[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

非天然アミノ酸触媒による立体選択的環形成反応

[スポンサーリンク]

非天然アミノ酸誘導体により触媒される三分子間での新たなジアステレオ、エナンチオ選択的環化反応が開発された。環状天然物の合成において応用が期待される。

プロリンおよびその誘導体を用いた不斉C–C結合形成反応

空気や水への安定性、取り扱いの容易さ、低環境負荷などの利点をもつ有機触媒を用いた反応はここ十数年で急激な発展を見せている(1)。なかでもアミノ酸及びその誘導体は最小の酵素アナログとみなすことができ、酵素と同様化学反応の触媒として働く。プロリンを触媒に用いた分子内(図 1A)および分子間(図 1B)不斉アルドール反応はその代表例である(2)。一方、プロリン誘導体を触媒として、2006年にEndersらがアルデヒドのニトロアルケンへの共役付加を起点とし、共役カルボニル化合物とのジアステレオおよびエナンチオ選択的な三成分連結環化反応を報告した(3)(図 1C)。

今回Cossíoらは自らが開発したプロリン誘導体XL(4)を触媒に用いた、ケトン、ニトロアルケンおよびカルボン酸間での共役付加反応を起点とする新奇三成分環形成反応を見出したので紹介する(図 1D)。本手法を用いると3つのキラル中心を有する二環式化合物4を立体選択的に合成できる。

図1. プロリン触媒の不斉C–C結合形成反応と今回紹介する反応

 

New Three-Component Enantioselective Cyclization Reaction Catalyzed by Unnatural Amino Acid Derivative

Retamosa, M. de G.; Ruiz-Olalla, A.; Bello, T.; de Cózar, A.; Cossío, F. P. Angew. Chem., Int. Ed. 2017, Early view.

DOI: 10.1002/anie.201708952

論文著者の紹介

研究者: Fernando P. Cossío

研究者の経歴:
1977–1982 B.S., University of Zaragoza, Spain.
1984–1986 Ph.D., University of the Basque Country (UPV/EHU) (Prof. C. Palomo)
1987–1988 Posdoc, CNRS, France (Dr. J.–P. Picard)
1988– Professor, University of the Basque Country (UPV/EHU) (including short stay, UCLA, K. N. Houk, 1994)
2002– Professor (Catedrático), University of the Basque Country (UPV/EHU)
研究内容:ペリ環状反応、C–C結合形成反応、メディシナルケミストリー、計算化学

論文の概要

本反応は過剰量のケトン1、カルボン酸2をニトロアルケン3に対しXLを20 mol%加え無溶媒条件下、45 ℃で反応させることで環化付加体4を生成する(図 2A)。

1として、テトラヒドロ(チオ)ピラノン(X = O or S)を用いても本反応は進行する。脂肪族および芳香族カルボン酸の両方で反応が進行するが、前者の場合は収率が低下する。ニトロアルケンとしては電子不足、電子豊富なニトロスチレン誘導体のどちらも反応に適用可能である。また、プロリンやTMSプロリノール類を触媒とした際、4は生成せず、マイケル付加体のみが得られる。

重酸素ラベル化やDFT計算等の機構解析より、以下のような反応機構が提唱されている(図 2B)。

  1. XL1によるINT1形成
  2. INT13に対する共役付加
  3.  2INT2への付加
  4. INT3の脱水
  5. INT4での分子内転位
  6. INT5の環化
  7. 触媒再生および目的物4の生成

という機構である。高いエナンチオ選択性が現れる理由として、著者らはINT13が反応する際の面選択性において、XL上のニトロ基とINT2の二トロン酸部位との相互作用が重要であると述べている(図 2C TS1)。

なぜXLを触媒とした際のみINT2に対するカルボン酸2の付加が進行するかに興味がもたれるが、遷移状態の最適構造(図 2C TS2)は示されているものの、文中での言及はされていない。このステップにおけるXLの詳細な効果の解明は、本手法のさらなる発展に寄与すると考えられる。

図2. 基質適用範囲(A)推定反応機構(B)遷移状態TS1 & TS2(C)

参考文献

  1. MacMillan, D. W. C. Nature 2008, 455, 304. DOI: 1038/nature07367.
  2. (a) Eder, U.; Sauer, G.; Wiechert, R. Angew. Chem., Int. Ed. 197110, 496. DOI: 10.1002/anie.197104961. (b) List, B.; Lerner, R. A.; Barbas, C. F., III J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 2395. DOI: 10.1021/ja994280y..
  3. Enders, D.; Hüttl, M. R. M.; Grondal, C.; Raabe, G. Nature 2006, 441, 861. DOI: 1038/nature04820.
  4. Conde, E.; Bello, D.; de Cózar, A.; Sánchez, M.; Vázquez, M. A.; Cossío, F. P. Chem. Sci. 2012, 3, 1486. DOI: 10.1039/C2SC20199B.

関連書籍

山口 研究室

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. 【速報】2018年ノーベル化学賞は「進化分子工学研究への貢献」に…
  2. 天然物の生合成に関わる様々な酵素
  3. カルボカチオンの華麗なリレー:ブラシラン類の新たな生合成経路
  4. 周期表の形はこれでいいのか? –その 2: s ブロックの位置 …
  5. Gilbert Stork最後の?論文
  6. π⊥ back bonding; 逆供与でπ結合が強くなる?!
  7. トイレから学ぶ超撥水と超親水
  8. 元素周期 萌えて覚える化学の基本

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 「男性型脱毛症薬が登場」新薬の承認を審議
  2. エーザイ、米国で抗てんかん剤「Banzel」(ルフィナミド)の小児適応の承認取得
  3. フラッシュ自動精製装置に新たな対抗馬!?: Reveleris(リベラリス)
  4. トリフルオロメタンスルホン酸すず(II) : Tin(II) Trifluoromethanesulfonate
  5. 細孔内単分子ポリシラン鎖の特性解明
  6. 未来の化学者たちに夢を
  7. 分子光化学の原理
  8. アレルギー治療に有望物質 受容体を標的に、京都大
  9. 第103回―「機能性分子をつくる有機金属合成化学」Nicholas Long教授
  10. 【クラリベイトウェブセミナー】 新リリース! 今までの研究開発にイノベーションをもたらす新しいソリューション Clarivate Chemistry Researchのご紹介 ー AI技術を搭載したシンプルかつインテリジェントな特許・学術文献情報の活用ツール

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

注目情報

注目情報

最新記事

いろんなカタチの撹拌子を試してみた

大好評、「試してみた」シリーズの第5弾。今回は様々な化合物を反応させる際に必須な撹拌子(回転…

【マイクロ波化学(株)医薬分野向けウェビナー】 #ペプチド #核酸 #有機合成 #凍結乾燥 第3のエネルギーがプロセスと製品を変える  マイクロ波適用例とスケールアップ

<内容>本イベントは、医薬分野向けに事業・開発課題のソリューションとして、マイクロ波の適用例や効…

バイオマスからブタジエンを生成する新技術を共同開発

日本ゼオンは、理研、横浜ゴムと共同で設置している「バイオモノマー生産研究チーム」の研究により、バイオ…

【ケムステSlackに訊いてみた②】化学者に数学は必要なのか?

日本初のオープン化学コミュニティ・ケムステSlackの質問チャンネルに流れてきたQ&Aの紹介…

電子のやり取りでアセンの分子構造を巧みに制御

第308回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院総合化学院(鈴木研究室)・張本 尚さんにお願い…

第147回―「カリックスアレーンを用いる集合体の創製」Tony Coleman教授

第147回の海外化学者インタビューは、アンソニー・W・コールマン(通称トニー)教授です。フランスのリ…

ノーコードでM5Stack室内環境モニターを作ろう

COVID-19の影響で居室や実験室の換気状況を見直された方は多いと思います。化学系の実験室は定期的…

「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律施行令の一部を改正する政令」が閣議決定されました

4月16日、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律施行令の一部を改正する政令」が、閣議決定され…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP