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スポットライトリサーチ

原子3個分の直径しかない極細ナノワイヤーの精密多量合成

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第185回目のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院理学研究科 博士前期課程1年の永田 雅貴 (ながた・まさたか)さんにお願いしました。

永田さんの所属する研究室(篠原 久典 教授中西 勇介 助教(現所属:首都大学東京 ナノ物性研究室))では、ナノカーボンや遷移金属カルコゲナイドなど、広く材料科学に根付いた合成・応用研究がなされています。
今回永田さんらは、「ナノ試験管」と呼ばれるカーボンナノチューブの内部空間を用いて、原子3個分の直径をもつ遷移金属モノカルコゲナイド (通称 極細ナノワイヤー)の合成に成功しました。
本成果は、Nano Letters誌に掲載されるとともにプレスリリースが行われています。
また、8月号の表紙にも採用されているとのことです!

“Isolation of Single-Wired Transition-Metal Monochalcogenides by Carbon Nanotubes”

Masataka Nagata, Shivani Shukla, Yusuke Nakanishi, Zheng Liu, Yung-Chang Lin, Takuma Shiga, Yuto Nakamura, Takeshi Koyama, Hideo Kishida, Tsukasa Inoue, Naoyuki Kanda, Shun Ohno, Yuki Sakagawa, Kazu Suenaga, and Hisanori Shinohara
Nano Letters 2019, Article ASAP. DOI: 10.1021/acs.nanolett.8b05074

Nano Letters誌の表紙にも採用されています

実際に実験に取り組まれた永田さんに関して、中西勇介助教からコメントをいただいています。

 永田くんは,とにかく『手が早い』学生です(変な意味ではなく)。「次はこの条件試そうか」と言うと,いつも「もうやってます」と返ってきます。こちらが提案するより先にいろいろ試してくれるので,中西の仕事は試薬発注くらいしかなく,助教として不安になってしまいます。。最近では,基礎研究だけに飽き足らず,医療関係の応用研究にも取り組んでいます。中西が助教になってから獲得した研究費のネタはすべて永田くんの仕事で,本当に頭が上がりません。チームJr(中西グループ)の特攻隊長です。中西担当の学生第一号で,下手な指導で何度も混乱させた上に途中で異動までして本当に迷惑をかけています。。それでも,永田くんの自立した研究姿勢に助けられ,なんとか出版までこぎつけることができました。そんな永田くんを僕は誇らしく思います。

この仕事は僕が指導する立場として出した最初の論文で,感慨深い作品です。電顕・理論・分光のスペシャリストの強力なサポートのおかげで,査読では審査員全員がほぼ満点評価で一発クリアでした。共著者の皆様には大変感謝しています。また,「グローバルサイエンスキャンパス(GSC)」(http://www.iar.nagoya-u.ac.jp/miraigsc/)の高校生たちと一緒に生成機構を徹底的に議論したおかげで論文に深みを出せました。さらに,イラストレーターのエンド譲さん(http://www.endland.net)に描いてもらったイラストが表紙に採用されることも決定し,最高の形で世に送り出すことができました。有難いことに,共著者の方々がどんどん新しい実験を提案してくれるので,今後も派生研究が続々と生まれそうです。『共同研究はすべての共著者がハッピーにならないといけない』という師匠(篠原久典先生)の言葉を少しは体現できたかなと思っています。

チームJrからはまだまだ面白い成果がいくつも出てきそうな予感がします。中西も試薬発注を中心にメンバーたちに協力していきますので,今後もご期待下さい!

中西勇介

永田さんはまだ博士前期課程1年の学生さんということで、今後の活躍にも期待しています!それではインタビューをお楽しみください。

Q1. 今回のプレスリリース対象となったのはどんな研究ですか?

「遷移金属モノカルコゲナイド」と呼ばれる直径わずか3原子分のナノワイヤーの合成に成功しました。遷移金属モノカルコゲナイドは理論的には30年前から研究されており,集積回路の配線としても有望視されていました。しかし,凝集しやすい性質があるため単離が難しく、実験的な研究は進んでいませんでした。今回私たちは,直径1ナノメートルのナノ試験管「カーボンナノチューブ」の中でボトムアップ的に合成し、このナノワイヤーの「孤立」を実現しました。これにより,このナノワイヤーの実験研究が一気に進む可能性があります。また、束の状態では見られなかった「ねじれ」も観察しました。理論的には、ねじれ方によって物性が変化することが予想され,発光や電流のON/OFFを切り替えるスイッチとしての応用が期待できます。

図1 TMMナノワイヤーの模式図
モリブデンとテルルで構成された正三角形が交互に反転しながら積層した直径1ナノメートル以下のトラス状のナノワイヤー。通常は束状に集まった結晶として存在している。

図2 (a) カーボンナノチューブを鋳型にした成長反応、(b) TMMナノワイヤーの電子顕微鏡写真、(c) 模式図
原料の熱分解により生じたモリブデンとテルルがカーボンナノチューブの内部で自発的に組み上がり、TMMナノワイヤーが形成する。

図3 単離したTMMナノワイヤーのねじれ構造

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

一番こだわったのは電子顕微鏡観察です。本研究で合成したナノワイヤーの構造は透過電子顕微鏡でしか観察することができません(ナノチューブは結晶にならないのでX線構造解析も不可能)。透過電子顕微鏡は,スペクトルデータと比較すると,物質の構造を直接観察できる強力な解析手法です。しかし,扱い方を間違えると簡単に間違った構造を映し出してしまう恐れもあります。そのため,電子線の光軸調整には細心の注意を払いました。さらに,少しでもわかりやすくするため、構造が鮮明に確認できる電子顕微鏡像を撮影することにこだわりました。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?また、それをどのように乗り越えましたか?

一番苦労したのは生成機構の解明です。原理的にはさまざまな遷移金属とカルコゲンを組み合わせたナノワイヤーの合成が可能ですが、実際には特定の組成しか合成されません。その原因を探るため、結合解離エネルギーや昇華熱などをもとに反応に関与しうる化学種を予想し、それを証明するための実験を計画・実行しました。電子顕微鏡観察や元素分析などを駆使することで,原料に含まれていた微量の不純物が反応に関与している可能性を見出し,最終的には反応機構に関する重要なヒントを得ました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

将来は企業に就職し、環境問題やエネルギー問題の解決に世の中で役立つものを開発したいです。大学で学んだ知識や経験を活かし、まだ世の中にない革新的な製品の開発に取り組むことで、社会に貢献したいと考えています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

研究をしていると実験が上手くいかず、同じような実験を何度も繰り返して精神的に苦労することもあると思います。しかし、苦労した分だけ成功した時の喜びや達成感が大きいと思うので、地道にコツコツ実験することはとても大切だと感じました。

最後に、この研究は篠原研究室の皆様を初め、産業技術総合研究所の劉 崢上級主任研究員、末永 和知首席研究員、名古屋大学大学院工学研究科の中村 優斗助教、小山 剛史准教授、岸田 英夫教授、東京大学大学院工学研究科の志賀 拓麿講師のご協力のもと進めることができました。特に中西 勇介助教には公私ともに大変お世話になりました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。

研究者の略歴

名前:永田 雅貴(ながた まさたか)

所属:名古屋大学大学院理学研究科物質理学専攻(化学系)篠原研究室 博士前期課程1年

研究テーマ:カーボンナノチューブを利用した遷移金属モノカルコゲナイドナノワイヤーの単離

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