[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

化学の力で迷路を解く!

[スポンサーリンク]

“Maze Solving by Chemotactic Droplets”
Lagzi, I.; Soh, S.; Wesson, P. J.; Browne, K. P.; Grzybowski, B. A. J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 1198. doi:10.1021/ja9076793

本日公開されたばかりの論文ですが、分野を問わず化学者の皆さん気になっているご様子。Twitter上でも、ちらほら話題として見られます。やはり普段見かけない奇抜な論文には目が留まってしまうものなんでしょう。せっかくですから、ここで取り上げてみましょう。

まずは百聞は一見にしかず。上の動画をご覧ください。

水溶液を満たした迷路に赤色の油滴を落とすと、自発的に動いてゴールにたどり着くという、驚きの様子が収められています。

良く見てもらえれば分かりますが、一度間違ったルートに入っても、いずれ正しいルートに戻ってきます。結果として油滴は、ほぼ最短ルートを進んで迷路を解きます

この驚くべき現象、一体全体どんなカラクリになってるのでしょうか?

理解のキーポイントは、以下の二点になります。

  1. 迷路にpH勾配を付けてある
  2. pH勾配を表面張力の差に変換する仕組みを使って、油滴を動かしている

まず①ですが、迷路には水酸化カリウム水溶液(pH 12)が満たされています。そして出口には、塩酸(pH 1)を含むゲルが置かれます。

するとゲルからじわじわと塩酸が拡散し、以下の模式図で示すように、出口がもっとも酸性(低pH)、入口がもっともアルカリ性(高pH)の強い迷路が出来上がります(赤色が濃い部分ほどpHが低い)。入口~出口を結ぶ最短ルートだけが、凹凸の無い単調なpH勾配を持つことに注意してください。

続いて②ですが、実は油滴に仕掛けがしてあります。着色料に加えて、脂肪酸 (2-ヘキシルデカン酸, HDA)が溶かしてあります。

迷路上に油滴を落とすと、脂肪酸が水溶液に染みだしてきます。アルカリ性溶液では脱プロトン化を受け、イオン体となります。イオン体となった脂肪酸は、界面活性剤として働き、油滴周りの表面張力を低下させます。このため、溶液のpHが高いほど表面張力が低く、pHが低いほど表面張力が高くなる、という状況が油滴の周りで生じます。こうして、表面張力の高い方(=pHの低い方)に引きずられる形で、油滴が動くことになります。

maze_3.gif
子供の頃、「洗剤をたらすと、水面に浮かんだものが動く」のを見た覚えは無いでしょうか? 大まかには、あれと同じ原理です。以下はその実際例。ちなみにもっと詳細な理屈については、論文上で数式を使った説明がなされています。ちょっと複雑すぎるので、ここではこの程度にとどめておきましょう。
この迷路設計では「間違ったルート=pHが高くなる方向」となっています。このため間違ったルートに入ると、必然的に逆方向の力がかかるようになっています。結果として、正しいルートに押し戻されていくわけですね。
この手法は原理上、適用可能な迷路の大きさに制限があるようです。できるpH勾配が緩やか過ぎるため、上手く機能してくれないのだとか。さらに一般化するには、別の手法が必要となるようです。

一流ジャーナルに載っている最先端研究ですが、根本原理自体は、実は小学生でも実感できるもの、という事実には全く驚きです。大発見の種は、まだまだそこら中に転がっているのでしょうね。

関連リンク

cosine

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 特許取得のための手続き
  2. アメリカで Ph.D. を取る –奨学金を申請するの巻–
  3. ベンゼン環が壊れた?!ー小分子を活性化するー
  4. YADOKARI-XG 2009
  5. 分子で作る惑星、その名もナノサターン!
  6. 【マイクロ波化学(株)環境/化学分野向けウェビナー】 #CO2削…
  7. ノーベル賞化学者に会いに行こう!「リンダウ・ノーベル賞受賞者会議…
  8. PACIFICHEM2010に参加してきました!④

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. ヘキサニトロヘキサアザイソウルチタン / Hexanitrohexaazaisowurtzitane (HNIW)
  2. 取扱いが容易なトリフルオロアセチル化試薬
  3. パール・クノール チオフェン合成 Paal-Knorr Thiophene Synthesis
  4. 花王の多彩な研究成果・研究支援が発表
  5. 光刺激に応答して形状を変化させる高分子の合成
  6. コロナワクチン接種の体験談【化学者のつぶやき】
  7. ICMSE International Conference on Molecular Systems Engineering
  8. ビジネスが科学を待っている ー「バイオ」と「脱炭素」ー
  9. ピナー反応 Pinner Reaction
  10. varietyの使い方

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

注目情報

注目情報

最新記事

【ケムステSlackに訊いてみた⑤】再現性が取れなくなった!どうしてる?

日本初のオープン化学コミュニティ・ケムステSlackの質問チャンネルに流れてきたQ&Aの紹介…

但馬 敬介 Keisuke TAJIMA

但馬 敬介(TAJIMA Keisuke, 1974年7月23日 – )は、日本の高分子化学者である…

Carl Boschの人生 その10

Tshozoです。このシリーズも10回を迎えましたが筆者の人生は進んでいません。先日気づいた…

「つける」と「はがす」の新技術|分子接合と表面制御 R3

開講期間令和3(2021)年  9月8日(水)、9日(木)(計2日間)※状況により、we…

第19回ケムステVシンポ「化学者だって起業するっつーの」を開催します!

少し前に化学者のつぶやきからこのような記事が出ました:【ケムステSlackに訊いて見た④】化学系学生…

10種類のスパチュラを試してみた

大好評、「試してみた」シリーズの第6弾。今回は試薬の秤量にか欠かせない、…

第48回「分子の光応答に基づく新現象・新機能の創出」森本 正和 教授

久々の研究者へのインタビューです。第48回は、立教大学の森本正和先生にお願いいたしました。第17回ケ…

畠山琢次 Takuji Hatakeyama

畠山琢次 (はたけやま たくじ)は、日本の化学者である。専門は有機合成化学,材料化学。2021年現在…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP