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化学者のつぶやき

シグマトロピー転位によるキラルα-アリールカルボニルの合成法

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アリールヨーダンとキラルオキサゾリンを用いた[3,3]-シグマトロピー転位によるジアステレオ選択的α-アリールイミン合成法が開発された。生成物はキラルα-アリールカルボニルへ誘導できる。

不斉α-アリール化

キラルα-アリールカルボニル化合物は医薬品や生物活性分子として数多く報告されている。代表的な合成法として、キラルPd触媒存在下、ハロアレーンを用いるカルボニル化合物の不斉α-アリール化が知られる(図 1A)[1]。本手法は強塩基性条件を必要とし、しばしば生成物のラセミ化が起こるため、本手法とは異なるα-アリールカルボニルの合成法開発の意義は高い。

一方で、近年[3,3]-シグマトロピー転位を利用したヨードソベンゼン類のortho位官能基化の報告が増えている[2]。1988年に、OhらはLewis酸存在下ヨードソベンゼンとアリルシランが反応し、アリルフェニルヨードニウム中間体の[3,3]-シグマトロピー転位を経てortho-アリルヨードベンゼンが生成することを報告した(図 1B)。この報告に端を発し、現在ではジアセトキシヨードアレーンに対し、アリルシラン、1,3-ジカルボニル類、2-ナフトール、α-スタニルアルキルニトリルやジフルオロシリルエノールエーテルを求核剤とするortho位官能基化が可能となった。このように、本手法で適用可能な求核剤がいくつか見いだされてきたが、未だ不斉反応へは展開できていなかった。

本論文著者である浙江師範大学のPengらは以前、求核剤に単純なアルキルニトリルを用いて、同様の[3,3]-シグマトロピー転位を経るアリールスルホキシドのortho-アルキル化(ニトリルのα-アリール化)を報告した(図 1C)[3]。本手法では、Tf2O存在下、ニトリルがアリールスルホキシドと反応してイミンスルホニウム中間体を形成する。その後、この中間体を塩基が脱プロトン化して生じたエテンイミン中間体の[3,3]-シグマトロピー転位が進行する。今回、著者らはアルキルニトリルと類似の反応性を期待してオキサゾリンを求核剤に用いてジアセトキシヨードアレーンとの[3,3]-シグマトロピー転位によるα-アリールオキサゾリン合成に成功した(図1D)。本手法でキラルオキサゾリンを適用すればジアステレオ選択的にオキサゾリンをα-アリール化ができる。

図1. (A) 不斉α-アリール化 (B) [3,3]-シグマトロピー転位 (C) 著者が報告した以前の文献 (D) 今回の反応

Asymmetric Iodonio-[3,3]-Sigmatropic Rearrangement to Access Chiral α‐Aryl Carbonyl Compounds

Tian, J.; Luo, F.; Zhang, Q.; Liang, Y.; Li, D.; Zhan, Y.; Kong, L.; Wang, Z.-X.; Peng, B. J. Am. Chem. Soc. 2020, 142, 6884–6890.

DOI: 10.1021/jacs.0c00783

論文著者の紹介

研究者:Bo Peng    彭勃

研究者の経歴:
–2004 BSc, Department of Chemistry, Nanjing University of Science and Technology
2004–2010 Ph.D, Department of Chemistry, Dalian University of Technology (DUT), China (Prof. Ming Bao)
2011–2013 Postdoc, Max-Planck-Institut für Kohlenforschung, Germany (Prof. Nuno Maulide)
2013–2014 Assistant Professor, University of Illinois at Urbana-Champaign, USA (Prof. Scott E. Denmark)
2015–  Distinguished Professor, Zhejiang Normal University, China

研究内容:医薬品中間体と機能性材料における有機反応、フッ素化合物の官能基変換

研究者:Zhi-Xiang Wang       汪志祥

研究者の経歴:
–1993 BSc, Computational Chemistry, University of Science and Technology of China
1993–1996 Ph.D, Computational Chemistry, Beijing Normal University, China
1996–1998 Postdoc, Graduate School of the Chinese Academy of Sciences, China (Prof. Mingbao Huang)
1998–2003 Postdoc, University of Georgia, USA (Prof. Paul von Ragué Schleyer)
2003–2007 Project scientist, Genome Center, University of California, Davis, USA (Prof. Yong Duan)
2007–  Professor, College of Chemistry and Chemical Engineering, Graduate University of Chinese Academy of Sciences

研究内容:触媒に関する計算化学、分子力学、計算化学による化学結合則

論文の概要

本手法は、TMSOTfでジアセトキシヨードアレーン1を活性化し、その後オキサゾリン2と2-メチルピリジンを加えることで[3,3]-シグマトロピー転位が進行し、ジアステレオ選択的にα-アリールオキサゾリン3が生成する(図2A)。オキサゾリンα位に様々なアルキル置換基をもつ基質が適用でき、臭素、ニトリルやトシルアミドをもつ化合物でも高ジアステレオ選択的に3を与える(3a–3c)。またアリールヨーダンにはメチル(3d)、エステル(3e)、ハロゲン(3f)を有するものやチエニルヨーダン(3g)が適用できる。また、オキサゾリン部位は酸性条件下容易に官能基変換でき、Pengらは実際にキラルα-アリールカルボン酸へと導くことで合成有用性を実証した(詳細は論文参照)。

本反応は以下の機構で進行する(図 2B)。まず1がTMSOTfで活性化されたのち、オキサゾリン2がヨウ素原子に求核攻撃しイミニウム中間体Iを形成する。続いてメチルピリジンがIを脱プロトン化して生成するエナミン中間体IIが[3,3]-シグマトロピー転位し、α-アリールオキサゾリン3が得られる。Pengらは、DFT計算を用いて、本反応のジアステレオ選択性は脱プロトン化の際に決定されると結論づけた(図 2C)。すなわち、脱プロトン化の遷移状態TS2aaのように、ヨードアレーン部位と塩基の2-メチルピリジン間のπ–π相互作用が働き、かつオキサゾリンの置換基とヨードアレーン間の立体障害が最も小さい遷移状態を経ることでジアステレオ選択性が決まることがわかった(詳細は論文Figure 1参照)。

図2. (A) 基質適用範囲 (B) 推定反応機構 (C) DFT計算によるジアステレオ選択性の解明研究

以上、アリールヨーダンとキラルオキサゾリンとの[3,3]-シグマトロピー転位によるジアステレオ選択的α-アリールオキサゾリン合成法が開発された。この反応は、遷移金属触媒を用いたα-アリール化では困難なヨウ化アリールの導入ができるため、全合成などへの応用も期待できる。

参考文献

  1. Taylor, A. M.; Altman, R. A.; Buchwald, S. L. Palladium-Catalyzed Enantioselective α-Arylation and α-Vinylation of Oxindoles Facilitated by an Axially Chiral P-Stereogenic Ligand. J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 9900–9901. DOI: 1021/ja903880q
  2. (a) Chen, W. W.; Cuenca, A. B.; Shafir, A. The Power of Iodane-Guided C–H Coupling: A Group Transfer Strategy in Which a Halogen Works for Its Money. Angew. Chem., Int. Ed. 2019, Accepted Artiles. DOI: 1002/anie.201908418 (b) Lee, K.; Kim, D. Y.; Oh, D. Y. Reaction of Allyltrimethylsilane with an Aromatic Compound Using Hypervalent Organoiodine Compound: A New Allylation of Aromatic Compounds. Tetrahedron Lett. 1988, 29,667–668. DOI: 10.1016/S0040-4039(00)80178-1 (c) Wu, Y.; Arenas, I.; Broomfield, L. M.; Martin, E.; Shafir, A. Hypervalent Activation as a Key Step for Dehydrogenative ortho C–C Coupling of Iodoarenes. Chem. Eur. J. 2015, 21, 18779–18784. DOI: 10.1002/chem.201503987 (d) Hori, M.; Guo, J.-D.; Yanagi, T.; Nogi, K.; Sasamori, T.; Yorimitsu, H. Sigmatropic Rearrangements of Hypervalent‐Iodine‐Tethered Intermediates for the Synthesis of Biaryls. Angew. Chem., Int. Ed. 2018, 57, 4663–4667. DOI: 10.1002/anie.201801132 (e) Tian, J.; Luo, F.; Zhang, C.; Huang, X.; Zhang, Y.; Zhang, L.; Kong, L.; Hu, X.; Wang, Z.-X.; Peng, B. Selective ortho C–H Cyanoalkylation of (Diacetoxyiodo)arenes through [3,3]-Sigmatropic Rearrangement. Angew.Chem., Int. Ed. 2018, 57, 9078–9082. DOI: 10.1002/anie.201803455 (f) Huang, X.; Zhang, Y.; Zhang, C.; Zhang, L.; Xu, Y.; Kong, L.; Wang, Z.-X.; Peng, B. Angew. Chem., Int. Ed. 2019, 58, 5956–5961. DOI: 10.1002/anie.201900745
  3. Shang, L.; Chang, Y.; Luo, F.; He, J.-N.; Huang, X.; Zhang, L.; Kong, L.; Li, K.; Peng, B. Redox-Neutral α-Arylation of Alkyl Nitriles with Aryl Sulfoxides: A Rapid Electrophilic Rearrangement. J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 4211− DOI: 10.1021/jacs.7b00969
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