[スポンサーリンク]

一般的な話題

ケミカル・アリに死刑判決

[スポンサーリンク]

 1988年に起きた、クルド人虐殺事件(アンファル作戦)において、毒ガス類の使用を命じた、「ケミカル・アリ」の異名を持つイラクのアリ・ハサン・アルマジド元国防相の死刑が決定したそうです(画像:Tx Biz News テレビ東京)。

クルド人虐殺事件は、1980年代に起こったイラン・イラク戦争で、イランの支援を受けたクルド人政党へのイラクの報復であったといわれておりますが、実際はいろいろと裏があるようです。その話に関しては事実か仮説か判明していないので、とりあえずおいておくこととしましょう。

ところで、話は変わりますが、よく「毒ガス」といわれる化学兵器としてはどのようなものがあるのでしょうか?

毒ガスといわれる化学兵器は、マスタードガス、サリン、タブン、シアン化合物、VXなど、またそれらを混合したカクテルガスなどが使われるそうです。 以下に簡単に説明しましょう。

 

マスタードガス(Mustard gas)

200px-Sulfur-mustard-2D-skeletal

びらん剤といわれる、皮膚をただれさせる毒ガス。主成分はBis (2-chloroethyl) sulfideで、図の様に硫黄原子S(サルファ)を含んでいる。このようにSを含むものを特にサルファマスタードガスと呼び、この他にSがN(ナイトロジェン、ニトロゲン)に変わったナイトロジェンマスタードガスも知られている。

 

サリン(Sarin)

Unknown

松本サリン、地下鉄サリン事件で知らないものはいなくなったであろう、非常に有名な毒ガス。サリンの名はリンが含まれているから~リンとつくのかと思っていましたが、開発者の名前の頭文字をとったものであるそうです。 水に触れると簡単に加水分解されて無毒になります。

 

タブン(Tabun)

Tabun.gif

サリンと同様に有機リン系の毒ガス。ドイツで開発されたことからG剤(Germanガス)といわれる。サリンもG剤の一種。同じ有機リン系の毒ガスとしては最も弱い。 VX>ソマン>サリン>タブン

 

VXガス(VX-gas)

VX.gif

同じく有機リン系の毒ガス。人類が作った化学物質の中で最も毒性の強い物質のひとつともいわれている。P-S結合を有するこの系統の有機リン系毒ガスを毒の意味を有するVenomからV剤と呼ぶ。サリンとことなり、みてのとおり安定性、新油性が高いので簡単に加水分解されず、皮膚に付着するととれない。安定性が高いため、長期間毒性を維持。まさに最低の化合物です。

 

シアン系ガス

化学式HCN。本名シアン化水素、青酸ガスとも呼ばれる。シアン化塩素ClCN。塩化シアンとも呼ばれる。どちらも体の中のヘム鉄のFe3+に配位することで呼吸阻害を起こす。

と以上簡単にいくつかの毒ガスをあげてみましたが、なぜあげたかというと、昔からこのクルド人虐殺事件はイラクでなくイランの仕業であったという意見があるからです。見てのとおりそれぞれ化学構造が異なるために、加水分解性生物やそのもの自体を分析すればどの毒ガスを使ったかということはすぐに特定できます。クルド人虐殺事件で使われた毒ガスはシアン系のガス。当時イラクにはシアン系のガスが使われた形跡はなかったそうです。その他にも、18万人が虐殺されたといいますが、18万人もの死骸がどこにもみつかっていない、本当に事実か?という意見も。

真相は明らかではないですが、どちらにしても毎回戦争の際に起こる、一般市民に戦争の意味、正義であることを理解させる、いつもどおりの米国のプロパガンダであることは、今となっては容易に想像できますね。それ以上の言及はここでは避けることにします。

 

外部リンク

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 有機合成化学協会誌3月号:鉄-インジウム錯体・酸化的ハロゲン化反…
  2. アメリカで Ph.D. を取る –エッセイを書くの巻– (後編)…
  3. 2つの触媒と光エネルギーで未踏の化学反応を実現: 芳香族化合物の…
  4. 有機合成化学協会誌2022年12月号:有機アジド・sp3変換・ヤ…
  5. 水が決め手!構造が変わる超分子ケージ
  6. 銅触媒による第三級アルキルハロゲン化物の立体特異的アルキニル化反…
  7. 化学は地球を救う!
  8. 【医薬分野のみなさま向けウェブセミナー】マイクロ波を用いた革新的…

注目情報

ピックアップ記事

  1. ペンタレネン Pentalenene
  2. ノーベル化学賞受賞者が講演 3月1日、徳島文理大学
  3. ケテンジチオアセタール化による一炭素増炭反応
  4. 理系のための就活ガイド
  5. ディーン・トースト F. Dean Toste
  6. 接着系材料におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用 -条件最適化編-
  7. 第94回日本化学会付設展示会ケムステキャンペーン!Part III
  8. 2つのアシロイン縮合
  9. 大日本製薬と住友製薬が来年10月合併・国内6位に
  10. ジオトロピー転位 dyotropic rearrangement

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2007年6月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

注目情報

最新記事

河村奈緒子 Naoko Komura

河村 奈緒子(こうむら なおこ, 19xx年xx月xx日-)は、日本の有機化学者である。専門は糖鎖合…

分極したBe–Be結合で広がるベリリウムの化学

Be–Be結合をもつ安定な錯体であるジベリロセンの配位子交換により、分極したBe–Be結合形成を初め…

小松 徹 Tohru Komatsu

小松 徹(こまつ とおる、19xx年xx月xx日-)は、日本の化学者である。東京大学大学院薬学系研究…

化学CMアップデート

いろいろ忙しくてケムステからほぼ一年離れておりましたが、少しだけ復活しました。その復活第一弾は化学企…

固有のキラリティーを生むカリックス[4]アレーン合成法の開発

不斉有機触媒を利用した分子間反応により、カリックスアレーンを構築することが可能である。固有キラリ…

服部 倫弘 Tomohiro Hattori

服部 倫弘 (Tomohiro Hattori) は、日本の有機化学者。中部大学…

ぱたぱた組み替わるブルバレン誘導体を高度に置換する

容易に合成可能なビシクロノナン骨格を利用した、簡潔でエナンチオ選択的に多様な官能基をもつバルバラロン…

今年は Carl Bosch 生誕 150周年です

Tshozoです。タイトルの件、本国で特に大きなイベントはないようなのですが、筆者が書かずに誰が…

ペンタフルベンが環構築の立役者!Bipolarolide D の全合成

4つの五員環が連結するユニークな構造をもつ天然物bipolarolide Dの全合成を達成した。エナ…

植物由来アルカロイドライブラリーから新たな不斉有機触媒の発見

第632回のスポットライトリサーチは、千葉大学大学院医学薬学府(中分子化学研究室)博士課程後期3年の…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP