[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

新規抗生物質となるか。Pleuromutilinsの収束的短工程合成

[スポンサーリンク]

モジュール式に組み立てることでpleuromutilin類の短工程合成が達成された。様々な類縁体の網羅的合成も可能なため、新規抗生物質探索の加速が期待できる。

Pleuromutilins

近年深刻化している薬剤耐性菌への対策の一つとして、新たな作用機序をもつ抗生物質の創出が求められている。

Pleurotus類の菌から単離されたジテルペン、(+)-pleuromutilin(1)はリボソームのpeptidyl transferase centerに作用する珍しい機構で抗生作用を示すため、「最後の砦」となりうる新規抗生物質のリード化合物として注目されている(図1A)。

実際にC14位修飾体(2: retapamulin)は臨床試験段階(第三層)にある[1]。C14位修飾体がグラム陽性菌(GPP)への抗生物質となりうるのに加えて、12-epi-pleuromutilins(3)のC12位側鎖の誘導体がグラム陰性菌(GNP)に対する阻害活性をもつことが最近わかった。C14位類縁体や31からの半合成により合成できるが、それ以外の多様な類縁体の合成を指向すると半合成では限界がある。そのため、様々な類縁体の合成を可能にする効率的かつ柔軟な合成戦略の登場が期待されている。

八つの不斉炭素を含む複雑な炭素骨格から1の全合成は容易ではなく、単離から60年以上経つ今でも全合成はGibbons(1982年)、Boeckman(1989年)、Procter(2014年)の3例のみである[2]。図1BにBoeckmanとProctorらの骨格形成反応を示したが、いずれの報告も直線的合成戦略に則って三環性骨格を構築し、その後20工程ほどを経て1の全合成を達成している(総27–34工程)。

今回Yale大学のHerzon教授は合成終盤で二つのユニットを連結する収束的手法により1を不斉合成した(図1C)。既存法と比べ短工程である上、3をはじめとする種々の類縁体の合成もできる。

図1. Pleuromutilin類と過去の合成例

“A modular and enantioselective synthesis of the pleuromutilin antibiotics”

Murphy, S. K.; Zeng, M.; Herzon, S. B. Science 2017, 356, 956.

DOI: 10.1126/science.aan0003

論文著者の紹介

研究者:Seth B. Herzon (研究グループHP)

研究者の経歴:
1998–2002 BSc, Temple University (Prof. Grant R. Krow)
2002–2006 PhD, Harvard University (Prof. Andrew G. Myers)
2006–2008 Posdoc, University of Illinois, Urbana-Champaign (Prof. John F. Hartwig)
2008–2012 Assistant Prof, Yale Chemistry
2012–2013 Associate Prof, Yale Chemistry
2013–present Prof, Yale Chemistry
研究内容:天然物合成、ケミカルバイオロジー、反応開発

論文の概要

各ユニットをつなぐ二つのC–C結合を如何に形成するかが本合成におけるハイライトとなる。

種々検討の結果、彼らは45のフラグメントを適用するに至った。各ユニットの詳細な合成はここでは割愛する。まず、5のリチオ化体の4に対する付加反応、続く酸処理によりジケトン7を合成した。はじめ、4ではなくエステルなどの非環状の求電子基をもつ基質を用いて検討したが、目的の反応はほとんど進行しなかった。環状N-Bocエンイミドの高い求電子性が本反応の進行には必須であると述べられている。

この後数工程を経てアルキンアルデヒド8へと導いた後、二つ目の結合形成を行った。アルキンとアルデヒドとの還元的環化反応は知られているものの、中員環形成に適用した例はなかった。検討の結果、Montogomeryらの報告したNi/IPr触媒によるexo選択的環化条件を用いることで良好な収率とジアステレオ選択性で8員環9の合成に成功した[3]

9を共通中間体として、ジケトンのジアステレオ選択的還元と有機亜鉛試薬による転位反応を駆使して種々の類縁体の合成を達成した。具体的には9に対してLiEt3BHを用いて速度論的に有利な10を合成し、そこから(+)-11,12-di-epi-mutilin(12)を得た。一方、9の二つのケトンを金属ナトリウムで一挙に還元し、(+)-12-epi-mutilin(13)を良い収率、中程度の選択性で得ている。さらに、13からは1および3が、中間体11からはC11, C12位のジエピマー体14が合成できることを実証した。

図2. Herzonらのpleuromutilin類の合成

参考文献

  1. Thirring, K.; Heilmayer, W.; Riedl, R.; Kollmann, H.; IVEZIC-SCHOENFELD, Z.; WICHA, W.; Paukner, S.; Strickmann, D. U.S. Patent WO2015110481A1
  2. (a) Gibbons, E. G. Am. Chem. Soc. 1982, 104, 1767. DOI: 10.1021/ja00370a067 (b) Boeckman, R. K.; Springer, D. M.; Alessi, T. R. J. Am. Chem. Soc. 1989, 111, 8284. DOI: 10.1021/ja00203a043 (c) Fazakerley, N. J.; Helm, M. D.; Procter, D. J. Chem. Eur. J. 2013, 19, 6718. DOI: 10.1002/chem.201300968
  3. Wang, H.; Negretti, S.; Knauff, A. R.; Montgomery J. Lett. 2015, 17, 1493. DOI: 10.1021/acs.orglett.5b00381
Avatar photo

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. 芳香族ボロン酸でCatellani反応
  2. 中学生の研究が米国の一流論文誌に掲載された
  3. “関節技”でグリコシル化を極める!
  4. 有機合成化学協会誌2021年4月号:共有結合・ゲル化剤・Hove…
  5. 振動強結合によるイオン伝導度の限界打破に成功
  6. 化学を広く伝えるためにー多分野融合の可能性ー
  7. 高専の化学科ってどんなところ? -その 1-
  8. NIMSの「新しいウェブサイト」が熱い!

注目情報

ピックアップ記事

  1. リガンド革命
  2. マテリアルズ・インフォマティクスにおける高次元ベイズ最適化の活用-パラメーター数が多い条件最適化テーマに対応したmiHub新機能もご紹介-
  3. 危険物データベース:第2類(可燃性固体)
  4. 石油化学大手5社、今期の営業利益が過去最高に
  5. プリンターで印刷できる、電波を操る人工スーパー材料
  6. “見た目はそっくり、中身は違う”C-グリコシド型擬糖鎖/複合糖質を開発
  7. 次世代医薬とバイオ医療
  8. 芳香族カルボン酸をHAT触媒に応用する
  9. 分子研オープンキャンパス2023(大学院説明会・体験入学説明会) 参加登録受付中!
  10. 有機合成化学協会誌2018年3月号:π造形科学・マグネシウムカルベノイド・Darzens反応・直接的触媒的不斉アルキニル化・光環化付加反応

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2017年7月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31  

注目情報

最新記事

アクリルアミド類のanti-Michael型付加反応の開発ーPd触媒による反応中間体の安定性が鍵―

第622回のスポットライトリサーチは、東京理科大学大学院理学研究科(松田研究室)修士2年の茂呂 諒太…

エントロピーを表す記号はなぜSなのか

Tshozoです。エントロピーの後日談が8年経っても一向に進んでないのは私が熱力学に向いてないことの…

AI解析プラットフォーム Multi-Sigmaとは?

Multi-Sigmaは少ないデータからAIによる予測、要因分析、最適化まで解析可能なプラットフォー…

【11/20~22】第41回メディシナルケミストリーシンポジウム@京都

概要メディシナルケミストリーシンポジウムは、日本の創薬力の向上或いは関連研究分野…

有機電解合成のはなし ~アンモニア常温常圧合成のキー技術~

(出典:燃料アンモニアサプライチェーンの構築 | NEDO グリーンイノベーション基金)Ts…

光触媒でエステルを多電子還元する

第621回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域(魚住グループ)にて…

ケムステSlackが開設5周年を迎えました!

日本初の化学専用オープンコミュニティとして発足した「ケムステSlack」が、めで…

人事・DX推進のご担当者の方へ〜研究開発でDXを進めるには

開催日:2024/07/24 申込みはこちら■開催概要新たな技術が生まれ続けるVUCAな…

酵素を照らす新たな光!アミノ酸の酸化的クロスカップリング

酵素と可視光レドックス触媒を協働させる、アミノ酸の酸化的クロスカップリング反応が開発された。多様な非…

二元貴金属酸化物触媒によるC–H活性化: 分子状酸素を酸化剤とするアレーンとカルボン酸の酸化的カップリング

第620回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院工学研究院(本倉研究室)の長谷川 慎吾 助教…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP