アミン…

ベテラン研究者 vs マテリアルズ・インフォマティクス!?~ 研究者としてMIとの正しい向き合い方

開催日 2024/04/24 : 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足…

第11回 慶應有機化学若手シンポジウム

シンポジウム概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大…

薬学部ってどんなところ?

自己紹介Chemstationの新入りスタッフのねこたまと申します。現在は学部の4年生(薬学部)…

光と水で還元的環化反応をリノベーション

第609回のスポットライトリサーチは、北海道大学 大学院薬学研究院(精密合成化学研究室)の中村顕斗 …

ブーゲ-ランベルト-ベールの法則(Bouguer-Lambert-Beer’s law)

概要分子が溶けた溶液に光を通したとき,そこから出てくる光の強さは,入る前の強さと比べて小さくなる…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP