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化学系ラボの3Dプリンター導入ガイド

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DIY文化を支える機械の一つ、3Dプリンター。特に樹脂造形タイプは近年かなり安価になり、普及度も増してきました。化学研究でも多くの活用事例が出てきています[1-3]。

実験室レベルにおいては、実験器具や反応容器をカスタムメイドしたり、分子模型を作って教育・研究・広報に使うなどが代表的用途になるかと思います。

今回の記事では、「これから3Dプリンターを導入してみようかな、でもどうすればいいのか分からないなぁ」とお考えの方向けに、化学ラボ向けファーストガイドをご提供します。

化学ラボでも3Dプリンターを使いたい!

いろいろな応用が期待できそうな3Dプリンターですが、「手元に無いので試さない」という感覚のラボがまだまだ多いと思われます。その一方で、近くにあれば試してみたい、安価であれば導入したいと考えるラボも少なくないのではないでしょうか。また、用途が上記想定であれば、どのような機種が良いのでしょうか?

今回、余剰予算で導入する機会に恵まれたので、いろいろと調べてみました。筆者個人はカスタム実験器具を作りたかったので、以下のポイントを特に気にしました。

  • 本体価格とランニングコスト(超重要:ただし安かろう悪かろうはダメ)
  • 使いやすさ(宝の持ち腐れにならないように)
  • 普及度(困ったとき相談できる人が周りにいるか)
  • 印刷可能サイズ(小さすぎると使えない)
  • 耐熱性・溶媒耐性(化学ラボでは重要)
  • 組立て不要(初期設定に時間を取られたくない)
  • 安定動作性(トラブルで時間を取られたくない)
  • 印刷精度・速度(必要十分に実用的であれば良い)

場合によっては造形方式もポイントになると思いますが、今回はそこまで考慮しませんでした。

化学系ラボにヒアリングしてみた

購入に先立ち、化学系ラボ所属の知人数名に、3Dプリンターの使用実績と、現場の使用感をヒアリングしてみました。ちなみに、どの機種も科研費で落とせるようです。一部を抜粋して紹介します。

UP Plus2

(画像はこちらより引用)

本体価格:約15万円
印刷サイズ:140 x 140 x 130mm
造形方式:押出堆積法

筆者の所属ラボではこれを買いました。コスト・使いやすさ・印刷サイズ・速度など、総合的に判断して最初の1台に最適と思います。フィラメントは2000円/巻ですが、毎日こまごまと使ってもなかなか無くならず、かなり長持ちしてくれます。造形精度が少々粗いのが欠点ですが、大半の用途には必要十分だと思います。

出力品は、普通のプラスチック製品と見なして差し支えなく、耐熱性・溶媒耐性も同印象です。例えばアセトンやジクロロメタンには溶けますが、ちょっと溶媒がかかった程度なら、表面だけ溶けて終わりですので、実験台でも使えるものが普通に作れます。

たまーにノズルが詰まり、分解掃除が面倒なのが欠点ですが、化学系ラボでは有機溶媒が使えるので、そこは幾分やりやすくはあります(苦笑)。

UP Box+

(画像はこちらより引用)

本体価格:約27万円
印刷サイズ:255 x 205 x 205mm
造形方式:押出堆積法

大きめサイズが印刷可能で、反応容器のホルダー、分子模型などの作成に使われているとの話でした。溶媒耐性については情報が無く不明です(情報をお持ちの方はお寄せください!)。

Form2

(画像はこちらより引用)

本体価格:約55万円
印刷サイズ:145×145×175mm
造形方式:光造形法

こちらも定評ある製品です。UP Plus2などに比べ、印刷精度がかなり高いことが特徴です。リアクターを作ったり、動物実験用のアタッチメントを作ったり、などの実施例があるようです。素材を選べば溶媒耐性もあるものも作れる模様。

ただし小さいサイズのみ印刷可で、印刷時間もかかります。本体価格も高く、そこそこランニングコストもかさみます(印刷1回あたり1000円程度)。

高精度のものを作る必要があり、予算が許すならば、2台目以降の3Dプリンタとしてグループに1台あっていい機種だと思えます。

近々後継機であるForm3が登場するようなので、急ぎで無ければそちらを待つほうが良いかもしれません。

Agilista 3200

(画像はこちらより引用)

本体価格:約500万円
印刷サイズ:297×210×200mm
造形方式:インクジェット法

某世界的ラボが所有していた逸品。実物を見せて貰いましたが、とにかく巨大!机の上になどまず置けません(笑)。複雑な結晶構造の出力などに使っているようです。

柔軟なシリコン製モデルが印刷可能(ただし溶媒耐性は低め)、保持剤も溶剤に浸すだけで簡便除去、高精細な造形能、ソフトも使いやすい、メンテも楽ちん・・・などなど、流石にパフォーマンスは破格です。

ただインクの寿命が短かったり(発注から半年で使い切る必要がある)、ランニングコストが高い(1回の印刷で2~3万)など、一つのラボで抱えるには高級すぎる印象でした。機関単位で持つのが一般的なようで、いちラボでは普通買えません。参考情報程度、ということで・・・(笑)。

好きなカタチを作って、印刷したい!

まずは、3Dプリンター形式のファイル(STLファイル)を準備する必要があります。全くゼロから造形したいなら3D CADソフトが必要です。

アカデミックユースの定番ソフトは、おそらくFusion360だと思います。

(画像はこちらより引用)

ユーザ数が多いため情報や解説本も豊富、操作も直感的にしやすい(コツを掴むまで少しかかりますが)という利点があります。さらには学生・教職員であれば3年間の無料利用が可能というのも嬉しい点。このソフトで欲しいものをどんどん描いて作りましょう!

より高精細なモデルを作りたい場合は、BlenderやShade3Dといった汎用CGソフトを使う方法もあります。大抵はSTL形式へのエクスポート機能を持っています。

分子模型を出力するやり方は、後日別記事で紹介したいと思います。

イチから自作は面倒!ありものを出力したい!

科学向けの無料提供品を探したいならば、下記に代表されるSTLデータ共有サイトが有益だと思います。「Chemistry」「Model」「Experiment」「Apparatus」などの単語で検索してみると、それらしいものが引っかかって来ます。いろいろ眺めて見るといいと思います。

Thingiverse

世界最大の3Dプリントコミュニティサイトです。ピペットマンホルダー・バイアルラック・試験管立てなど、実験器具群もかなりアップロードされています。

NIH 3D Print Exchange

NIHが提供する科学3Dプリンターデータの共有サイト。カスタム実験器具や、タンパク質の模型データなどが共有されています。

STLデータ共有サイトは他にも各種知られていますので、関連リンクをご参照下さい。

バイアルラックを作って見たよ

まずはお試しがてら、UP Plus2! で5mL バイアルラックを自作して見ました。STLデータはFusion360で自作。

参考までにこれぐらいのサイズだと、フィラメント代は約200円・印刷時間は約3時間です。上手く印刷が走っているかの確認は最初に必要ですが、走り始めたら終夜ほったらかしておけば出来上がっているので楽ちんです。もちろんウェル数は自在に変えられますし、出来合い品を買って届くのを待つことを考えても、まぁいい感じではないでしょうか。むしろ、最初のCAD操作に慣れるまでのほうに時間がかかった印象です。

おわりに

以上、筆者が仕入れられた限りで、化学系3Dプリンター導入に必要な情報をまとめてみました。まだまだ情報不足な点もあると思いますので、有益なトピックについては是非情報をお寄せ下さい!追記させていただきます。

関連文献

  1. ”3D printing for chemical, pharmaceutical and biological applications”, Capel, A. J. et al. Nat. Rev. Chem. 2018, 2, 422. doi:10.1038/s41570-018-0058-y
  2. “Additive Manufacturing Technologies: 3D Printing in Organic Synthesis” Rossi, S.; Puglisi, A.; Benaglia, M. ChemCatChem 2018, 10, 1512. doi:10.1002/cctc.201701619
  3. “Recent Advances in Analytical Chemistry by 3D Printing” Gross, B. et al. Anal. Chem. 2017, 89, 57. doi:10.1021/acs.analchem.6b04344

関連書籍

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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