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日本人化学者インタビュー

第26回「分子集合体の極限に迫る」矢貝史樹准教授

 

最近頻繁に公開している研究者へのインタビュー。ご協力いただいた先生方には心より感謝申し上げます。さて、26回目のインタビューは第12回の伊藤肇教授からのご紹介で千葉大学の矢貝史樹准教授にお願いしました。分子レベルのソフトマテリアル創成研究で活躍する若手研究者であり、ウェブサイトのビジュアルと優れたアートワークからも自身で創成した分子集合体へのこだわりがみられます。2002年の千葉大着任当初から独立した研究成果を報告しており、今後が期待される注目の化学者です。それではいつもどおり化学者になった理由からお聞きしたいと思います。

 

Q. あなたが化学者になった理由は?

いくつか理由があります。まずは実家で両親が零細印刷会社を営んでいて、印刷工場にはインクがあふれていました。小さい頃はよく工場に行って働く父と母の邪魔をしていました。大きな印刷機械から綺麗に印刷された写真が出てくるのを見て、数十種類しかないインクを使って何故こんなに多彩な色が表現できるんだろう?と不思議に思っていました。父に、「3色でもできるさよ〜」と言われた時はインクの正体もわからずに理解に苦しみました。

もう一つは両親が厳しくてファミコンは買ってもらえなかったのですが、代わりに天体望遠鏡とか顕微鏡は買ってくれました。まずは小学校低学年の時に天体望遠鏡にチャレンジします。当時としてもかなり高性能な望遠鏡だったにも関わらず、小学生の私にはあこがれの土星の輪とか木星の渦を見つけ出す技術がありませんでした。そこで次に顕微鏡を買ってもらいました。家の隣の田んぼの透き通った水を一滴プレパラートに垂らして覗いた時に、素直に小さな宇宙だ!と思いました。蠢く微生物を沢山スケッチしますが、ある時ラッパにそっくりな変なヤツが視野を優雅に横切るのを発見します。ラッパの形そのものです。心臓の鼓動が聞こえるほど興奮したことを覚えています。

今の生活に例えると、Decision on manuscript…ってメールが届いた時のようなドキドキですね。それで、「ラッパムシ」と名付けて学校で友達に話しますが、誰も信じてくれません。後で教科書か何かで本当にラッパムシという輩がいることを知り、とても悔しくて、「生物で新しいことを発見するのは容易ではない」と感じます。

 

ラッパムシ(出展:Wikipedia)

ラッパムシ(出展:Wikipedia)

こんな風に物理(宇宙)と生物(ラッパムシ)に挫折して、何となく混ぜれば無限の色が創れそうな化学に興味を持ち始めました。ちなみに木星の渦は数年前大人買いした天体望遠鏡で見ることができました。今年は土星の輪に挑戦しようと思います。

 

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

体験してみたい職業はたくさんありますが、生業として自分に勤まりそうな職業となると、、、作曲家ですかね。実は頭の中をいつもメロディーが流れているので(おめでたい人ではありません)、これをきちんと曲にできれば生計くらいはたてられると思ってました。

でも実際、お!これはマジでいい旋律だな、と思ってきちんとメロディーを反芻してみると、どこかで聴いた曲なんですよね(笑)。やっぱり無理そうです。研究でも同じようなことがよく起こります。注意が必要です。

 

Q. 現在、どんな研究をしていますか?また、どのように展開していきたいですか?

色素やπ共役系低分子を超分子的手法(超分子エンジニアリング)により階層的に自己集合・自己組織化させ、エキゾチックなナノスケールの構造体や、様々な刺激に応答するソフトマテリアルを創っています。古典的手法を用いつつも、できるだけそれまでになかったような原理・現象・概念を見つけ出せるように努力しています。それで、いつか超分子とか自己集合に立脚したエンジニアリングがカバーできるテクノロジーの範囲を拡げることができればいいと思っています。

系は溶液に分散したナノ会合体であったり、ゲルや液晶であったり、様々です。10年ほど古典的な相補的水素結合を用いた研究を中心に展開してきましたが(総説:Bull. Chem. Soc. Jpn. 2015, 88, 28-58: open access DOI:10.1246/bcsj.20140261 )、最近は水素結合色を徐々に薄め、違ったデザインコンセプトを展開しようと色々と模索しています。例えば最近、複数の特異的分子間相互作用を拮抗させることで準安定集積構造をデザインし、機械的刺激に応答して相転移を起こす発光材料を開発しました(Nat. Commun. 2014, 5, article number: 4013. DOI: 10.1038/ncomms5013)。

特に昨年度から参画している新学術領域研究「π造形科学」では、同分野・異分野の素晴らしい研究者の方々と共同研究をする機会が与えられていますので、新しいことにチャレンジできると考えています。今は過渡期で次の10年は何ができるかと色々模索中ですが、日々研究に励んでいる学生さんがおかしな結果を見せに来てくれた時に、こりゃまた何か面白いことが始まりそうだな、と思ってワクワクしています。

Supramolecularly Engineered Functional π-Assemblies Based on Complementary Hydrogen-Bonding Interactions

Supramolecularly Engineered Functional π-Assemblies Based on Complementary Hydrogen-Bonding Interactions

 

Design Amphiphilic Dipolar Systems for Stimuli-Responsive Luminescent Materials Using Metastable States

Design Amphiphilic Dipolar Systems for Stimuli-Responsive Luminescent Materials Using Metastable States

 

Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

歴史上、というのを広義に捉えさせていただくと、私の祖父です。私が生まれた時にはもうこの世にいなかったのですが、小さい頃は町中どこにいっても名札(昔は個人情報を胸に付けて小学生が町中を走り回っていました)を見られ、「矢貝先生のお孫さん?」と言われました。初めはそれが鬱陶しかったのですが、いつだったか両親が祖父は校長先生だったことを教えてくれました。地元で多くの人の面倒を見ていた人物だったようです。それからは何かで悩んだとき、祖父の遺影に向かって問いかけ、自分なりの答えを見つけていたものです。こんな時じいちゃんはどうするだろう!?僕になんて言ってくれるだろう!?と、何かのアニメみたいですが、祖父に会いたくて会いたくて仕方がない時期もありました。仕事以外で人助けをする余裕は私には全くありませんので、いつか人の役に立つような研究ができればと思っています。

 

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

光学(偏光)顕微鏡による自己組織化材料の観察はしょっちゅうやってます。最近はAFMとかSEMとか簡単に測定できるようになってきているので、学生さんはすぐに小さい所(ナノ〜マイクロ構造)を見たがりますが、私はやはり、小さい頃の思い入れもあって光学顕微鏡が一番ワクワクします。ゲルや液晶やファイバーを偏光顕微鏡で観察すれば、構造に関する大まかな情報が得られます。学生さんが残念そうに「先生、真っ暗(暗視野)です」って時も、「え!?この分子構造で複屈折しない?ってことは、、、」と想像してワクワクします。そうやって学生さんががんばって作った化合物の一番面白い所を先に見つけちゃうのが密かな楽しみです。

 

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

音楽ならミニマルミュージックというスタイルが好きなので、ChicaneとかBrian Enoにしようかと迷いますが、砂漠の島という設定はあまりにも寂しそうなので、あややにします。古い?松浦亜弥さんです。昔から大ファンです。今こそすばらしい歌手さんですが、昔は完璧なアイドルだったんです。アイドル時代は実力が分かりにくい歌が多かったのですが、とにかく歌唱力の安定感がすばらしい。ああいう、どんな歌でも安定して唄える安定感のある歌手は好きですね。私も安定感のある研究者になりたいものです。

 

Q. 次にインタビューをして欲しい人を紹介してください。

まずは京都大学の大須賀篤弘先生です。実はかつて、大須賀研のポスドクになれるチャンスがあり、研究室を訪れたことがあります。大須賀先生の面接(?)は面白くて、2分ほど話したら「お前イイ!ウチ来い!」みたいな感じで。とても人を見る目がありますね。諸事情により残念ながら大須賀研で仕事をするチャンスはなくなってしまいましたが、その後も大須賀先生のダイナミックなお人柄とぶれない研究スタイルに注目しています。

 

もう一人、新学術領域研究「π造形科学」で一緒に研究している東工大の福島孝典先生です。福島さんは一緒にプロジェクトやっていてわかりますが、とにかく破格です。

 

さらにもう一人外せないのが、立命館大学の前田大光先生です。同時期に独立してから切磋琢磨してきており、もはや “メル友”と化しています。あらゆる面でのパワフルな仕事ぶりは圧巻です。

 

外部リンク

 

 関連書籍

 

矢貝史樹准教授の略歴

2015-03-20_18-22-35 千葉大学大学院工学研究科准教授。1998 立命館大学理工学部化学科を卒業後、修士課程に進学。 2000年に修士課程を終了し、同大学院博士課程に進み2002年に修了 。博士(理学)。同年に千葉大学工学部助手、 2007年、千葉大学工学部助教、 2010年より現所属、今に至る。その間、2006年より科学技術振興機構さきがけ研究員を兼務。受賞歴は2006年 日本化学会第20回若い世代の特別講演会、2009年 光化学協会奨励賞、2011年日本化学会進歩賞、文部科学大臣表彰若手科学者賞、2012千葉大学先進科学賞、2012年第14回花王研究奨励賞、第3回丸山記念研究奨励賞、2012年 積水化学 自然に学ぶものづくり研究助成プログラム奨励賞、2014 Asia Core Program Lectureship Awardなど

 

*本インタビューは2015年3月19日に行われたものです

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Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院准教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

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