[スポンサーリンク]

天然物

テトラメチルアンモニウム (tetramethylammonium)

[スポンサーリンク]

GREEN2013tma001.png

テトラメチルアンモニウムは、最も構造が単純な第4級アンモニウム。化学の広範な分野で用途があります。分子のかたちが神経調節物質であるアセチルコリンと似ているため神経毒性があり、巻貝のエゾボラはテトラメチルアンモニウムを含有することが知られています。

 

  • 詳細

テトラメチルアンモニウムは、テトラミン(tetramine)とも呼ばれます。水酸化テトラメチルアンモニウム塩化テトラメチルアンモニウムのかたちで手に入れることができます。有機合成や生化学試薬、素材の原材料などとして、テトラメチルアンモニウムは用途があります。

ただし、テトラメチルアンモニウムには、アンモニア類に共通した塩基性による化学やけどに加えて、きわだった神経毒性があるため、取り扱いには注意が必要です。テトラメチルアンモニウムは神経伝達物質であるアセチルコリンの代わりに、神経細胞の表面にあるアセチルコリン受容体タンパク質に作用し、筋肉の麻痺や呼吸困難を起こして、一度で大量に摂りこんでしまった場合は死に至ることもあります。

GREEN2013tma01.png

テトラメチルアンモニウムイオン(左)とアセチルコリン(右)の構造式

テトラメチルアンモニウムには、実験室だけでなく自然界でも作る生き物がいます。一般にはよくつぶ貝と呼ばれる巻貝のなかまです。エゾボラ属に分類される巻貝(Neptunea sp.)のうち、イギリスの比較的に冷たい北側の沿岸部で見られるなかま(Neptunea antiqua )で、テトラメチルアンモニウムは最初に発見[1]されました。この他に、食用として国内市場に流通している次の巻貝でも含有が確認されています。

・エゾボラ(Neptunea polycostata )

・エゾボラモトキ(Neptunea intersculpta )

・チヂミエゾボラ(Neptunea constricta )

・クリイロエゾボラ(Neptunea lamellose )

・ヒメエゾボラ(Neptunea arthritica )

これらエゾボラ属の巻貝の調理にあたっては、テトラメチルアンモニウムが濃縮された唾液腺を確実に取り除くことが必要になります。中毒症状は、頭痛やめまいが2時間から3時間ほど続くというもので、国内に死亡例はないようです。十分に注意しましょう。

エゾボラ属の巻貝におけるテトラメチルアンモニウムの蓄積には季節差があります。秋から冬にかけてはとくに濃度が高く、季節によっては最大で湿重量1gあたり2mgから9mgほどにも達します[2]。テトラメチルアンモニウムは成人男性の場合、10mg以上の摂取で効果が現れると考えられています。

エゾボラ属の巻貝は肉食性であり、飼育観察の結果から、餌となる二枚貝の捕獲にテトラメチルアンモニウムを使っていると考えられています[2]。この他、微量を海水中に漂わせることで天敵避けにもなっているのではないかという指摘があるものの、実態は定かではありません。

 

  • 分子モデル

GREEN2013TMAmov.gif

 

  • 参考文献

[1] "An Acetylcholine-like Salivary Poison in the Marine Gastropod Neptunea antiqua." Ranger Fange Nature 1957 DOI: 10.1038/180196a0

[2] "The seasonality and role of the neurotoxin tetramine in the salivary glands." Power AJ et al. Toxicon 2002 DOI: 10.1016/S0041-0101(01)00211-2

[3] エゾボラモドキ(通称:バイ貝)によるテトラミン食中毒にご注意ください!(http://www.city.osaka.lg.jp/kenko/page/0000005616.html)

Avatar photo

Green

投稿者の記事一覧

静岡で化学を教えています。よろしくお願いします。

関連記事

  1. ヒストリオニコトキシン histrionicotoxin
  2. スピノシン spinosyn
  3. オレキシン受容体拮抗薬
  4. ポリ乳酸 Polylactic Acid
  5. ヘリウム (helium; He)
  6. メバスタチン /Mevastatin
  7. ファイトスルフォカイン (phytosulfokine)
  8. ブラッテラキノン /blattellaquinone

注目情報

ピックアップ記事

  1. サイエンスアワード エレクトロケミストリー賞の応募を開始
  2. 研究室でDIY!~光反応装置をつくろう~
  3. 2022 CAS Future Leaders プログラム参加者募集
  4. 電気化学的一炭素挿入反応でピロールからピリジンを合成~電気化学的酸化により、従来と異なる位置への炭素挿入を可能に~
  5. アメリカ大学院留学:卒業後の進路とインダストリー就活(1)
  6. ニュースタッフ追加
  7. 名古屋市科学館で化学してみた
  8. ライセルト インドール合成 Reissert Indole Synthesis
  9. 水を含み湿度に応答するラメラ構造ポリマー材料の開発
  10. フランスの著名ブロガー、クリーム泡立器の事故で死亡

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2013年9月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  

注目情報

最新記事

7th Compound Challengeが開催されます!【エントリー〆切:2026年03月02日】 集え、”腕に覚えあり”の合成化学者!!

メルク株式会社より全世界の合成化学者と競い合うイベント、7th Compound Challenge…

乙卯研究所【急募】 有機合成化学分野(研究テーマは自由)の研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

大森 建 Ken OHMORI

大森 建(おおもり けん, 1969年 02月 12日–)は、日本の有機合成化学者。東京科学大学(I…

西川俊夫 Toshio NISHIKAWA

西川俊夫(にしかわ としお、1962年6月1日-)は、日本の有機化学者である。名古屋大学大学院生命農…

市川聡 Satoshi ICHIKAWA

市川 聡(Satoshi Ichikawa, 1971年9月28日-)は、日本の有機化学者・創薬化学…

非侵襲で使えるpH計で水溶液中のpHを測ってみた!

今回は、知っているようで知らない、なんとなく分かっているようで実は測定が難しい pH計(pHセンサー…

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP