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第7回ImPACT記者懇親会が開催

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内閣府は6月25日、内閣府 総合科学技術・イノベーション会議が主導する「革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)」で取り組んでいる各研究開発プログラムの出口戦略や成果などについて発表する「第7回ImPACT記者懇親会」を東京都千代田区の中央合同庁舎で開催。この中でImPACT伊藤プログラムで取り組んでいる「超薄膜化・強靱化『しなやかタフポリマー』の実現」に向けた具体的な成果として、ブリヂストンと住友化学の2社によるプレス発表を実施した。  (Impress:6月29日)

革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)とは、実現すれば産業や社会のあり方に大きな変革をもたらす革新的な科学技術イノベーションの創出を目指し、ハイリスク・ハイインパクトな挑戦的研究開発を推進することを目的として創設されたプログラムです。今回の記者会見では、東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻の伊藤 耕三教授がプログラム・マネージャーを務める超薄膜化・強靱化『しなやかなタフポリマー』の実現に関する研究発表が行われました。

低燃費性と高破壊強度を両立したゴム複合体の開発(ブリジストン株式会社)

目標:軽くても十分な強度を持つゴムの開発
研究成果:、ゴム材料の強度を約5倍に向上するとともに、タイヤの燃費特性に寄与する材料物性も15%向上する、革新的なゴム複合体を開発
実用化の動き:新規ゴム材料を用いたタイヤの試作・評価を行っており、2020年代前半の実用化を目指す。

タイヤの原材料であるゴムの使用量を減らすと軽くなり自動車の燃費は良くなりますが、タイヤの強度が低下します。そこで革新的なゴムを開発し、薄くても強度を持つタイヤを開発することがこのプロジェクトの目標です。2016年には「高強度材料」を用いて摩耗を従来よりも60%抑えたゴムを開発したものの燃費が悪く、「ダブルネットワーク」という硬いと柔らかい成分をゴムに混ぜるというコンセプトに方向転換し燃費と強度を両立したゴムを開発できたそうです。

ダブルネットワーク構造を取り入れたゴム複合体の概念図および製造プロセス(引用:JSTプレスリリース

ゴムの原子間力顕微鏡位相像(左:制御でネットワークあり、右:制御せずネットワークなし)(引用:JSTプレスリリース

そもそもゴムの強度の評価は単純ではなく、本研究ではき裂進展現象についてのミクロ・マクロスケールでの実験的解析、理論シミュレーションなどを通じてゴム材料の高強度化のメカニズムを明らかにしてきたからこその研究成果だと言えます。

開発品の位置づけ(引用:JSTプレスリリース

PMMAをベースとした軽くて頑丈な透明樹脂を開発(住友化学株式会社)

目標:強度がガラス並みに高い透明樹脂の開発
研究成果:自動車用安全ガラス試験が定める前面窓用合わせガラスの耐衝撃性試験をクリアできる透明樹脂を開発
実用化の動き:大型へのスケールアップを検討

自動車には多くのガラス窓が使われていますが、これを樹脂に置き換えことができると大幅な車体の軽量化が見込まれます。しかし、乗員の安全を守るために十分な強度を確保できていませんでした。そこで、高剛性だが割れやすいポリメタクリル酸メチル(PMMA)を改良するという方針で研究が進められています。

PMMAは、材料を引っ張った際にほとんど伸びることなく途中で突然割れてしまう挙動を室温で示す脆性破壊樹脂ですが、改良することで脆性-延性転移点をずらし樹脂が伸びて大きく変形したのちに切れてしまう挙動を室温で示す延性破壊樹脂の開発に成功しました。その結果曲げ弾性率については延性破壊を示す従来の透明材料に対して約1.6倍、シャルピー衝撃強度については脆性破壊を示す従来の透明樹脂に対して10倍以上の革新的な高剛性・高タフネス透明樹脂の開発に成功しました。

脆性破壊と延性破壊(引用:JSTプレスリリース

脆性―延性転移(引用:JSTプレスリリース

 

どちらも自動車に関連する研究開発でしかも内燃・電気自動車どちらにも恩恵をもたらす技術であることから、早期の実用化が期待されます。

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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