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化学一般

モビリティ用電池の化学: リチウムイオン二次電池から燃料電池まで(CSJ:44)

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概要

電池は社会を支える重要な技術で,その構造にはさまざまある.2019年のノーベル化学賞は,リチウムイオン二次電池の開発に対して,吉野彰博士が共同受賞した.リチウムイオン電池に代表される高エネルギー密度の二次電池や,水素を用いる燃料電池が,私たちの生活様式を革新するモビリティ用電池として注目されている.その二種類の電池に焦点を当て,高性能電池をつくるための最新技術を紹介する.吉野博士が巻頭に特別寄稿.(引用:化学同人より)

対象者

理系の大学生以上なら読み進めることができる内容となっています。序盤では、電池発見の歴史や基本的な仕組みも解説されており電池の研究を新たに始める方に最適な書籍だと思います。後半は、様々な研究分野の最先端が紹介されており、電池の研究に携わっている方に役に立つ内容ではないでしょうか。

目次

  • 第Ⅰ部 基礎概念と研究現場
    特別寄稿 「ノーベル賞に至るまでの研究開発物語」
    1章 Interview :フロントランナーに聞く(座談会)
    2章 電池の基礎
    Basic concept-1:電池の基礎と拡がり
    Basic concept-2:蓄電池の基礎
    Basic concept-3:燃料電池の基礎

 

  • 第Ⅱ部 研究最前線

① 二次電池
1章 NaとK二次電池
2章 亜鉛空気電池:物質輸送の制御技術
3章 全固体電池
4章 リチウム硫黄電池
5章 次世代高エネルギー密度正極材料
6章 LIB黒鉛負極の構造解析
7章 LIB負極(黒鉛以外)
8章 LIB電解液
9章 全固体リチウム電池実現に向けたリチウム導電体の開発
10章 ニッケル水素

②燃料電池

11章 将来の燃料電池開発-2030年に向けたチャレンジ-
12章 白金系電極触媒
13章 非白金酸素還元触媒
14章 白金使用量低減に向けた触媒層の課題と機能設計
15章 フッ素系電解質ポリマー
16章 炭化水素系電解質材料
17章 アルカリ形高分子電解質膜
18章 膜電極接合体(MEA)の先端評価解析

内容

CSJカレントレビューの第44号としてモビリティ用電池の化学が出版されました。基本構成は他のカレントレビューと同じで座談会と基礎の解説、最新の研究紹介となっていますが、冒頭にノーベル化学賞受賞を受賞された吉野 彰博士の特別寄稿が掲載されています。主の内容はリチウムイオン電池の研究においてノーベル賞受賞に至るまでの経緯であり、加えて同時にノーベル賞を受賞されたジョン・グッドイナフ氏とスタンリー・ウィッティンガム氏の功績、リチウムイオン電池の成長経緯とノーベル賞の対象になった理由などが簡潔にまとめられています。印象的な内容は正極材の発見についてで、他の研究では評価が低かったLiCoO2を試してみたら吉野博士の系では見事に電池として働いたということで、組み合わせの違いで性能が大きく変わる材料研究の面白さが示されているエピソードだと思いました。座談会は、トヨタ自動車株式会社 射場 英紀上席研究員,日産自動車株式会社 秦野 正治上席研究員,山梨大学 内田 裕之教授,  三重大学 今西 誠之教授が、電気自動車、燃料電池自動車の開発経緯や今後、電池開発の課題などについて産学双方からの視点から議論されています。話題は多岐にわたりますが、全固体電池が登場しても電池には研究課題がたくさんあり、そしてその研究は化学の分野としてやりがいがあって面白いものであることを感じさせられる内容となっています。

第Ⅰ部2章は電池の基礎であり、燃料電池を含めて各電池の基礎的な内容が解説されています。電気化学的な反応はもちろんのこと、電池の構造、電極界面での電子や化学種の移動についても詳細に解説されており、電池の研究を始める前に知っておくべき知識が凝縮されています。またこの章で図示されている二次電池の種類別のエネルギー密度のグラフは、なぜリチウムイオン電池が現状では最も優れているかがデータから理解することができるものであり、リチウムイオン電池の現状の理解には役立つと思いました。燃料電池にもいろいろな種類があり略語でその種類が表されますが、本書ではそれぞれの反応機構、電極反応、用途・開発段階が表やグラフでまとめられてあり種類ごとの違いを理解することができます。

第Ⅱ部から最新の研究紹介に入ります。1から10章が二次電池で11から18章が燃料電池の内容になっています。まず1から4章と9章、10章は、リチウムイオン電池以外の二次電池の研究が紹介されており、それぞれがリチウムイオン電池と比べてどのような長所短所があり、最新の性能といろいろな課題をクリアしたうえでどこまでの性能が出るのかが解説されています。リチウムイオン電池が主流の時代が続き、次世代の電池として全固体電池が広まっていくという見方が主流ですが、コストなどの問題から全固体電池だけが次世代電池というわけではないと考えられます。

2021年に発売されたトヨタ アクアに新搭載されたバイポーラ型ニッケル水素電池(出典:トヨタ自動車

そんな中、この章で紹介されている研究から、全ての二次電池が搭載されたデバイスにおいて、現状よりも何らかの性能や安全性、入手性の向上が期待できることが分かりました。第5から8章は、リチウムイオン電池に焦点を当て、電極と電解液の研究が紹介されています。どの部材に関しても広く研究が行われてきており、これまでに調べられた材料のデータが示されたうえで、どんな新しい材料にリチウムイオン電池の性能を向上させる伸びしろがあるのか、解説されています。

11章から14章は燃料電池の触媒についてで、なるべく効率を上げること、白金の使用量を最小限にすることか使わないことを目標とした研究が紹介されています。一方、15章から17章は電解質の研究について紹介されています。高いプロトン伝導性を持ちつつ長期間の耐久性も担保された新しい電解質について紹介されています。最後の18章は、放射光X線を用いて動作中の燃料電池の状態を測定する研究について紹介されています。電気自動車と燃料電池自動車は良く比較され、多くの市場予測が電気自動車が主流になることを示しています。しかしトラックなどのたくさんの荷物を搭載して長距離を走る商用車においては、燃料電池自動車の方がメリットが大きいと考えられており燃料電池の技術開発は重要だと言え、これらの章からはどんな課題がありどのようなアプローチでより良い燃料電池を開発されているのか知ることができます。

全体を通して現状と課題、解決のためのアプローチ、今後の展望が分かりやすくまとめられており専門外でも電池の研究について深く知ることができる内容となっています。18章のように新しい測定方法も紹介されており、電池以外にも界面の研究においても測定の限界を打破するためのヒントが隠れているかもしれません。

リチウムイオン電池に関するケムステ過去記事

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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