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化学書籍レビュー

【書籍】タンパク質科学 生物物理学的なアプローチ

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タンパク質科学: 生物物理学的なアプローチ

タンパク質科学: 生物物理学的なアプローチ

有坂 文雄
¥3,520(as of 07/27 06:44)
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概要

2004年に刊行した『バイオサイエンスのための 蛋白質科学入門』は、東京工業大学生命理工学部での講義「蛋白質科学」の講義ノートを元に加筆・再構成したもので、幸い読者の皆様から好評を得ることができ、増刷を重ねてきた。しかし、初版発行からすでに16年が経過し、この間、タンパク質概念の変更を迫るようなものも含め、数多くの発見があった。そこで、それらの新知見を補完し、また多色刷りによって大幅にリニューアルしたのが本書である。
多数の美麗な立体構造図を示しながら、タンパク質の基礎から最先端の動向までをわかりやすく解説する。

(引用;裳華房書籍紹介より)

 

対象

・タンパク質、特にタンパク質の構造について興味を持った学部生や大学院生

・これからタンパク質に関する研究を始める学生や研究者

・タンパク質の構造や他分子との結合などに関わる研究を進める中で、もう一度基礎的な知識を確認したいと思った研究者

 

内容

全12章から構成されており、第1,2章ではそもそもタンパク質とはどんなものかということが丁寧に説明されています。歴史の流れを踏まえた導入や、吸収スペクトル等が図で掲載されているところなど、初学者に向けた細かい心配りが嬉しいです。

第3章ではタンパク質の構造を考える上での基礎知識となる結合や相互作用に関する事柄がまとめられており、タンパク質の変性にも関わるということから電気泳動実験などの理屈についてもこの章で触れられています。

第4, 5章はタンパク質のフォールディングとサブユニット構造について書かれており、第5章の終盤ではタンパク質の立体構造決定法についても概要がまとめられています。

第6章は構造から少し離れ、タンパク質の生合成機構の紹介です。生化学寄りの研究や無細胞合成系の活用にあたり抑えておきたい知識です。

第7章ではタンパク質とリガンドの、第8章ではタンパク質分子どうしも含めた分子間相互作用が取り上げられており、結合の測定や反応速度について等が解説されています。複合体形成や酵素反応に関する研究を行う上では必見の章といえるでしょう。分子の解離・会合を測定する代表的な手法についてもここで紹介があります。

そして第9〜12章では、近年のホットトピックがまとめられています。

 

目次

1.タンパク質とは何か
2.タンパク質の高次構造
3.タンパク質の立体構造を安定化する力
4.ポリペプチドの折りたたみ(フォールディング)
5.タンパク質のサブユニット構造
6.タンパク質の生合成
7.タンパク質と低分子リガンドの結合
8.タンパク質分子の相互作用
9.消化酵素・細胞内プロテアーゼ・エネルギー依存性タンパク質分解システム
10.超分子タンパク質集合体
11.タンパク質の概念に大きな影響を与えた発見
12.ゲノムとタンパク質 -タンパク質科学の新しい局面-

※詳細な目次はこちら

 

感想

これ学生の時に読みたかったな!というのが、率直な感想です。それもできれば、研究室に配属になって間もないくらいのタイミングで読んでおきたかった。さあこれからタンパク質の実験をするぞ!という学生の方に、本当にぴったりの本だと思います。旧版である『バイオサイエンスのための蛋白質科学入門』はもともと東工大の講義ノートだったというだけあり、大幅リニューアル版となった本書はタンパク質の研究に着手するのにひととおり知っておきたい基礎知識から最近の話題までがギュギュッとまとめ上げられています。タンパク質科学の研究に必要な基礎知識が網羅的に収録されている書籍というのは有りそうでなかなか無いので、これ一冊で一通りのポイントを抑えられるというのは凄くありがたいことです。本書のタイトルで「生物物理学的なアプローチ」と銘打たれているため手に取るのに一瞬怯んでしまいますが(笑)、化学系学科であれば物理化学、生物系学科であれば生化学の講義を受講したことがあれば(あるいは教科書に目を通したことがあれば)、読むのに大きな抵抗は感じないと思います。

本書では全章を通じてふんだんに図が使われており、これがとても良いです。様々なタイプのタンパク質の構造が図示されていますが、どれも美麗なのでページによっては図鑑を見ているかのようです。3色刷りなので分子ごと、あるいは構造ごとにしっかり色分けされているのも見やすいです。また、各種の測定の説明では、一般的にどんなスペクトルやプロットが得られるのかが具体的に図示されており非常にわかりやすいです。研究を進める上でどんな測定が必要そうかを考えたり、関連する論文に出てきた測定方法について理解を深めたりするのに役立ちそうです。

第9〜12章では近年注目を集めたオートファジー、比較的最近発展してきた分野であるタンパク質超分子、天然変性タンパク質、液-液相分離、などのトピックが取り上げられており、読み物としても楽しいです。筆者個人的には、第12章の最後で触れられるタンパク質と進化学との関わりに興味があり、この分野のこれからの進展が気になります。

巻末には参考文献・引用文献だけではなく、本書中の重要単語の索引もついており、研究や勉強の中で「あれ?この単語どういう意味だっけ?これは何だっけ?」と疑問が湧いた時にささっと調べられるのでとても便利だと思います。本はソフトカバーでB5サイズ、厚み1.3cm程度で重たすぎず、取扱いもしやすいです。タンパク質研究ライフの良い教科書、良い相棒になるのではないでしょうか。

 

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Shirataki

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目には見えない生き物の仕組みに惹かれ、生体分子の魅力を探っていこうとしています。ポスドクや科学館スタッフ、大学発ベンチャー研究員などを経て放浪中。

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