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イグノーベル賞2022が発表:化学賞は無かったけどユニークな研究が盛りだくさん

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今年もノーベル賞の季節がやってきました。今年の受賞者の予想に一部ではすでに盛り上がりを見せていますが、その前にイグノーベル賞の発表を忘れてもらっては困ります。授賞式は2020年と2021年同様オンラインで、日本時間の9月16日朝に開催されました。残念ながら化学賞はありませんでしたが、今年も各分野のユニークな研究がこのイグノーベル賞を受賞しましたので紹介させていただきます。

薬学賞(33:40から)

患者が化学療法を受ける時にアイスクリームをなめると副作用を抑えることができるという研究

Marcin Jasiński, Martyna Maciejewska, Anna Brodziak, Michał Górka, Kamila Skwierawska, Wiesław Jędrzejczak, Agnieszka Tomaszewska, Grzegorz Basak, and Emilian Snarski,

Ice-cream used as cryotherapy during high-dose melphalan conditioning reduces oral mucositis after autologous hematopoietic stem cell transplantation

今年はこの薬学賞が唯一化学に近い分野でした。内容は、高い濃度の化学療法においては、口内の粘膜炎が最も頻繁に起きる副作用の一つですが、凍結療法がそれを防ぐ方法です。そこで本研究グループでは、アイスクリームを舐めて口内の粘膜炎を抑えられるか調べました。

トロフィー授与は2001年と2022年にノーベル化学賞を受賞したシャープレス教授が行いましたが、その際にこのアイスクリームを使うアイディアの実施について柔軟に遂行することができたのか受賞者のチームに尋ねました。すると受賞者は、実験実施の課題はアイスクリームの準備であったとした上で、病院のカフェテリアがこの研究のためにアイスを提供してくれたことを心から感謝していると加えて答えました。

アイスクリームありなしでの炎症が発生した患者の割合(出典:原著論文

エンジニアリング賞(33:50から)

人が最も効率的に指を使ってつまみを回す方法の発見

Gen Matsuzaki, Kazuo Ohuchi, Masaru Uehara, Yoshiyuki Ueno, and Goro Imura, for trying to discover the most efficient way for people to use their fingers when turning a knob.

円柱形つまみの回転操作における指の使用状況について

すでに多くの日本のニュースが取り上げていますが、今年も日本人の受賞がありました。受賞したのは千葉工業大学のチームで、授賞式には千葉工業大学 創造工学部 デザイン科学科 の松崎 元 教授が登場しました。トロフィー授与は再びシャープレス教授で、松崎教授は、シャープレス教授に自分の鼻をつまんで回してみてとお願いしました。その後、二つの指で回したことを見て、何で2本の指を使ったのですかね、3本は?などと話し、その場で受賞研究の面白さを伝えています。

応用心臓学賞(11:10から)

新しいロマンティックな相手と初めて会った時、お互いに魅力的だと感じるとお互いの心拍数が同期する発見とその証明

Eliska Prochazkova, Elio Sjak-Shie, Friederike Behrens, Daniel Lindh, and Mariska Kret

Physiological synchrony is associated with attraction in a blind date setting

マンガやドラマのような話を実験的に証明した研究で、具体的には男女が初めて対面する個室の環境を作り、その中でそれぞれの体がどう変化するかを調べました。一般的な変化であるアイコンコンタクトや表情、ボディランゲージ、心拍数、汗では魅力的に感じているかどうかは予測できず、心拍数の同期しているかで確認できることを発見しました。個人的には、ぜひこの実験に参加してみたかったです!

文学賞(15:50から)

法的文書を不必要に難しくする要因の分析

Eric Martínez, Francis Mollica, and Edward Gibson

Poor writing, not specialized concepts, drives processing difficulty in legal language

本研究は法的文書の難しさを理解するために、文章構成を他の種類の文章と比較しどのような違いがあるのか調べました。また、被験者に法的文書とシンプルな文章の二つを読んでもらったり、要約したり、内容に関する問いに答えてもらったりして認識に違いが出るのかを実験しました。

文学賞ということで理系の自分が理解できるか疑問でしたが、イグノーベル賞らしく誰にもわかりやすいユニークな研究でした。

法的文書と他の種類の文章との文章構成の違い (出典:原著論文

生物学賞(24:05から)

サソリの便秘の交尾に対する影響

Solimary García-Hernández and Glauco Machado

Short- and long-term effects of an extreme case of autotomy: does “tail” loss and subsequent constipation decrease the locomotor performance of male and female scorpions?

生物学賞では、1990年に物理学賞を受賞したジェローム・フリードマン教授がマーク・エイブラハムズと同室から出演されました。サソリは敵から逃れるために自発的に尾を切断することがありますが、これを行うと肛門を含む消化管の一部を失うことになり、再生もされないため便秘になってしまいます。そこで、本研究では便秘になった状態がサソリにどう影響があるのかを調べました。

美術史学賞(47:40から)

古代マヤ文明における浣腸の儀式の学際的アプローチ

Peter de Smet and Nicholas Hellmuth

A multidisciplinary approach to ritual enema scenes on ancient Maya pottery

題名の通り、古代マヤ文明で行われていた浣腸についての研究が受賞しました。ニコラスは民族衣装らしきものを着て楽しそうに授賞式に参加しているものの、背後には楽器を持った無表情の女性が二人いて、ピーターと2019年ノーベル経済学を受賞したエステル・デュフロ教授は神妙な顔をして参加しているというシュールな感じのセッションでした。

物理学賞(56:20から)

子ガモが泳ぐときに組む隊列の理解

Frank Fish, Zhi-Ming Yuan, Minglu Chen, Laibing Jia, Chunyan Ji, and Atilla Incecik

Energy Conservation by Formation Swimming: Metabolic Evidence from Ducklings,” Frank E. Fish, in the book Mechanics and Physiology of Animal Swimming, 1994, pp. 193-204.

Wave-Riding and Wave-Passing by Ducklings in Formation Swimming

子ガモが親ガモの後ろで隊列を組んで泳ぐ様子は、湖などで見受けられますが、なぜ一直線の隊列を組むのかを調べたのが本研究の内容です。受賞者の研究紹介によると先頭の親ガモが作る波によって子ガモが泳ぎやすくなることが計算によって判明し、さらに一羽目の子ガモが最もその恩恵を受けるものの、三羽目以降の子ガモへの効果は同じであることも判明したそうです。

隊列を組んで泳いでいる時の挙動 (出典:原著論文

平和賞(1:04:20から)

ゴシップを話す人の真実を伝えるか、うそを伝えるかの判断を助けるアルゴリズムの開発

Junhui Wu, Szabolcs Számadó, Pat Barclay, Bianca Beersma, Terence Dores Cruz, Sergio Lo Iacono, Annika Nieper, Kim Peters, Wojtek Przepiorka, Leo Tiokhin and Paul Van Lange

Honesty and dishonesty in gossip strategies: a fitness interdependence analysis

本研究では、ゴシップを話す人がどのような時に真実を伝え、どのような時にうそを伝えるのか、いくつかのゲームを行った結果からモデルを構築しました。トロフィー授与は、2018年にノーベル化学賞を受賞したフランシス・アーノルド教授で、データソース収集方法について受賞者に尋ねたところ、バーで話を聞くことに時間を費やしたと答えました。

経済学賞(1:12:20から)

なぜ成功は、もっとも才能のある人ではなく、もっとも幸運な人に行くかの数学的な説明

Alessandro Pluchino, Alessio Emanuele Biondo, and Andrea Rapisarda

Talent vs Luck: the role of randomness in success and failure

IQといった才能は、ガウシアン分布に従いますが、富を得るような成功はパレート分布に従い、裕福な人は少数で貧乏な人が大多数いる状況になっています。そこで大きな成功は、どのようなにもたらされるのか仮想世界を構築しシミュレーションすることを本研究では行いました。

受賞式では2018年にノーベル物理学賞を受賞したドナ・ストリックランド教授が登場し、幸運によってノーベル賞を受賞したが、今日は不運にもコロナに感染してしまったと受賞研究に関連するエピソードを披露されていました。また、AlessandroとAndreaは2010年にマネジメントイグノーベル賞を受賞しており、2回目の受賞となりました。

セーフティエンジニアリング賞(1:17:30から)

ダミーのヘラジカ衝突テストの開発

Magnus Gens

Moose Crash Test Dummy

スカンジナビア半島にはヘラジカが多く生息していて、車と衝突することが問題となっています。そこで本研究では、ヘラジカと衝突した時のボディの破損具合を実験的に再現するためにダミーのヘラジカを作る研究を行いました。トロフィー授与は2008年にノーベル化学賞を受賞したマーティン・チャルフィー教授で、車がヘラジカに衝突する角度について質問をされていました。

残念ながら化学賞はありませんでしたが、昨年同様ノーベル化学賞者が多数登場し、授賞式を盛り上げていました。そして何より化学に関係なくてもユニークな研究が多数紹介されており、楽しく授賞式を視聴することができました。昨年同様、イグノーベル賞の展示会が大阪台北で開かれる予定になっており、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。来年は化学賞が発表され、コロナ以前のようにMITでの会場実施となることを期待します。

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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