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化学コミュニケーション賞2023を受賞しました!

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化学コミュニケーション賞は、日本化学連合が2011年に設立したもので、「化学・化学技術」に対する社会の理解を深めることに貢献した個人および団体(企業、学協会、各種NPO、学校法人など)を顕彰しています。これまでに大学の教員だけでなく、中高の先生方、企業、学会、サークルなど多様な個人・団体がこれを受賞しています。要するに科学教育・科学コミュニケーション分野の賞で、化学分野特化版だと考えて頂ければいいと思います。

さて先日もケムステに公募要領を掲載しました化学コミュニケーション賞2023、今年の受賞者が発表されました。

本記事では化学系バーチャルシンポジウムの開拓と実践」という表題で、山口潤一郎・生長幸之助・宮田潔志の3名が受賞したニュースをお届けします。この3名はいずれも、ケムステの運営チーム(代表・副代表・コアスタッフ)に長年関わっています。

「あれ?ケムステって、前にも受賞してなかったっけ?」とふと思われた方、鋭いです!

Chem-Stationとしては、実は2012年度に本賞を受賞しています。この時は「化学情報伝達・啓発のためのウェブシステムの構築」というテーマで【団体】枠にて受賞しています。ブログ・テキストメディアによる化学啓蒙が主たる業績でした。

今回は化学系では初となる、持続可能なバーチャルシンポジウムシリーズ企画をそれぞれ個別に立ち上げ、運営・先導したというテーマにて、【個人】枠での受賞となりました!動画メディアによる化学啓蒙が評価された形です。

事実、ケムステ代表は2度目の受賞となりますが、評価対象となった業績・枠は大きく異なっています。当時を振り返りながら、受賞業績と経緯を紹介してみましょう。

始まりは「ケムステVシンポ」

既に遠い昔に感じられつつありますが、2020年初頭より世界的恐怖をもたらしたコロナ禍は、学術研究・情報交換スタイルにも大きな変革を迫りました。リアルな学会活動は中止を余儀なくされ、歩みを止めないためにどうしていくべきか、答えのない問いに対して、誰もが真剣に向き合う必要に迫られたのです。

コロナ禍以前を振り返って見ると、オンラインで学会を行うアイデアそのものは勿論存在していましたが、インフラやノウハウ、使いやすいツールの欠如などを背景に、全く現実的なものだと考えられていませんでした。

しかし突如到来したコロナ禍のタイミングで、ケムステ代表・山口潤一郎の主導により、他団体に先駆けて立ち上げられたのが、皆さんご存じ、化学系オンラインシンポジウムシリーズ「Chem-Stationバーチャルシンポジウム(ケムステVシンポ)」です。第1回は講師4名の招待講演として、2020年5月1日に開催し、化学系では国内史上最大規模となる参加登録2724名・リアルタイム視聴数2000名以上という記録を打ち立てました。その後スポンサーの確保、様々な切り口からの企画立案を継続し、現在までに(予定も含めて)44回の実施を数える、持続可能な人気シリーズとなりました。のべ参加登録数は3万人を超えています。
ケムステバーチャルシンポジウム「最先端有機化学」

ケムステVシンポでは、前例のなかったオンラインシンポジウムシリーズの実施・運営システムを、ゼロから構築しています。最大の鍵となったのは、デジタルツールの徹底活用(DX)です。

たとえば打ち合わせ(Slack)、配信(Zoom・YouTube Live)、参加登録(Connpass)、聴講アンケート(Connpass・Google Form)、交流会(Spatial Chat・Gather.Town)、マニュアル作成(Google Document)などなど、各所で有名デジタルツールをフル活用しています。これにより、コロナ禍でも問題なく運営が進められるよう、事前準備まで含めて完全な非接触・オンラインでのやりとりを可能にしました。

さらにDXを徹底した結果として、1回当たりの実施リソースをもの凄く低くすることもできました。具体的にはケムステVシンポ1回あたり、運営スタッフ3~6名・全経費5~15万円程度で実施可能です。毎回の参加登録数(数百名)と照らしてみると、革命的な運営効率だと自負しています。この圧倒的コスパによって、開催頻度の増加も容易になり、協賛企業CMをシンポ中に挟むスポンサー方式も採用し、経済的にも独立・持続可能な運営モデルに仕上げました。

シンポジウム終了後は、講演アーカイブ動画をケムステYouTubeチャンネルを通じて編集後、無料配信しています。これにより、リアルタイム聴講できなかった聴衆に対しても、最新の研究情報を地理的・時間的な制約なしに提供出来る仕組みを作り上げました。

ケムステVシンポをきっかけに立ち上げられたこのYouTubeチャンネルは、現在ではさらなる多角展開を見せています。例えば、レジェンド研究者による招待講演のプレミア配信(ケムステVプレミアレクチャー)や最終講義の全国配信化学系実験手技を伝える動画教材、先端研究解説と現場人材のアピール(スポットライトリサーチムービー)、一年間に話題となった化学を振り返るスタッフ発ライブ配信(ケムステV年末ライブ)なども実施されており、動画メディアにおける化学啓蒙の新境地を開拓したのです。

分野特化型バーチャルシンポ「Qコロ」「ABC-InFO」への発展

このケムステVシンポシリーズでファシリテータ・モデレータを経験し、運営システムの確立に協力を惜しまなかったケムステコアスタッフ・宮田潔志ケムステ副代表・生長幸之助は、現場ノウハウをもとに、自らの専門性を掛け合わせる形で新たなバーチャルシンポジウムシリーズを立ち上げました。

宮田は、九州大学の若手有志を集めた運営チームを自ら設立し、専門領域である光化学を題材としたバーチャルシンポジウムシリーズ「“光”機到来!Qコロキウム(Qコロ)」を立ち上げました。現在までに33回の実施を数えています。

生長は、意欲的な同世代研究者を募り、化学×生命科学を題材とするバーチャルシンポジウムシリーズ「『生体適合化学の進歩』インタラクティブフォーラム(ABC-InFO)」を立ち上げました。現在までに19回、実施しています。

これらの企画はいずれも、現場で先端研究を指揮しながらも、表だって自分の成果をまとめて話す機会に乏しい、しかし対外的に顔を売ってアピールしていかねばならない若手~中堅世代に着目しており、「これから来る!」駆け上がりフェーズにある研究者を発掘して紹介することを念頭に置いています。Qコロではオンライン実施の利点を活かし、海外講演者を積極的に招待してもいます。ABC-InFOでは講演後にもたれるオンライン懇親会に力点を置いており、非公式かつざっくばらんな情報交換と人的交流が、欠かさず得られる機会にもなっています。

これらはいずれも、ケムステVシンポで確立済みの運営モデルと基本的には同じものを採用しており、原理的にはどのような専門分野においても同様のスタイルで実施が可能ということを示すに至りました。

ケムステも含めたこれら3団体は、協力関係を築いており、講演アーカイブ動画を「ケムステYouTubeチャンネル」から一元的に無料配信できる体制も整えました(講演アーカイブはこちら:QコロABC-InFO)。これにより、各動画の閲覧数の増加を実現し、より多くの視聴者に先端化学を届けつつも、若手~中堅世代のアピール場としての貢献にもつながっています。

化学コミュニケーションにおけるインパクト

今回の受賞者3名は、いずれも第一線の研究者(大学教員・国研研究員)です。その本業がある中で、教育・啓蒙・研究のバランスを取ることは困難です。しかし3名ともが忙しい日々の合間を縫って両立させており、コロナ禍が明けた現在においても、活動を継続・発展させ続けています。

特筆すべきはオンライン主体の活動という点であり、ポストコロナ時代の化学コミュニケーション・先端情報発信におけるロールモデルとして捉えることができると自負しています。

2023年度・受賞者一覧

「化学コミュニケーション賞2023」選考結果報告

「化学コミュニケーション賞2023」は、(一社)日本化学連合の主催、(株)化学工業日報社、(一社)化学情報協会の共催、(国研)科学技術振興機構、(公社)新化学技術推進協会、(一社)日本サイエンスコミュニケーション協会、(株)化学同人の後援およびChem-Stationの協力により、2023年10月1日に募集を開始し、2023年12月10日に締め切りました。応募案件について、あらかじめ選任された選考委員により書面評価を行ったうえで、2024年1月11日に開催された最終選考委員会において化学コミュニケーション賞3件と審査員特別賞2件を下記の通り選定しました。 (引用:1月23日 日本化学連合ニュース)

化学コミュニケーション賞2023(個人)

受賞者:Andrew Robertson、Jirapathiran Hiranpakorn、Maria Sucianto(九州大学)

業績の表題:Three Twentysix – 化学を世界に説明する

化学コミュニケーション賞2023(個人)

受賞者:佐藤宗太(東京大学)

業績の表題:幅広い層に魅力的な最先端分子科学の普及

化学コミュニケーション賞2023(個人)

受賞者:山口潤一郎(早稲田大学)、生長幸之助(産業技術総合研究所)、宮田潔志(九州大学)

業績の表題:化学系バーチャルシンポジウムの開拓と実践

化学コミュニケーション賞2023審査員特別賞(団体)

受賞者:WAKUWAKUのタネ(わくわくのたね)

業績の表題:孤育て から、みんなで育てる”Co SODATE” へ!参加型企画運営による親子の豊かな場・時間づくり

化学コミュニケーション賞2023審査員特別賞(個人)

受賞者:鬼村謙二郎(山口大学)

業績の表題:最先端科学技術を小中高校生に伝える活動

表彰式とシンポジウムのお知らせ

表彰式は、3月7日 午後1時からオンラインにて開催されます。同日の午後2時からは、第17回日本化学連合シンポジウムも開催されますので、シンポジウム参加予定の方は、化学コミュニケーション賞授賞式にも是非参加してみてください!

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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