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ディスカッション

続・企業の研究を通して感じたこと

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自分は、2014年に「企業の研究を通して感じたこと」という記事を執筆しましたが、それから5年が経ち、現場だけなくプロジェクト管理や他部署とのやり取りなどいろいろなことを経験しました。その上で、企業の研究開発について改めて紹介したいと思います。

自己紹介

筆者は、とある化学系企業で研究開発を行っています。入社6年目で少々の担当プロジェクト変更はあるものの、入社時から研究開発部門にずっと所属しています。前回の記事では実験に関する企業と大学の違いを紹介しましたが、ここ数年でプロジェクト全体を見るような場面が増えてきたのでその中で感じたことを紹介したいと思います。筆者の一例ですので、会社によって個々の事情は異なります。

研究プロジェクトの目的にはカスタマーからのニーズが必要

企業でも研究を続けていくと、たまたま面白い現象を見つけたり、自分で新技術のアイディアを思いつくようになります。アカデミックであれば、チームが新しいテーマとして研究する意義があると判断すれば、そのテーマを行うか決めることができますが、企業の場合、「その研究の成果でいくら儲かるのか?(雑な言い方ですが)」を常に問われます。売れる製品の開発に結びつかない研究を行うことは、一部の例外を除いてできません。そのため、研究のスタートには顧客からの「こういう商品が欲しいです」というニーズがきっかけになることが多いです。もちろん、顧客も常に新商品が欲しいわけではなく、現状の製品に満足している場合もあるわけであり、潜在的な顧客のニーズを引き出すのは、営業部やマーケティング部の腕の見せ所になります。また顧客のニーズがわかっても、「いつ頃その製品を完成できて、どれくらい売れる可能性があるのか」の見積もりを立てることが求められます。完成までにかかるお金を十分に回収できるほど売れる新製品でなければ企業にとって研究することは困難になります。もちろん複数の顧客が興味を持っていたり、顧客との関係性を重視して研究を進めることもああり、話は単純ではありません。そんな中、研究の意義をまとめ経営陣をうまく説得する資質がリーダーやマネージャーには求められていると思いるようです。

学会や展示会での立ち話がキーとなることもあります。

他部署との調整がプロジェクトを円滑に進めるために必要

会社の規模にかかわらず、いろいろな部署があり、それぞれの立場から物事を主張してきます。製造部にとってみれば、安全に効率よく作れること目指し、知的財産部は新製品が他社の特許を侵害していないか考えます。研究ではそれらを踏まえて新製品を開発する必要があります。せっかく新製品を作っても、量産が難しかったり他社がすでに特許を登録している場合には製品化することはできません。各部署と密に連携するのはもちろんのこと、製造や知的財産、購買が気にするポイントを押さえて開発する必要があります。新入社員の研修で一通りの部署を回った時は関係がないと思っていても、数年後にその重要性に気が付くことがあります。また、キャリアを重ねていくと仕事が多くなり、出張精算や年末調整の申請などのサイドタスクを後回しにしてしまうこともあります。各社員からの申請が遅れると困る部署もあるわけであり、期限内に提出することが社会人としてのマナーであると言えます。

部署間の関係が悪いと、こんな会議になってしまうかもしれません。

製品化はとても大変

学生の頃はスケールアップは、ただ大きくなるだけで簡単だと思っていましたが、まったくそんな単純ではありません。プラントの製造設備は、ラボでの器具と大きく異なり、高い温度で取り扱えなかったり温度上昇もゆっくりであることが多いです。また、多品種の製品を製造している場合には、原材料や製品を入れるタンク繰りなどから反応に制約ができてしまうこともあります。設備の問題だけでなく、原料のバッチも重要なポイントで、原料のバッチや製造元が変わっても製品の品質が変わらないことが必要ですが、「あのバッチではちゃんと製造できたが、新しいバッチからは製造できなくなった」ことも時々起こります。科学的に解明できれば簡単ですが、なかなか原因がわからないことも多く、製造の現場では過去、同じ問題が起きた時の対処方法が役に立つことが多くあり、経験の伝承がこれから問題ではないかと思います。

夜景ではきれいに見える工場も生産計画の中で日々稼働しています。

いろいろなツールを使いこなす必要がある

大学では試薬の管理システムなどを使いますが、会社ではそれに加えて、プロジェクト管理システム、試験依頼システム、勤怠管理システム、物品購入システム、PCソフトウェア管理システム、SDS管理システム、議事録共有システム、査定システムなど、ツールが使いこなせないと仕事はできません。おそらく会社の規模が大きくなるほど、たくさんのツールを使って管理する傾向にあります。特にプロジェクト管理システムを使うと、経営陣はツールから吸い出される情報で会社の状況を簡単に把握することができますが、現場としてはツールをベースに動くことになるので、物事の進みが遅くなることがあります。ツールを元に決定された優先度によってお金と人のリソースを適切に配分し顧客のリクエストに対して的確に製品を販売できるシステムが求められています。ちなみにIT技術は日々進化していてツール同士が連携して人がインプットする回数を最小限にしようとする技術も発展してきています。

プロジェクト管理システムの一例「Wrike」

パフォーマンスだけでなく安定性が重要

開発を続けていると有望な製品の候補に出会いますが、安定性が悪く製品化できないことがあります。研究する側としては、製品のパフォーマンスを追い求めますが、製品化がゴールである以上、安定性が悪いとパフォーマンスが良くても製品にすることはできません。製品の開発には、パフォーマンスはもちろんのこと、安定性、原材料価格、製造プロセスなどを見据えた実験計画を立てる必要があります。

大型機器の導入は大変な仕事

アカデミックでも大型機器を購入する予算を獲得するのはもちろん大変ですが、企業ではお金はあっても、予算配分の制約で購入できないことがあります。また、購入できても置く場所や電源の容量、冷却水、圧縮ガスが足りず諦めざる負えないこともあります。さらに購入が決まってからが現場としては大変で、新規導入の機器担当者になると購入業者との打ち合わせや社内プロセス、部署間の調整、使用ルールの設定、消耗品の購入などに追われます。しかし一度経験すると会社の仕組みを知ることができるいい仕事だと思います。

定年という会社員には避けては通れないルール

アカデミックでは、研究グループのトップが退官すればそのグループは解散になり、行っていた研究も終了することが多いですが、企業の場合、事業の根幹になっていた人が退職してもその事業を店じまいにすることはできません。そのため、どの部門においても経験者が退職する前に知識と経験の伝承が必要です。ただし、腰を据えて教育を行うには、ある程度の人員と期間が必要であり今ある仕事を回すので精一杯な場合もあります。年金受給年齢は上がり続け、何かしらの契約で定年後も長く働くことが当たり前になっているかもしれません。会社としては、現在と社員の年齢のバランスが変わった時にどう仕事を回すのか、会社員としては、仕事のやり方が変化してもそれについていける柔軟性を持ち合わせつつ過去の経験を発揮できるようになるべきではないでしょうか。

自分の頃になると、何歳まで働いてリタイヤの日を迎えることになるのでしょうか

プロジェクトマネジメントの重要性

ツールにも関連しますが、企業では関わる人が多いため、プロジェクトの進め方が重要で、今流行りのアジャイルなどを活用する動きもあります。この手のマネジメントに関わる事柄は、好き嫌いがはっきりします。自分もそうですが、研究テーマに関する講義は進んで受けるけど、抽象的な話に関することは興味が沸かないと感じる人も多いと思います。しかし、マネージャーを目指すならば、マネジメントの方法を理解して実践することは避けては通れません。つまり研究に関するマネージャーは、研究の内容だけでなく、人のマネジメントやプロジェクトのマネジメントに詳しくあるべきだと思います。

こんな監視するだけのマネージャーがあなたの上司だったら・・・

五年前と比べて若干偉そうなことばかり書いた気がします。また五年後、同様の記事を書くかもしれませんが、石油からの脱却や環境シフト、AIテクノロジーの進歩など変革が続いている化学業界では、どうなっているか想像がつきません。その中でも、研究開発に携わる者として重要なのは、化学の知識と探求を続けるモチベーションであることは変わりないと思います。

関連書籍

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研究マネジメントに関するケムステ過去記事

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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