[スポンサーリンク]

元素

ヘリウム Helium -空気より軽い! 超伝導磁石の冷却材

[スポンサーリンク]

ヘリウムといえば、声のトーンを変える不思議な気体「ヘリウムガス」が有名です。みなさんも一度は試したことがあるでしょう。このヘリウムは、分析機器などの冷却材としてなくてはならないものです。

ヘリウムの基本物性データ

分類 非金属、希ガス
原子番号・原子量 2 (4.002602)
電子配置 1s2
密度 0.1785kg/m3
融点 –272.2℃
沸点 –268.93℃
硬度
色・形状 無色・気体
存在度 地球 —、宇宙2.72 x 109
クラーク数 8×10-7%
発見者 エドワード・フランクランド、ノーマン・ロッキャー(1868年)
主な同位体 3He(0.000137%%)、4H3(99.9998630%)、6He(β, 0.807秒)
用途例 冷却材(液体He)、浮揚用ガス(He)、呼吸用ボンベ(O2 +He)
前後の元素 水素ヘリウムリチウム

最も低い沸点を持つ元素

ヘリウムは、1868年にイギリスの天文学者ロッキャーがインドで皆既日食を観測していた際、太陽光のスペクトル線の中から発見しました。その際、ギリシャ語の太陽を意味するheliosからヘリウム(Helium)と名付けられました。

無色・無臭で、すべての元素の中で最も低い沸点を有します。絶対零度(ー273.15℃)でも液体のままであり、加圧をしなければ固体になりません。

ヘリウムの存在量は、宇宙空間においては水素につで2番目に多いのですが、空気中には極微量しか含まれていません。そのため、工業的に使用されるヘリウムは、アメリカの特定の地域で産出される天然ガスより分離して得ています。

ちなみに、「〜ウム」という名前は通常ならば金属元素に付けられる名前ですが、発見当初ヘリウムは金属と推測されてしまいました。本来はhelionとすべきでした。なぜなら希ガス元素の接尾語は-onだからです(argon, neon, krypton, xenon)。実際helionに訂正すべきとの主張もあったようですが、残念ながら受け入れられていません(関連記事:もし新元素に命名することになったら)。

 

ノーマン・ロッキャー

Norman Lockyer

1836-1920年。イギリスの天文学者。太陽の黒点の研究などが有名。1869年に現在でも非常に有名な週間自然科学雑誌である「ネイチャー」(Nature)を創刊した。1913年には、ノーマン・ロッキャー天文台を設立している。

 

気球や飛行船を浮かす気体

ヘリウムは水素の次に軽い気体です。空気よりも軽いので、気球にヘリウムガスをつめることによって空を飛ぶことができます。

以前は水素も気球に用いられていましたが、水素は発火すると爆発する危険があるため、現在では安全なヘリウム気球がほとんどです。

縁日などでもらう風船にもヘリウムが入っていますが、水素と異なり安定な気体であるため、安全です。

ヘリウムは風船のゴム繊維より小さいため、徐々に抜け出て、次の日には萎んでしまう。

ヘリウム風船:ヘリウムは風船のゴム繊維より小さいため、徐々に抜け出て、次の日には萎んでしまう。

 

声が変わる気体ーねぜ声が変わるの?

スプレー缶に入ったヘリウムガスを吸い込むと、どうしてアヒルのような声に変わるのでしょうか。ヘリウムがノドの何かを刺激・麻痺させるから…

ではありません。

ヘリウムガスは空気より密度が小さいので、声帯の発した音の伝達速度が早くなります。そのため声の波長が短くなって、そとに響く音は高い音になるのです。ただし、スプレー缶にはいっているのはヘリウムと酸素の混合気体ですが、風船に入っているヘリウムはヘリウム100%です。風船の中のヘリウムは吸ってはいけません。

ヘリウムによる声変わりのメカニズム

ヘリウムによる声変わりのメカニズム

 

超伝導の発見につながった最強の冷却材

ヘリウムはすべての元素の中でも最も低い融点、沸点を有するため、なかなか液化できずにいました。

1908年、ようやくオランダのカマリング・オネス(Kamerlingh Onnes)が、冷却と加圧を繰り返すことでヘリウムを液化することに成功しました。

その温度は約–269℃という非常に低い温度。この液体ヘリウムにより、人類は最強の冷却材を手に入れることができたのです。

この冷却材を利用して、極低温下の金属物性の研究を続けた結果、1911年、ある温度において水銀の電気抵抗が突然ゼロになるという現象(超伝導)が発見されました。

ただし、現在は、高温超伝導体*などの発見により、高価な液体ヘリウムは使わない方向で研究が進んでいます。

2015-12-30_17-44-39

 時速500km/h 以上での草稿を可能とする超伝導磁気浮上式リニアモーターカーや、磁気共鳴現象を利用して疾患状態をデジタル画像で映し出すMRI(磁気共鳴映像装置)、同じ現象を利用して化合物の構造を測定する核磁気共鳴装置(NMR)などに使われる超伝導マグネットの冷却材として、液体ヘリウムが使われている。

 

*高温超伝導体:超電導になる転移温度が高い超伝導物質のこと。一般的には、転移温度が液体窒素温度を超えるものを指す。

 

ヘリウム不足?脱ヘリウムへの道

ヘリウム は米国のほかカタール、アルジェリア、英国、ロシアなど6ヵ国しか採取できないレアガス。それでも、上述したように多くの産業に多用されています。2012年の後半に起こったヘリウム不足は、風船用のヘリウムすら発売中止になったほどでした。現に東京ディズニーランドのヘリウム風船の販売が中止に追い込まれたほどです。日本のヘリウムは100%輸入に頼っていて、米国からの輸入が95%。現在(2016年1月)ではヘリウム供給は安定に行われていますが、可採年数は25年ともいわれています。ヘリウムを使わない技術革新が近い将来必要となるかもしれません。

 

ヘリウムの用途別販売量(出典:岩谷産業)

ヘリウムの用途別販売量(出典:岩谷産業)

 

ヘリウムに関するケムステ関連記事

 

関連動画

 

関連書籍

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. ペッカ・ピューッコ Pekka Pyykkö
  2. 元素名を名字にお持ちの方〜
  3. マグネシウム Magnesium-にがりの成分から軽量化合物材料…
  4. フッ素 Fluorine -水をはじく?歯磨き粉や樹脂への応用
  5. 元素占いはいかが?
  6. 【速報】新元素4つの名称が発表:日本発113番元素は「ニホニウム…
  7. 周期表の歴史を振り返る【周期表生誕 150 周年特別企画】
  8. 112番元素にコペルニクスに因んだ名前を提案

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 杏林製薬、ノバルティス社と免疫抑制剤「KRP-203」に関するライセンス契約を締結
  2. 有機化学美術館へようこそ―分子の世界の造形とドラマ
  3. アスピリンの合成実験 〜はじめての化学合成〜
  4. 有機合成化学協会誌2021年11月号:英文特集号 Special Issue in English
  5. 明るい未来へ~有機薄膜太陽電池でエネルギー変換効率7.4%~
  6. 住友化学の9月中間営業益は+20.5%、精密・医薬など好調で
  7. 今冬注目の有機化学書籍3本!
  8. 2つ輪っかで何作ろう?
  9. 第89回―「タンパク質間相互作用阻害や自己集積を生み出す低分子」Andrew Wilson教授
  10. テトラセノマイシン類の全合成

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年1月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

カルボン酸β位のC–Hをベターに臭素化できる配位子さん!

カルボン酸のb位C(sp3)–H結合を直接臭素化できるイソキノリン配位子が開発された。イソキノリンに…

【12月開催】第十四回 マツモトファインケミカル技術セミナー   有機金属化合物 オルガチックスの性状、反応性とその用途

■セミナー概要当社ではチタン、ジルコニウム、アルミニウム、ケイ素等の有機金属化合物を“オルガチッ…

保護基の使用を最小限に抑えたペプチド伸長反応の開発

第584回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院 薬学系研究科 有機合成化学教室(金井研究室)の…

【ナード研究所】新卒採用情報(2025年卒)

NARDでの業務は、「研究すること」。入社から、30代・40代・50代……

書類選考は3分で決まる!面接に進める人、進めない人

人事担当者は面接に進む人、進まない人をどう判断しているのか?転職活動中の方から、…

期待度⭘!サンドイッチ化合物の新顔「シクロセン」

π共役系配位子と金属が交互に配位しながら環を形成したサンドイッチ化合物の合成が達成された。嵩高い置換…

塩基が肝!シクロヘキセンのcis-1,3-カルボホウ素化反応

ニッケル触媒を用いたシクロヘキセンの位置および立体選択的なカルボホウ素化反応が開発された。用いる塩基…

中国へ行ってきました 西安・上海・北京編①

2015年(もう8年前ですね)、中国に講演旅行に行った際に記事を書きました(実は途中で断念し最後まで…

アゾ重合開始剤の特徴と選び方

ラジカル重合はビニルモノマーなどの重合に用いられる方法で、開始反応、成長反応、停止反応を素反応とする…

先端事例から深掘りする、マテリアルズ・インフォマティクスと計算科学の融合

開催日:2023/12/20 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の影…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP