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シトクロムP450 BM3

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昨年(2019年)のノーベル賞はF. H. Arnoldに授与されることが発表され、ケムステでも毎年のノーベル賞関連記事と同様に彼女の業績についてハイライトさせていただきました。多くのケムステ読者の皆様にもノーベル賞ということで彼女の(現在の)中心的研究課題であるヘムタンパク質の進化工学について興味を持っていただけたのではないかと感じています。

Arnoldはヘムを補酵素とする酵素、P450やP411を用いた、C-Hヒドロキシル化、エポキシ化、シクロプロパン化、C-Hアミノ化、ボリル化、シリル化反応などの金属触媒反応の開発で知られています。今回はいくつかある実用的なP450酵素の中で、酵素触媒の鋳型として最も古典的かつ汎用されているP450BM3(CYP102A1)について紹介しようと思います。

P450の種類について

P450という名前は還元型のヘムに一酸化炭素(CO)を結合させるとソーレー吸収帯(Soret)と呼ばれる、450nm付近で強い光吸収をにもつことに由来します。この特徴はヘムタンパク質に特異的で、ヘムタンパク質の定量や同定に利用されています。

P450は主に一原子酸素添加酵素(モノオキシゲナーゼ)としての機能が最も知られています。すなわち、Cristina Whiteらがやっているような酸化反応です(どちらかというと順序は逆なのですが、合成側の人間からは彼女の仕事を想像してもらえば分かりやすいと思います。)その他にも、P450は還元反応、異性化反応、脱水反応、C-C 結合開裂など様々30近くの反応を触媒することがこれまでに報告されています。30という数字は人工的な触媒反応を含めた数字ですが、P450は薬物(毒物)代謝、ステロイドホルモン・胆汁酸などの生理活性物質の生合成、二次代謝などに関わっており、生体にはなくてはならない酵素です。

P450BM3 BDB ID: 4ZFA

といっても、これまで探索されているP450は少なくとも、30万種類。めちゃくちゃたくさんあります。そのため、早くからその特徴に応じたクラス分けが行われてきました。具体的にP450は現在のところ大きく、3種類に分類されています。(分類法によっては異なるのでこちらでは簡単な電子の流れを基準にした分類に留めます。後述しますが、P450が働くためにはあらかじめ電子をヘムに一電子ずつ、合計二電子供給してあげる必要があります。その供給方法には大きく三種類ある。P450BM3はそれら三種類のうち一番簡単な方法②のシステムを使っていて効率が良い覚えてください。)

1 ミクロソーム型 (NADPH -→ FAD/FMN ‐→ ヘムタンパク ‐→ 酸化反応開始、二種類のタンパク質で電子をやりとり)

2 自己完結型 (NADPH -→ (FAD ‐→  ヘムタンパク) ‐→ 酸化反応開始、一体型、一種類のタンパク質で完結)

3 細菌、ミトコンドリア型 (NADPH -→ FAD ‐→ FeS(鉄硫黄クラスター)‐→ ヘムタンパク ‐→ 酸化反応開始、三種類の異なるタンパク質で電子をやりとり)

真核生物由来のP450はN末端が膜に埋まりっていることに加え、還元ドメインとヘムドメインが別々に存在することから、リコンビナントなシステム(大腸菌や酵母でタンパク質をたくさん作るために、プラスミドにP450遺伝子を導入し、たくさん作らせるシステムのこと)での発現と精製、酵素反応のコントロールが極めて難しいとされています。一方、細菌由来のいくつかのP450はP450BM3のように、還元ドメインとヘムドメインが一本のポリペプチド鎖からできており、さらに膜ではなく可溶型のタンパク質として存在します(Self Sufficient)。そのため、他のP450に比べて比較的簡便にタンパク質を発現、精製、酵素反応に用いることが可能です。そのため、これまでの酵素の利用という点では可溶型のP450BM3やP450Rhなどが古典的に利用されてきました。今後は膜に局在するP450タンパク質の結晶構造の解析や変異導入、膜貫通部位の除去や脂溶性の表面の親水性化によるタンパク質の可溶化、還元ドメインとヘムドメインのFusionタンパク質の作成などの様々なアプローチにより、膜局在型のP450酵素の利用も進むことが期待されています。

P450による酸化反応のメカニズム

メカニズムの話に入る前に。

P450が酸化剤として利用する分子状酸素は三重項基底状態で存在し、そのままでは安定すぎて全く反応しない一方で、活性化された一重項状態は反応性が高すぎ反応の制御が難しいことが知られています。さらに、酸素分子は4電子分を酸化する能力を有していることから、酸化の制御がそのままでは困難です。それゆえ、P450は酸化反応において、2電子をひとつづつ補酵素であるNADPHから間接的に供給を受け、残りの二電子分の酸化反応を行うことで、活性を調節しています。

ここまでで、4電子酸化剤である酸素と2電子還元剤のNADPHを用いて2電子を基質から奪い取る触媒がヘム酵素ということが分かってもらえたと思います。ここからはその具体的なメカニズムに関してです

P450の触媒サイクル、赤字はシャントパスウェイといわれる過酸化水素によってCompound1が生成するペルオキシダーゼのメカニズム。出典はこちら

まず、酸化反応は電子のヘムへの供給から始まります。ヘムタンパク質は還元ドメイン(FADやFMN)においてNAD(P)Hの2電子はをヒドリドイオン(H)として受け取り、電子伝達を行うことでヘムの中心金属をFe3+からFe2+へと一電子還元します。そうすると、酸素が鉄にくっつくことができるようになり、鉄の配位数は4になると同時に、酸素分子にはラジカルが生じることになります。それを二つ目の電子が還元し、プロトン化されることで水とCompound 1が生成します。このCompound 1(5価)と呼ばれる状態が、P450関連酵素による酸化反応の活性種であるとされています。基質がヘム酵素のポケットに存在すると酸化反応(二電子が基質から奪い取られ、ヘムは二電子還元を受け、最終的に3価に戻る。)が進み、ヘムは触媒サイクルを完結するという訳です。

P450BM3の特徴

P450BM3はもともと、Bacillus megateriumより単離された119 kDaのタンパク質で、三つの電子を伝達する部位から構成されています。P450BM3はヘム酵素グループ2と同様の還元ドメイン(FAD-FMN)をC-末端側に、ヘムドメインをC末端側に有するタンパク質です。ヘムドメイン以外の二つのドメインは大きく、1)NADPHから電子を受け取るFAD部位、2)還元型FADからHemeに電子を伝達するFMN部位から構成されます。

P450の酵素触媒としての利用

1、酸化反応に利用した例

P450BM3はアラキドン酸のオメガ-2位(CH3末端から3番目の位置の炭素)選択的に約17000 /min程度の効率で酸化することでヒドロキシ体を与えることが知られています。この数字は、P450ファミリーの中でも最も触媒回転数が高い部類に分類され、効率的な酸化反応を行うためのモデル酵素としてこれまで注目を集めてきました。しかし、ほかのP450酵素と同様にP450BM3も基質の選択性が高く、天然型のBM3酵素はおもに長鎖脂肪酸のみを選択的に酸化します。ゆえに、天然型の酵素を長鎖脂肪酸の酸化反応以外に利用することはできません。P450BM3の反応の選択性はカルボン酸部位がArg47とSalt Bridgeを形成することによること、脂溶性の高い脂肪鎖が認識される比較的細長いトンネル状の部位が存在することなどによるためだと考えられています。それゆえ、これまで基質の拡大を目指して基質認識部位の周辺のアミノ酸残基を中心に変異導入が試みがられてきました。その結果、現在ではトルエンやナフタレン誘導体などの芳香族化合物などの酸化も可能となりつつあります。

2、カルベンを用いた反応例

P450による酸化反応では酸化活性種であるCompound Iを形成させるための電子伝達が必要だったものの、カルベンを用いた反応系ではCompound I等価体をFe2+から電子伝達無しで生成することになります。よって近年盛んに行われている、カルベン型の触媒サイクルではヘムの中心金属であるFeは2価と4価の間で行き来することになります(過酸化水素を用いたShunt Pathwayを利用するPeroxygenaseと近い)。そのため、カルベン型の反応には電子を供給する還元ドメイン(FAD-FMN)は必要なく、ヘムドメインのみを大腸菌に発現させるだけで用いることができます。ヘムドメインのみの場合タンパク質は比較的小さく(450-470アミノ酸)、高い発現効率でタンパク質を調整でき、変異導入による酵素機能の改変に専念できます。尚、2価鉄は酸素との親和性が高いので、反応はArもしくは窒素雰囲気下で行われます。(この手の反応についてはまた次回詳しく述べます)

まとめ

筆者は扱ったことはありませんが、周りを見ていると、P450は他の酵素と異なり扱いが難かしそうです。プラスミドにP450を発現させる場合も発現効率が低く抑える必要があったり(きちんとフォールディングされない)、安定性と溶解性が比較的低いこと、許容性が高くないことなど、問題は様々あります。一方で、ヘム酵素は多彩な反応を触媒することが分かってきていること、天然には未だ調べられたことのないHeme酵素が沢山あることから、これからも注目を集めていくものと思われます。近年、メタゲノムが解析可能になり、変異導入もPCRで簡単にできるようになり、タンパク質を発現する場合も会社が遺伝子の合成、プラスミドにするところまでやってくれたりと、バイオロジー領域の仕事が最小限で済む様々な手法やサービスが開発されてきています。そのため、以前までは合成化学者からはかなり遠い存在だった酵素反応も比較的手が届きやすくなってきています。2020年現在、筆者が勝手に選ぶのHemeベースの酵素のKey PlayerはArnold(P450, P411など)、その弟子のFasan(クジラの精子のミオグロビンなどを使っている)、Flitsch、Schwanbergなどでしょうか。興味を持ったらここら辺のPIを調べて見られると面白いと思います。また、日本でも荘司先生や林先生をはじめとして多くの研究者の方がヘム(人工)酵素に着目して仕事をされています。

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シトクロムP450を用いたBiocatalystの創成

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東京の大学で修士を修了後、インターンを挟み、スイスで博士課程の学生として働いていました。現在オーストリアでポスドクをしています。博士号は取れたものの、ハンドルネームは変えられないようなので、今後もGakushiで通します。

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