[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

水素社会実現に向けた連続フロー合成法を新開発

[スポンサーリンク]

第179回のスポットライトリサーチは、東京大学理学系研究科化学専攻有機合成化学教室の宮村浩之先生にお願いしました。

宮村先生はポリマーに担持した金属触媒を用いて、環境調和型の酸素酸化反応や、キラル金属ナノクラスターを用いた不斉炭素ー炭素結合形成反応などを開発されています。

最近の研究成果がプレスリリースとして発表されたため、インタビューさせていただきました。

Polysilane-Immobilized Rh–Pt Bimetallic Nanoparticles as Powerful Arene Hydrogenation Catalysts: Synthesis, Reactions under Batch and Flow Conditions and Reaction Mechanism

H. Miyamura, A. Suzuki, T. Yasukawa, S. Kobayashi

J. Am. Chem. Soc. 140, 11325-11334 (2018). DOI: 10.1021/jacs.8b06015

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?

ポリシランに担持したRh-Pt二元金属ナノ粒子触媒が芳香環の水素化反応に高い活性を示すことを明らかとしました.芳香環の水素化反応は近年,水素貯蔵や輸送技術として注目を集めていると共に,医薬品原体(API)等の化成品合成においても重要な反応です.

今回開発したRh-Pt二元金属ナノ粒子触媒は従来のバッチ反応に比べ,触媒をカラムに充填し,そこに基質と水素を流通させて反応を行う連続フロー系でより高い活性と耐久性を示すことが明らかとなりました.例えば,連続フロー系では50日以上にわたり活性が低下せず,定量的に目的物を与えました.また,様々な種類の基質において,バッチ系より連続フロー系のほうが高い触媒回転速度(TOF)を示し,最大27倍の反応加速効果が得られました.

また,同一分子内に複数の芳香環が存在する基質において,芳香環部位の吸着特性を利用することにより,片方の芳香環のみを選択的に水素化する手法も開発しました.本手法を実際の医薬品原体であるDonepezil合成に応用しました.本合成における原料は4つの還元されうる部位を有していましたが,今回開発した触媒を用いて水素化反応を行ったところ,望みの箇所のみが選択的に水素化され,ワンポットで二級アミン部位をベンジル化することで87%の単離収率でDonepezilが得られました.

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

単に,活性が高く,基質一般性が広い触媒が開発できたというだけでは,インパクトが足りないので,これまでの他の触媒にはない特徴を出そうと検討を重ねました.

まずは,芳香環の水素化反応においてバッチ系とフロー系で定量的に触媒活性を比較した論文というものがあまりなかったため,その点をしっかり解析することにしました.その結果,単純なアルキルベンゼンよりもアニリンや,ヘテロ芳香環といった極性官能基を有する基質のほうが,フロー系での反応加速効果が大きいことがわかりました.そこで,その原因を探るべく,二種類の基質を混合してそれぞれの反応速度を比較する競合実験を行ったところ,殆どの場合,どちらか一方の基質しか反応せず,もう片方の基質はほとんど原料回収となるという結果が得られました.この特性を利用して,同一分子内に複数の芳香環が存在する場合も片方の芳香環のみを選択的に水素化できないかと考え,実際にモデル基質を作って試してみたところ,望みの結果を得ることができました.そこから,Donepezilのワンポット合成にもつながり,全体として話のつながりのよい研究としてまとめることができたと思っています.

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

最初は幅広い基質一般性とフロー合成での活性向上,頑強性というそのポイントだけで,速報誌として論文をまとめていました.しかし,論文の審査過程でそれではインパクトがたりないということで,Q2のような詳細な速度論的な検討をはじめ選択的な水素化のような検討も行いました.結果的に,追加で行った実験のほうが時間も労力もかかったのではないかと思います.特に,この後半の検討は当時博士課程の学生さんだった鈴木綾さんが,片道二時間の満員電車での通学という試練も乗り越えながら,頑張ってデータを集めてくれました.本当に鈴木さんの頑張りには脱帽です.鈴木さんの卒業までに論文が通ればよかったのですが,それがかなわなかったのが心残りです.

膨大な労力と時間をかけながら,本当にこの方向性で論文の審査員を納得させることができるかという疑念が常につきまとっていましたが,ここまできたら,結果はどうあれ,とにかくやるしかないという心境でした.

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

あまりメジャーな分野でなくて,マニアックな方向性でも良いのでなにかユニークなことをやりたいと思っています.特に,これまで行ってきた,反応開発や触媒開発だけでなく,反応や触媒が鍵となるけれど,合成だけが目的でないような材料の開発なども行っていきたいと思っています.

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

今回の発表内容は,最初の論文投稿から二年半もかかりました.この間は,追加実験をし,書き直し,また追加実験をし,書き直しの繰り返しで,底なし沼にはまりかけたかなとも思うこともしばしばありましたが,粘ればなんとかなるものです.投稿論文や学位論文で苦しんでいる学生さんも多くいらっしゃると思いますが,粘ればなんとかなるものです.自分と仲間を信じて,根気よく続けてください.

略歴

宮村 浩之

所属:東京大学理学系研究科化学専攻有機合成化学(小林)研究室 & UC Berkeley, Department of Chemistry, Toste & Raymond Lab
研究テーマ:有機合成化学;不均一系触媒;金属ナノ粒子;フロー合成

*トップの画像はプレスリリースから出典

 

 

 

Orthogonene

投稿者の記事一覧

有機合成を専門にするシカゴ大学化学科PhD3年生です。
趣味はスポーツ(器械体操・筋トレ・ランニング)と読書です。
ゆくゆくはアメリカで教授になって活躍するため、日々精進中です。

http://donggroup-sites.uchicago.edu/

関連記事

  1. 高分子鎖を簡単に垂直に立てる -表面偏析と自己組織化による高分子…
  2. AI解析プラットフォーム Multi-Sigmaとは?
  3. 鉄、助けてっ(Fe)!アルデヒドのエナンチオ選択的α-アミド化
  4. 三脚型トリプチセン超分子足場を用いて一重項分裂を促進する配置へと…
  5. 5配位ケイ素間の結合
  6. 化学者のためのエレクトロニクス入門④ ~プリント基板業界で活躍す…
  7. 英文読解の負担を減らすマウスオーバー辞書
  8. 第5回慶應有機化学若手シンポジウム

注目情報

ピックアップ記事

  1. 美術品保存と高分子
  2. 元素名と中国語
  3. ポール・アリヴィサトス Paul Alivisatos
  4. 170年前のワインの味を化学する
  5. ハメット則
  6. 室温でアルカンから水素を放出させる紫外光ハイブリッド触媒系
  7. 物質科学を学ぶ人の空間群練習帳
  8. 2009年イグノーベル賞決定!
  9. NPG asia materialsが10周年:ハイライト研究収録のコレクションを公開
  10. 製薬業界における複雑な医薬品候補の合成の設計について: Nature Rev. Chem. 2017-2/3月号

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年2月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728  

注目情報

最新記事

水分はどこにあるのか【プロセス化学者のつぶやき】

前回まで1. 設定温度と系内の実温度のお話2. 温度値をどう判断するか3. 反応操作をし…

「MI×データ科学」コース 〜LLM・自動実験・計算・画像とベイズ最適化ハンズオン〜

1 開講期間2026年5月26日(火)、29日(金) 計2日間2 コースのねらい、特色近…

材料の数理モデリング – マルチスケール材料シミュレーション –

材料の数理モデリング概要材料科学分野におけるシミュレーションを「マルチスケール」で理解するた…

第59回天然物化学談話会@宮崎(7/8~10)

ごあいさつ天然物化学談話会は、全国の天然物化学および有機合成化学を研究する大学生…

トッド・ハイスター Todd K. Hyster

トッド・カート・ハイスター(Todd Kurt Hyster、1985年10月10日–)はアメリカ出…

“最難関アリル化”を劇的に加速する固定化触媒の開発

第 703回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院 理工学府 博士課程前期で…

「ニューモダリティと有機合成化学」 第5回公開講演会

従来の低分子、抗体だけでなく、核酸、ペプチド、あるいはその複合体(例えばADC(抗体薬物複合体))、…

溶融する半導体配位高分子の開発に成功!~MOFの成形加工性の向上に期待~

第702回のスポットライトリサーチは、関西学院大学理学部(田中研究室)にて助教をされていた秋吉亮平 …

ミン・ユー・ガイ Ming-Yu Ngai

魏明宇(Ming-Yu Ngai、1981年X月XX日–)は米国の有機化学者である。米国パデュー大学…

第55回複素環化学討論会

複素環化学討論会は、「複素環の合成、反応、構造および物性」をテーマとして、化学・薬学・農芸化学など幅…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP