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化学書籍レビュー

免疫(第6版): からだを護る不思議なしくみ

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免疫(第6版): からだを護る不思議なしくみ

免疫(第6版): からだを護る不思議なしくみ

純一, 矢田
¥1,980(as of 07/26 16:08)
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概要

ユニークなイラストで学ぶ免疫の入門書

著者のことばから:本書のコンセプトは免疫のしくみを最新の情報も踏まえてしっかりと,しかもわかりやすく読者に伝えることです.そこでなるべく専門用語は控え,表現も普通の言葉にして初学の方にも理解していただけるよう心掛けました.また第5版同様,擬人化したイラストも多用して理解を助けるようにしました.これから本格的に免疫学を学ぼうとしている方も,本書をあらかじめ通読して下さればその後の学習が容易になるのではと思います.(引用:東京化学同人

対象

本書の内容を理解するために、特定の分野の知識は必要ありませんが、体内の基本的な仕組みについて知っておくと読みやすいかと思います。構造式は一切登場せず、鍵と鍵穴、スイッチなどで各要素の分泌やその結合を示しています。そのため、それぞれの要素がどのような化学構造なのかを知っていると、イラストで描かれている要素の本当の形をイメージすることができより深く理解できると思います。

目次

  1. からだにおける免疫の役割
  2. 免疫ができるとは
  3. 抗体とは
  4. サイトカインとは
  5. リンパ球の種類とそのはたらき
  6. 病原微生物から身を護るしくみ
  7. 予防接種
  8. 免疫反応のブレーキ役
  9. 移植拒絶反応・輸血反応
  10. がんを抑える免疫
  11. アレルギー:困った免疫反応
  12. 自分には免疫反応を起こさないしくみ:免疫トレランス
  13. 自己免疫病
  14. 免疫不全症

解説

2020年はCOVID-19の流行から始まり、世界中の人々の生活を一変させました。人類はこのウィルスに勝つためにワクチンの開発を始め、2020年の終盤には数社でワクチンの製造を始めました。その後、ワクチンは各国で接種が始まり、日本では70%を超える人が2回の接種を完了しています。一言でワクチンの効果を説明すると、ワクチン接種で体内に免疫ができてウィルスに感染しにくくなるということですが、免疫とはいったいどういうものなのか、どうやって免疫はできるのか、免疫ができるとなぜウィルスに感染にくくなるのか。そんな疑問について調べるために本書を読んでみました。

目次の通り、本書では免疫に関係する内容を場面ごとに解説しています。内容は、第1章の免疫の基礎から始まり第2章から第5章までは、免疫に関係する体内の要素について説明されています。第2章において抗原とは何を指すのか、リンパ球、抗体、補体、マクロファージ、NK細胞、T細胞、MHCといった重要な要素について各論に入る前に、どのような機能を持っているかの説明がなされています。本書では見開きごとにイラストが加えられており、その中で多くの細胞は親しみやすいキャラクターになっていますが、第2章ではほとんどの細胞が全て登場し、以後の章で詳説する働きの基礎固めとしてを文章とキャラクター両面から解説しています。第3章では抗体、第4章ではサイトカイン、第5章ではリンパ球についてその働きを説明しています。ここまでで読み進めると何とかなく、各細胞がどんな目的をもって活動しているのかが理解できるようになったと感じました。

第6章から第8章では、実際に免疫を発揮する時の各細胞の振る舞いについて解説しています。細胞のキャラクターは、章を重ねるごとに活性化や自爆のためのボタン、レセプターといった細かい描写が追加され、絵としてはアンバランスですが読者の理解を助けています。文章は入門者向けですが、専門用語には妥協はなく読み返したり用語を調べたりすることで理解が含まると感じました。第7章では、話題のワクチンについて取り上げており、ワクチンの種類を知ることができます。第9章では血液型と輸血反応について取り上げています。血液型の違いの意味についてA、B、O、ABでどのように血液が違うのかから内容は入り、輸血への影響、さらには他者の臓器を移植するときに起こることを解説されています。第10章では、がんに特化してがんが厄介な理由とがんを攻撃するために開発された治療法を紹介しています。

第11章から第14章では、免疫自身が関連する病気について紹介しています。免疫の病気というと、免疫が暴走して自分自身を攻撃するぐらいの内容で一般的に理解されていると思いますが、病気別にどのようなことが体内で起きているかを解説しています。

著者は、東京医科歯科大学名誉教授の矢田純一氏で医師として臨床免疫学、小児科学を専門とされています。免疫に関する数多くの本を出版されており本書も第六版まで重ねています。イラストも著者本人が書かれているようで、そのため分かりやすく中にも細胞の正確性を損なわないイラストになっていると思います。イラストの注釈も充実していてイラストと注釈だけを追っても内容が理解できると思います。

この本を通じて、世間で時々話題になるアナフィラキシーショックや抗体検査、インターフェロン治療、蕁麻疹について理解を深めることができました。COVID-19については取り上げられていませんが、本書で取り扱う内容が一般的なニュース以上の理解を得る助けになると思います。医師でなければ治療はできませんが、病気に関わるときには理解がある程度があった方が良いわけであり、その理解の助けになる内容が本書にはたくさん書かれています。

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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