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化学ベンチャーが食品/医薬/化粧品業界向けに温度検知ゲル「Thermo Tracker(サーモトラッカー)」を開発

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化学ベンチャー企業のフューチャーカラーマテリアルズ株式会社は、0~20℃、10~30℃の2つの温度幅でグラデーションを伴った明瞭な色変化を示すゲルを開発しました。(PR TIMES:3月3日)

少し前に宅配業者が冷凍の荷物を常温に取り扱っていたことが問題になったように、荷物が届く直前の温度は受け取る際に確認できますが、配送中の管理温度を知ることは容易ではありません。そんな温度の履歴を色の変化によって知ることができる温度検知ゲル、Thermo Trackerが開発されました。

Thermo Trackerは特定の温度になると青色から紫や赤色に変化します。温度で色が可逆的に変化する物質は広く存在しますが、Thermo Trackerは一度高温側に色が変化すると、低温に戻しても戻らない不可逆的な挙動示します。そのため温度管理に活用が期待されています。例えば、温度が上昇すると劣化してしまう食品や医薬品、化粧品を配送する際にこのThermo Trackerを同封し、届くまでに適切な温度で管理されていて使用しても問題ないかどうかをThermo Trackerの色で判断することができます。

Thermo Trackerの色の変化

Thermo Trackerには、0~20℃の間で色変化するTT-20FCと、10~30℃の間で色変化するTT-30FCの2つが開発されていてTT-20FCは冷蔵品の管理に、TT-30FCは、涼しいところで保管するような品物の管理に使えるのではないかと思います。

色が変化する温度帯(出典:PRTIMES

このThermo Trackerを開発したのは化学ベンチャーのフューチャーカラーマテリアルズ株式会社で、コロイド技術を使った応用研究を行っているようです。技術の詳細は公開されていませんが、プレスリリースによると温度変化により不可逆的に色相を変える色素をナノサイズまで微細化し、高分子ゲルに分散させた商品とのことです。温度によって色が変わる現象はサーモクロミズムと呼ばれ、分子の構造が変化することで光の吸収波長が変わり色が変わるという仕組みです。構造変化は様々な場合があり、錯体の配位の形が変わる場合や結合部位が変化する場合、モノマーが結合してポリマーに変化する場合などがあります。

銅-N,N-ジエチルエチレンジアミン錯体の温度による変化

この現象を応用した製品が示温ラベルと呼ばれるもので、貼られたところの温度が上昇すると色が可逆/不可逆的に変化するものです。ただし不可逆的変化のタイプでは、50度以上の室温より高いタイプばかりでThermo Trackerのような低温に対応した製品は商品化されていないようです。

アセイ工業のサーモカラーセンサー 5温表示タイプ(出典:モノタロウ

海外に目を向けると、米FDA(Food and Drug Administration)や欧州GDP(Good Disrtibution Practice)による食料品・医薬品の貨物規制強化に伴い、温度管理も重要性を増しているようです。そのため、このような製品はTime temperature indicatorsと呼ばれ、世界的に研究開発が続けられています。例えば3Mは、MonitorMarkという商品を販売していて、これは、既定の温度より低温だとインジケーターの色が変わり、高温になると色の変化が止まるため、低温だった時間を記録されるものです。

3MのMonitorMark、温度によって係数が決まっていて、それにより1から5を低温保持時間に読み替える。

またイスラエルのEVIGENCEでは、高温で保管するほど早く色が変わるインジケーターを開発しています。

さらに、アメリカのSpotSeeでは、既定温度より高温だった時間を三段階で示すインジケーターを販売しています。

これらの類似技術と比較してThermo Trackerは、色の違いによって最高到達温度を確認できることが新規性があります。また、ステッカー型の商品が多い中、ゲルを封入したパック型の製品で、商品自体に張り付ける必要がないため商品の梱包時に簡単に入れられるメリットがあると思います。一方、高温にどれくらいの時間さらされると色が変化するのかが気になるところです。一瞬の高温も許さないものもあれば、短時間であれば許容される場合もあり、それぞれに対応したインジケーターが開発されれば応用範囲が広がると考えられます。インジケーターによっては水銀を使っている商品もあり、Thermo Trackerの色素の安全性や廃棄性についても気になるところです。

温度を測定して記録することは、熱電対を使えば簡単にできますが、ボトル一つ一つに小型電子デバイスを装備することはコストの面で現実的ではありません。また、輸送の効率向上が求められているため、細かく温度をチェックすることは難しくなっています。そんな中、外部刺激による分子の構造変化を色の変化に変換して目視で確認する技術は、積極的に活用すべきであり、いろいろな応用開発が発展してほしいと思います。分子構造の変化において可逆変化が重要視されますが、不可逆のほうが重要である応用があることも、興味深い点です。

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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