[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

13族元素含有ベンゼンの合成と性質の解明

 

最近めっきり寒くなり、秋から冬への移り変わりを感じます。さて、第5回目となるスポットライトリサーチは、中央大学理工学部応用化学科有機元素化学研究室(山下研究室)、博士課程1年の仲村太智さんにお願いしました。仲村さんの研究は、前回のスポットライトリサーチと類似していますが、有機化学の主役である炭素を「何か」に変える研究。今回はベンゼンのC-Hをひとつアルミニウムとガリウムに変えた化合物つくって、性質を解明したものです。今年の有機金属討論会で見事ポスター賞を受賞されたため、今回の紹介に至っています。

主宰教授の山下誠先生は東京大学講師時代に研究者へのインタビューにも答えていただきました(関連記事:第九回 均一系触媒で石油化学に変革を目指すー山下誠講師)。山下先生いわく、仲村君は、実際に研究を始めてから、化学の面白さと深さに魅せられてしまったとおっしゃっています。今回の研究につながる「予期せぬ副生成物」に興味を示し、あっという間に副生成物を主生成物としてしまったとのこと。私立大学では博士課程へ進学する学生が少ない中で、研究室を引っ張る頼もしい学生として活躍しているそうです。

では、今回のスポットライトリサーチの対象となった仲村さんの研究について話を伺いましょう。

 

Q1. 本研究はどんな研究ですか?簡単に説明してください

ベンゼンの1つのCHを高周期13族元素で置き換えたベンゼンの合成と性質の解明」です(図1)。

ベンゼンの1つのCHを窒素で置き換えたピリジンがベンゼンとは全く異なる性質を示すように、ベンゼンへの炭素以外の元素の導入は興味深い構造や性質が期待できます。13族元素においては第二周期のホウ素を骨格に含むベンゼンが古くから研究されてきました。ところが13族の高周期元素においては、ガリウム含有ベンゼンの溶液中での発生がNMRで観測されているのみで、知見が極めて限られていました。

そこで本研究では、アルミニウムを骨格に含むベンゼンであるアニオン性アルミナベンゼンと、ガリウムを骨格に含むアニオン性ガラベンゼンの合成・単離と性質の解明に成功しました[1]。またこれらのベンゼンの特徴として芳香族構造Aと非芳香族構造Bの共鳴構造を持っていることを明らかにしました。

2015-10-26_17-12-14

図1 アニオン性のアルミナベンゼンおよびガラベンゼンの合成と共鳴構造

 

Q2. 本研究テーマについて、工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください

元々はアルミニウム含有ベンゼンの合成は全く考えておらず、違う化合物の合成を目的に研究を行っていましたが、その過程でアルミニウムが入った六員環の形成反応を偶然見つけることができました(図2)。

アルキンのヒドロアルミニウム化後に、アルミニウムからスズにトランスメタル化させようと考えスズを入れたところ、溶媒留去後の反応混合物が固化し、再結晶を行うことで運良く結晶が得られました。そしてX線構造解析からスズではなくアルミニウムが入った六員環を確認することができました。

その後、最初は再現性がなかなかとれませんでしたが、試薬の当量を少しずつ変えて条件検討することで再現良くこの六員環が得られるようになりました。この反応の機構は未解明であり、今後解明していきたいと考えています。このアルミニウム含有六員環形成反応の発見が鍵となり今回のアルミニウムやガリウム含有ベンゼンの研究が始まりました。

2015-10-26_17-13-07

図2 アルミニウム含有六員環生成反応

 

Q3. 研究テーマの難しかったところ、またそれをどのように乗り越えたか教えてください。

アルミナベンゼンとガラベンゼンの芳香族性についてどう表現したらいいかが難しかったです。X線構造解析で得られた構造において六員環のAl-CやGa-C結合はこれらの単結合より短くなっており、理論計算からもこの結合の結合次数が単結合より大きい値であったため、芳香族構造Aを持つことが明らかとなりました。しかし、多くの芳香族化合物が示す、負のNICS値(計算で求めた芳香族環電流による遮蔽効果の度合い、絶対値が大きいほど遮蔽効果が大きい)がベンゼンや他の芳香族化合物より小さな絶対値を持っていたことから明確には芳香族化合物と言えない結果でした。

この結果について、学会でいろいろな方からアドバイスを頂いたり、指導教員とよく話し合ったりすることで、芳香族構造Aの他にルイス酸とペンタジエニルに分離した非芳香族の共鳴構造Bを持つのではないかと考えるようになりました。

そこで反応性について検討を行うと、アニオン性アルミナベンゼンのアルミニウムはルイス酸性を持つこと、ペンタジエニルアニオン部位に求核性があることがわかり(図3)、共鳴構造Bの存在を証明できました。これによりNICS値が負に小さい値であることが説明できました。

 

図3 アニオン性アルミナベンゼンの反応性

図3 アニオン性アルミナベンゼンの反応性

 

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

化学の深い知識を持っていない一般の方の常識を変えるような物や物質を創りたいです。例えば、ガラスの代わりに多くの場所で使われている、ポリメタクリル酸メチルくらいの物が創りだせたら最高ですね。身近な物を変えることで多くの人に化学に興味を持ってくれたらいいな、と思っています。

 

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

僕はアイデアをたくさん出すことが大切だと思っています。研究を始めた頃は指導者のアイデアに従って研究を進めることが多いと思いますが、自分で出したアイデアで指導者をギャフンと言わせてやろうと思うくらいでいいかと思います。たとえ実験がうまくいかなくても、やり残しているアイデアがある限りモチベーションを保てるんじゃないでしょうか。言われたこと以上にこっそり実験をやってしまいましょう!

 

参考文献

  1. (a) Nakamura, T.; Suzuki, K.; Yamashita, M. Organometallics 2015, 34, 1806. DOI: 10.1021/acs.organomet.5b00310 (b) Nakamura, T.; Suzuki, K.; Yamashita, M. Organometallics 2015, 34, 813. DOI: 10.1021/acs.organomet.5b00073 (c) Nakamura, T.; Suzuki, K.; Yamashita, M. J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 9276. DOI: 10.1021/acs.organomet.5b00310

 

研究者の略歴

仲村 太智

2015-10-31_20-09-00所属:中央大学大学院理工学研究科 有機元素化学研究室 博士後期課程1年

テーマ:13族元素含有ベンゼンの合成と性質の解明

経歴:1989年長野県飯田市生まれ。2013年3月中央大学応用化学科卒業、2013年4月同大学修士課程に進学、2015年4月同大学博士課程に進学。2013年第40回有機典型元素化学討論会優秀講演賞、2014年錯体化学会第64回討論会ポスター賞、2015年第62回有機金属化学討論会ポスター賞。

 

The following two tabs change content below.
webmaster
Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 今年は共有結合100周年ールイスの構造式の物語
  2. Wolfram|Alphaでお手軽物性チェック!「Reagent…
  3. 化学者たちのエッセイ集【Part1】
  4. 資金洗浄のススメ~化学的な意味で~
  5. “マイクロプラスチック”が海をただよう …
  6. 若手研究者vsノーベル賞受賞者 【化学者とは?!編】
  7. Nature Chemistry:Research Highli…
  8. 高分子鎖を簡単に垂直に立てる -表面偏析と自己組織化による高分子…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. クロム(η6-アレーン)カルボニル錯体 Cr(η6-arene)(CO)3 Complex
  2. FT-IR・ラマン ユーザーズフォーラム 2015
  3. N,N-ジメチルアセトアミドジメチルアセタール : N,N-Dimethylacetamide Dimethyl Acetal
  4. デーブナー・フォン=ミラー キノリン合成 Doebner-von Miller quinoline synthesis
  5. 英文読解の負担を減らすマウスオーバー辞書
  6. 最新 創薬化学 ~探索研究から開発まで~
  7. ベンゼン環が壊れた?!ー小分子を活性化するー
  8. 信越化学、日欧でセルロース増産投資・建材向け堅調
  9. 鉄とヒ素から広がる夢の世界
  10. 中学入試における化学を調べてみた 2013

関連商品

注目情報

注目情報

最新記事

北エステル化反応 Kita Esterification

概要ルテニウム触媒存在下、エチニルエチルエーテル試薬を脱水剤として用い、カルボン酸とアルコールか…

一人二役のフタルイミドが位置までも制御する

N-ヒドロキシフタルイミドを用いる逆マルコフニコフ型のヒドロアミノ化が報告された。遷移金属触媒および…

ジアゾニウム塩が開始剤と捕捉剤を“兼務”する

アリールジアゾニウム塩を用いたプレニルカルバマート/ウレアのシクロアミノジアゾ化反応が開発された。入…

パラジウム光触媒が促進するHAT過程:アルコールの脱水素反応への展開

2016年、イリノイ大学シカゴ校・Vladimir Gevorgyanらは、Pd(0)触媒の共存下、…

ウラジミール・ゲヴォルギャン Vladimir Gevorgyan

ウラジミール・ゲヴォルギャン(Vladimir Gevorgyan、1956年8月12日-)は、アメ…

有機合成化学協会誌2018年11月号:オープンアクセス・英文号!

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2018年11月号がオンライン公開されました。今月…

PAGE TOP