[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

イミデートラジカルを用いた多置換アミノアルコール合成

[スポンサーリンク]

イミデートラジカルを用い、一挙に多置換アミノアルコールを合成する方法が開発された。穏和な条件かつ位置選択性の高い合成法である。

イミデートラジカルを用いたβアミノアルコール合成

 βアミノアルコールは天然物や医農薬に頻出する重要骨格であり、その合成法は精力的に研究されている(1)。βアミノアルコールを合成する手法として、イミデートラジカルによる位置選択的アミノ化反応がある。先駆的な例として1993年にRowbottomらはイミデートラジカル2aを用いた、アリルアルコールのアミノハロゲン化を初めて達成した(1A)(2)2017年にオハイオ州立大学のNagib助教授らは、イミデートラジカル2bを用いたアルコールのβ位選択的C(sp3)Hアミノ化反応を報告した(1B)(3)。本反応は、可視光照射下、イミデート1bから2bが生じ、1,5-水素移動(HAT)を経てβ位に炭素ラジカルが発生する。その後、環化により生じるオキサゾリン3bを加水分解することで、βアミノアルコール4bが合成できる。同年Heらもイミデート1cに対しNISを作用させイミデートラジカル2cを発生させることで、可視光非照射下でもアルコールのβ位選択的C(sp3)Hアミノ化反応が進行することを示した(1C)(4)。また類似反応として、Nagibらは可視光照射下、イミデートを用いたアルコールのβ位選択的C(sp3)–Hジハロゲン化にも成功している(5)

 今回Nagibらは、イミデートラジカル2dを利用し、位置選択的アミノ化に続く官能基化により多置換アミノアルコール5を合成する方法を開発したので紹介する(1D)

図1. イミデートラジカルを利用したβ-アミノアルコール合成

Catalytic Alkene Difunctionalization via Imidate Radicals

Nakafuku, M. K.; Fosu, C. S.; Nagib, A. J. Am. Chem. Soc. 2018, 140, 11202. DOI: 10.1021/jacs.8b07578

論文著者の紹介

研究者:David A. Nagib

研究者の経歴:
-2006 BSc, Boston College  (Prof. Scott J. Miller)
2006-2011 Ph.D, Princeton University (Prof. David W. C. MacMillan)
2011-2014 Posdoc, University of California, Berkeley (Prof. F. Dean Toste)
2014- Assistant Professor at Ohio State University

研究内容:穏和なラジカル発生法にもとづく化学選択的変換法の開発

論文の概要

 アリルイミデート1dに対し青色LED照射下、アミンとIr光触媒を作用させることでイミデートラジカル2dが発生する。その後環化を経て生じる炭素ラジカルを捕捉することで、多置換アミノアルコール5の合成に成功した(2A, B)。ラジカル捕捉剤を変更することで、ヒドロアミノ化、アミノアルキル化、アミノアリール化を可能とした(2C)。穏和な条件で反応が進行するため官能基許容性が高く、5e5fのようにクロロ基やシリル基を有する基質でも反応は進行する。5hのような第二級アルコールのヒドロアミノ化は、オキサゾリン中間体の5員環による幾何学的制約のためsyn選択的に進行する。また、5hのようにヒドロキシ基のβ位にC(sp3)Hとオレフィンの両方が存在する場合にも、アルコールのβ位選択的C(sp3)Hアミノ化は起こらず、本反応のみが進行する。

 以上のように、イミデートラジカルを用い、一挙に多置換アミノアルコールを合成する方法が開発された。穏和な条件下、β位、γ位に官能基を持つアルコールを高い位置選択性をもって一挙に合成できたことが、本論文の特筆すべき点であると言える。

図2. 多置換アミノアルコール合成

 

参考文献

  1. (a) Ager, D. J.; Prakash, I.; Schaad, D. R. Chem. Rev.1996, 96, 835. DOI:10.1021/cr9500038(b) Bergmeier, S. C. Tetrahedron 2000, 56, 2561. DOI:10.1016/S0040-4020(00)00149-6(c) Karjalainen, O. K.; Koskinen, A. M. P. Org. Biomol. Chem. 2012, 10, 4311. DOI:10.1039/c2ob25357g
  2. Glover, S. A.; Hammond, G. P.; Harman, D. G.; Mills, J. G.; Rowbottom, C. A. Aust. J. Chem.1993,46, 1213. DOI:10.1071/CH9931213
  3. Wappes, E. A.; Nakafuku, K. M.; Nagib, D. A. J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 10204. DOI:10.1021/jacs.7b05214 ケムステ記事:イミデートラジカルを経由するアルコールのβ位選択的C-Hアミノ化反応
  4. Mou, X. Q.; Chen, X. Y.; Chen, G.; He, G. Chem. Commun. 2018, 54,515. DOI:10.1039/c7cc08897c
  5. Wappes, E. A.; Vanitcha, A.; Nagib, D. A. Chem. Sci. 2018, 9, 4500. DOI:10.1039/c8sc01214h

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. Dead Endを回避せよ!「全合成・極限からの一手」⑦
  2. GRE Chemistry 受験報告 –試験当日·結果発表編–
  3. 有機ナノチューブの新規合成法の開発
  4. 【速報】2018年ノーベル化学賞は「進化分子工学研究への貢献」に…
  5. 1,3-ジエン類のcine置換型ヘテロアリールホウ素化反応
  6. 君には電子のワルツが見えるかな
  7. 宇宙で結晶化!? 創薬研究を支援する結晶生成サービス「Kira…
  8. 「ハーバー・ボッシュ法を超えるアンモニア合成法への挑戦」を聴講し…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. アメリカ大学院留学:卒業後の進路とインダストリー就活(2)
  2. アルゴン (argon; Ar)
  3. 自己会合・解離機構に基づく蛍光応答性プローブを用いたエクソソーム高感度検出
  4. 立体規則性および配列を制御した新しい高分子合成法
  5. MOF の実用化のはなし【京大発のスタートアップ Atomis を訪問して】
  6. 力学的エネルギーで”逆”クリック!
  7. 立体電子効果―三次元の有機電子論
  8. 2016年化学10大ニュース
  9. 伝わるデザインの基本 増補改訂3版 よい資料を作るためのレイアウトのルール
  10. 第33回ケムステVシンポ「研究DXとラボラトリーオートメーション」を開催します!

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2018年10月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

注目情報

最新記事

超塩基に匹敵する強塩基性をもつチタン酸バリウム酸窒化物の合成

第604回のスポットライトリサーチは、東京工業大学 元素戦略MDX研究センターの宮﨑 雅義(みやざぎ…

ニキビ治療薬の成分が発がん性物質に変化?検査会社が注意喚起

2024年3月7日、ブルームバーグ・ニュース及び Yahoo! ニュースに以下の…

ガラスのように透明で曲げられるエアロゲル ―高性能透明断熱材として期待―

第603回のスポットライトリサーチは、ティエムファクトリ株式会社の上岡 良太(うえおか りょうた)さ…

有機合成化学協会誌2024年3月号:遠隔位電子チューニング・含窒素芳香族化合物・ジベンゾクリセン・ロタキサン・近赤外光材料

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年3月号がオンライン公開されています。…

日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part3

日本化学会年会の付設展示会に出展する企業とのコラボです。第一弾・第二弾につづいて…

ペロブスカイト太陽電池の学理と技術: カーボンニュートラルを担う国産グリーンテクノロジー (CSJカレントレビュー: 48)

(さらに…)…

日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part2

前回の第一弾に続いて第二弾。日本化学会年会の付設展示会に出展する企業との…

CIPイノベーション共創プログラム「世界に躍進する創薬・バイオベンチャーの新たな戦略」

日本化学会第104春季年会(2024)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「世界に躍進…

日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part1

今年も始まりました日本化学会春季年会。対面で復活して2年めですね。今年は…

マテリアルズ・インフォマティクスの推進成功事例 -なぜあの企業は最短でMI推進を成功させたのか?-

開催日:2024/03/21 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の影…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP