[スポンサーリンク]

ケムステニュース

秋田の女子高生が「ヒル避け」特許を取得

[スポンサーリンク]

 

秋田県の金足農業高校の女子高生たちがやってくれました!

厄介者のヤマビルを追い払う忌避剤、名付けて”ダウンヒル”で特許を取得したというニュースが飛び込んできました。

 

 

ハイキングや農作業の途中に、衣類の隙間から入り込み、人の血を吸う「ヤマビル」。茂みや岩の下などいたるところに潜み、被害は、首都圏の山中にも広がっている。温度に敏感なヤマビルの特性を生かした「忌避剤」を金足農業高校(秋田市)の女子生徒らが開発し、特許が認められた。

生徒らと一緒に開発した、同校の元理科担当教師、田中大介さん(37)=現、大学共同利用機関法人自然科学研究機構、基礎生物学研究所助教=は「春になり、レジャーで山に入る機会が増える。有効な対策になると思う」と話している。特許が認められたのは先月29日で、今後、生産や販売方法などを検討する。

ヤマビルは動物の血を吸って繁殖。ミミズの仲間で体長は1・5~8センチ。田んぼにいる「ヒル」と違い、山間部に生息する。一度、吸われると、しばらく血が止まらない。エサを求めて里山に現れるようになったシカなどにくっついて移動し、人が出入りする里山にも増えてきた。

同校は2009年から忌避剤の研究を続けている。きっかけは、女子生徒が、地元の農家のヤマビル被害で農業を辞める人もいると授業で聞いたことだった。当時の生徒の一人は「農業高校の生徒として被害がたくさん出ていることを知り、ショックだった」。

 

朝日DIGITALより引用

 

先日は大分の高校生が特許を取得したというニュースをお伝えしましたが、今度は秋田立県金足農業高校の女子高生のみなさんの研究成果が特許として認められました。

 

彼女達が取り組んだのは“ヤマビル”です。いつの間にか体にくっついていて血を吸う厄介な生物です。吸血量はそれほどでもありませんが、ヒルジンというポリペプチドを唾液から分泌しており、このヒルジンは血液の凝固に関わるセリンプロテアーゼのトロンビンを阻害することによって出血が止まりにくくなってしまいます。
hiru1.png

 

細い線の化合物がヒルジン、大きなタンパク質がトロンビンWikipediaより引用

 

一般にヤマビルの忌避剤は市販されており、主にDEET (N,N-diethyl-3-methylbenzamide)を成分としたものがあります。

DEET.png

DEETの構造

今回金足農業高校の教員であった田中先生と、当時の学生であった上村わこさん、加藤愛咲さん、伊藤絵梨さんらが開発したのは、比較的身近にある物質を利用した忌避剤になります。特許[1]を拝見したところ、成分としてはサリチル酸2−ヒドロキシエチルバニリンもしくはL-メントールを混合したものがよい忌避率を示したことが記載されています。

 

repel.png

左からサリチル酸2−ヒドロキシエチル、バニリン、L-メントール

実験としては、ヤマビルを捕まえてきて、化合物をアッセイして忌避率の高い物を選抜していくという農薬(医薬品)の開発手順そのものです。比較的単純な化合物がヒットしたというのは彼女達の幸運のなせる技かもしれません。

製品がヤマビル被害で悩んでいる方々の役に立つといいですね。メンバーのうちの数人は秋田県立大学に進学されたようですので、これからの活躍にも期待しております。

 

関連文献

[1] 特開2012-097061

 

Avatar photo

ペリプラノン

投稿者の記事一覧

有機合成化学が専門。主に天然物化学、ケミカルバイオロジーについて書いていきたいと思います。

関連記事

  1. ノーベル化学賞明日発表
  2. ドミノ遊びのように炭素結合をつくる!?
  3. 花王の多彩な研究成果・研究支援が発表
  4. 高校生の「化学五輪」、2010年は日本で開催
  5. EU、玩具へのフタル酸エステル類の使用禁止
  6. 化学工場で膀胱がん、20人に…労災認定議論へ
  7. 第32回生体分子科学討論会 
  8. 112番元素にコペルニクスに因んだ名前を提案

注目情報

ピックアップ記事

  1. 三菱ガス化学と日清ファルマ、コエンザイムQ10の合弁事業を開始
  2. 呉羽化学、社名を「クレハ」に
  3. 有用なりん化合物
  4. ヘリウムガスのリサイクルに向けた検討がスタート
  5. Bayer Material Scienceの分離独立が語るもの
  6. 有機合成化学協会誌2023年6月号:環状ペプチド天然物・フロキサン分子・分子内パラジウム触媒移動機構・C(sp3)–H結合官能基化型環化反応・一置換アセチレン類
  7. 奇妙奇天烈!植物共生菌から「8の字」型の環を持つ謎の糖が発見
  8. 危険物データベース:第3類(自然発火性物質および禁水性物質)
  9. 【朗報】HGS分子構造模型が入手可能に!
  10. ノリッシュ反応 Norrish Reaction

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2013年4月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

最新記事

アクリルアミド類のanti-Michael型付加反応の開発ーPd触媒による反応中間体の安定性が鍵―

第622回のスポットライトリサーチは、東京理科大学大学院理学研究科(松田研究室)修士2年の茂呂 諒太…

エントロピーを表す記号はなぜSなのか

Tshozoです。エントロピーの後日談が8年経っても一向に進んでないのは私が熱力学に向いてないことの…

AI解析プラットフォーム Multi-Sigmaとは?

Multi-Sigmaは少ないデータからAIによる予測、要因分析、最適化まで解析可能なプラットフォー…

【11/20~22】第41回メディシナルケミストリーシンポジウム@京都

概要メディシナルケミストリーシンポジウムは、日本の創薬力の向上或いは関連研究分野…

有機電解合成のはなし ~アンモニア常温常圧合成のキー技術~

(出典:燃料アンモニアサプライチェーンの構築 | NEDO グリーンイノベーション基金)Ts…

光触媒でエステルを多電子還元する

第621回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域(魚住グループ)にて…

ケムステSlackが開設5周年を迎えました!

日本初の化学専用オープンコミュニティとして発足した「ケムステSlack」が、めで…

人事・DX推進のご担当者の方へ〜研究開発でDXを進めるには

開催日:2024/07/24 申込みはこちら■開催概要新たな技術が生まれ続けるVUCAな…

酵素を照らす新たな光!アミノ酸の酸化的クロスカップリング

酵素と可視光レドックス触媒を協働させる、アミノ酸の酸化的クロスカップリング反応が開発された。多様な非…

二元貴金属酸化物触媒によるC–H活性化: 分子状酸素を酸化剤とするアレーンとカルボン酸の酸化的カップリング

第620回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院工学研究院(本倉研究室)の長谷川 慎吾 助教…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP