[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

細胞が分子の3Dプリンターに?! -空気に触れるとファイバーとなるタンパク質を細胞内で合成-

[スポンサーリンク]

第331回のスポットライトリサーチは、東京工業大学生命理工学院生命理工学系・安部聡 助教 にお願いしました。

安部さんの所属する上野研究室では、生物無機化学と生体超分子化学を組み合わせた新しいタンパク質機能化法を開発しています。特に自己集積型・結晶性タンパク質を活用する極めてユニークな展開が持ち味です。今回の研究はその一環であり、結晶性タンパク質を細胞に作らせて、繊維状に並べて架橋させる手法で、新たな生体材料の創出コンセプトを提案しています。「細胞を分子の3Dプリンターに」というキャッチーな表現で語りうる、とても面白い成果です。Angew. Chem. Int. Ed.誌 原著論文・プレスリリースに公開されています。

“Design of an In-Cell Protein Crystal for the Environmentally Responsive Construction of a Supramolecular Filament”
Abe, S.; Pham, T. T.; Negishi, H.; Yamashita, K.; Hirata, K.; Ueno, T. Angew. Chem. Int. Ed. 2021, 60, 12341. DOI:10.1002/anie.202102039

研究室を主宰されている上野隆史 教授から、安部さんについて以下のコメントを頂いています。それでは今回もインタビューをお楽しみください!

安部助教は、一貫してタンパク質集合体の構造に立脚した新規機能開拓を進めてきました。グループリーダーとしてもメンバーからの信頼も厚く、0から1を生み出すスタイルでじっくりと腰を据えて研究を進めています。現在開発している技術で世界が驚くような成果を期待しています。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

細胞内で生じるタンパク質結晶化現象に着目し、細胞を分子レベルの3Dプリンターとして利用することによって、目的のタンパク質3次元構造を自動的に合成する手法を開発しました。
具体的には、昆虫細胞内で発現するカテプシンタンパク質が細胞内で結晶を形成する際に、結晶内でタンパク質が一列に並ぶことに着目しました。タンパク質同士が接触する部位に存在するアミノ酸残基をシステインに置換し、細胞から取り出すと同時に分子間で隣り合うシステイン同士が空気中の酸素との反応によって自動的にジスルフィド結合を形成することを見出しました(図1)。その結果、結晶を溶解することによって望みのファイバー構造を取り出すことに成功しました(図2)。この手法は、単一の細胞内で完結できるだけでなく、タンパク質精製などの煩雑な操作が不要となります。特定のDNAを読み込んだ細胞が3Dプリンターとして働き、ナノサイズの分子機械や機能材料を自動的に作り出すことが可能となります。新たな機能分子合成技術として、様々な細胞内タンパク質結晶の集積構造を利用したドラッグデリバリーやワクチンへの応用も期待されます。

図1.カテプシン結晶内のファイバー構造とシステインを置換した変異体構造

図2. 2束ファイバーの透過型電子顕微鏡図と結晶構造の比較

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

本研究は、当研究室を卒業した根岸博士(以後、根岸君)が博士課程在籍時に取り組み、その後Thuc Toan Pham君が引き継いだ研究です。根岸君は、タンパク質の結晶が精密な集積構造体で形成されていることに着目して、結晶内で隣接するタンパク質を架橋化すれば、結晶を溶解することでタンパク質の超分子構造体を構築できることを示しました。次にターゲットとしたタンパク質は、細胞内で結晶化するタンパク質で、酸化剤などを必要とせずに、細胞内で形成した結晶を精製するだけで、結晶内で集合体を構築できることを見出しました。論文にするまでに、Pham君が集合体の電子顕微鏡観察や解析など丁寧な実験を行なってくれました。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

結晶内で分子間でのジスルフィド結合を形成することは研究の早い段階で分かったのですが、そのジスルフィド結合がいつ形成されるのかが分かっていませんでした。細胞内でのタンパク質結晶の構造解析は非常に難しいのですが、SPring-8でのマイクロビームでの測定と詳細な構造解析により、細胞内ではジスルフィド結合を形成しておらず、精製して空気酸化によりジイスルフィド結合が形成されることが明らかとなりました。
さらに、結晶を溶解して合成した集積構造体の詳細な同定が困難でした。Pham君が、電子顕微鏡や原子間力顕微鏡観察など、論文に掲載していない変異体や観察実験を数多く行なってくれました。Pham君の頑張りによって、予想していた集積構造とは異なり、2束の集積構造体になっていることを明らかにしました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

現在の私の研究は、「細胞内で合成されるタンパク質結晶を用いた機能化材料の創製」という、化学の材料としてはこれまでほとんど用いられてこなかった細胞内タンパク質結晶を用いています。しかし、生体内には、化学合成では合成困難な化学的に非常に魅力的なタンパク質材料が多く存在します。これらのタンパク質材料を化学の視点で捉えることにより、従来の機能を凌駕したり、天然にはない、新しい機能を創出するタンパク質材料を創製していきたいです。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

研究は、世界で誰も知らないことを自分が最初に経験できることが一つの醍醐味だと思います。面白い結果がでた時、学生さんは、我々教員が知る前に一番早くその感動を味わうことができます。研究は、うまくいかないことも多くありますが、測定結果を待つときはドキドキしたり、面白い結果がでたときは、興奮したりもします。ぜひとも学生さんには、このような体験を多くしてもらいたいと思います。私もまだまだ実験をしていますので、現場で感動できるような研究をしていきたいです。
最後に我々の研究成果をChem-Stationで取り上げていただき、ありがとうございます。

研究者の略歴

名前:安部 聡
所属:東京工業大学 生命理工学院 上野研究室
研究テーマ:細胞内タンパク質結晶を利用した機能材料の創製

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. ルイスペア形成を利用した電気化学発光の増強
  2. 「イカ」 と合成高分子の複合により耐破壊性ハイドロゲルを開発!
  3. 低分子の3次元構造が簡単にわかる!MicroEDによる結晶構造解…
  4. 化学Webギャラリー@Flickr 【Part5】
  5. 自己治癒するセラミックス・金属ーその特性と応用|オンライン|
  6. イオンの出入りを制御するキャップ付き分子容器の開発
  7. 狙いを定めて、炭素-フッ素結合の変換!~光触媒とスズの協働作用~…
  8. 円偏光発光を切り替える色素ー暗号通信への応用に期待ー

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. クオラムセンシング Quorum Sensing
  2. ヘル・フォルハルト・ゼリンスキー反応 Hell-Volhard-Zelinsky Reaction
  3. ディーン・タンティロ Dean J. Tantillo
  4. ガンマ線によるpHイメージングに成功 -スピンを用いて化学状態を非侵襲で観測-
  5. 土釜 恭直 Kyoji Tsuchikama
  6. セルロース由来バイオ燃料にイオン液体が救世主!?
  7. 研究費総額100万円!2050年のミライをつくる若手研究者を募集します【academist】
  8. 水素社会実現に向けた連続フロー合成法を新開発
  9. 錬金術博物館
  10. 水と塩とリチウム電池 ~リチウムイオン電池のはなし2にかえて~

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2021年8月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

注目情報

最新記事

ベテラン研究者 vs マテリアルズ・インフォマティクス!?~ 研究者としてMIとの正しい向き合い方

開催日 2024/04/24 : 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足…

第11回 慶應有機化学若手シンポジウム

シンポジウム概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大…

薬学部ってどんなところ?

自己紹介Chemstationの新入りスタッフのねこたまと申します。現在は学部の4年生(薬学部)…

光と水で還元的環化反応をリノベーション

第609回のスポットライトリサーチは、北海道大学 大学院薬学研究院(精密合成化学研究室)の中村顕斗 …

ブーゲ-ランベルト-ベールの法則(Bouguer-Lambert-Beer’s law)

概要分子が溶けた溶液に光を通したとき,そこから出てくる光の強さは,入る前の強さと比べて小さくなる…

活性酸素種はどれでしょう? 〜三重項酸素と一重項酸素、そのほか〜

第109回薬剤師国家試験 (2024年実施) にて、以下のような問題が出題されま…

産総研がすごい!〜修士卒研究職の新育成制度を開始〜

2023年より全研究領域で修士卒研究職の採用を開始した産業技術総合研究所(以下 産総研)ですが、20…

有機合成化学協会誌2024年4月号:ミロガバリン・クロロププケアナニン・メロテルペノイド・サリチル酸誘導体・光励起ホウ素アート錯体

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年4月号がオンライン公開されています。…

日本薬学会第144年会 (横浜) に参加してきました

3月28日から31日にかけて開催された,日本薬学会第144年会 (横浜) に参加してきました.筆者自…

キシリトールのはなし

Tshozoです。 35年くらい前、ある食品メーカが「虫歯になりにくい糖分」を使ったお菓子を…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP