[スポンサーリンク]

ケムステニュース

原子力機構大洗研 150時間連続で水素製造 高温ガス炉 実用化へ大きく前進

[スポンサーリンク]

日本原子力研究開発機構(原子力機構)は25日、大洗町成田町の大洗研究所で高温ガス炉の高温工学試験研究炉「HTTR」の熱を利用する水素製造技術の試験で連続製造時間が150時間を超えることに成功したと発表した。950度という高温を利用できる高温ガス炉の特長を生かした、二酸化炭素(CO2)排出のない水素製造法。世界初の原子力による水素製造の実用化へ大きく前進した。  (引用:茨城新聞1月26日)

今回、ISプロセスと呼ばれる水素の製造プロセスを150時間以上稼働させることに成功しました。このISは、ヨウ素(Iodine)と硫黄(Sulfur)から名づけられている通り、硫酸とヨウ化水素、水の反応によって水素を製造するプロセスです。素反応は、

I2+SO2+2H2O → H2SO4+2HI(ブンゼン反応)
2HI → H2+I2(HI分解反応)
H2SO4 → SO2+H2O + 0.5O2(H2SO4分解反応)

から成り、プロセスとしてはH2O → H2+0.5O2と水が分解する反応となります。この反応に必要なのはヨウ化水素と三酸化硫黄を分解する高温熱源で、それを高温ガス炉と呼ばれる新しい原子力炉から取り出そうと原子力機構は研究を続けています。

ISプロセスの概略構成(引用:高温ガス炉水素・熱利用研究センター

現在の水素製造の主流は化石燃料の水蒸気改質であるため、結局枯渇していく化石燃料を使い二酸化炭素も副生成物として発生します。一方でこの高温ガス炉+ISプロセスを使えば二酸化炭素は発生せず、水素製造コストも他の技術と同程度となると予想されています。

これまでのISプロセスの最長運転時間は中国での60時間で、原子力機構では配管の内部のコーティングを変えるなど、腐食性のある流体に耐えうる装置の開発、改良を重ねることで、長時間運転の目安となる150時間の連続水素製造に成功したそうです。ただしこの運転では電気ヒーターによる熱を利用していて、原子炉の運転によって生じた熱て水素を製造したわけではありません。この水素製造に使われる原子炉HTTRは現在運転停止中で、2014年に新規制基準適合審査を申請し今年10月の運転再開を目指しているようです。

今回の実験では使われなかった高温ガス炉についてですが、現在使われている原子炉との最大の違いは熱媒体です。現行の原子炉では水を使って蒸気を作り出し、タービンを回すことで発電しますが、高温ガス炉ではヘリウムを高温にすることでタービンを回して発電します。水を原子炉で使わないため、福島第一原発事故のように高温による水素ガスの発生が起きません。また原子炉の構造と使用している材料により電源喪失による熱暴走が起きないことが確認されています。以上のような理由により安全性が高い原子炉とされています。

高温ガス炉の構造(引用:高温工学試験研究炉

原発に対するイメージは福島第一原発の事故により大きく変わりましたが、上記のような利便性と高い安全性により高温ガス炉は開発が続けられていて、平成26年4月11日に閣議決定されたエネルギー基本計画では、水素製造などの産業利用が見込まれ、安全性の高度化に貢献する原子力技術として、高温ガス炉の研究開発を国際協力の下で推進することが明記されました。さらに平成29年6月9日に閣議決定された「未来投資戦略」2017-Society5.0の実現に向けた改革-においても、国際協力も適切に進めながら高温ガス炉を活用することなど将来に向けた研究開発の推進や人材育成等に着実に取り組むことが政府の方針として明記されています。

もちろん高温ガス炉も、原子炉であるため放射性廃棄物が発生します。そのため発電も水素製造としてもほかのテクノロジーと比べると、副生成物として放射性廃棄物か二酸化炭素のどちらが悪いかというに議論は行きつきます。多くの人類が豊かに生活していく以上、環境負荷をゼロにすることは不可能であり、国や地域の事情に応じて最善のテクノロジーを利用していくしかないのではないでしょうか。

関連書籍

[amazonjs asin=”B012ZISNM6″ locale=”JP” title=”トリプルジェネレーション型次世代原子炉: 「高温ガス炉」の安全性と多機能性”] [amazonjs asin=”4907002580″ locale=”JP” title=”再生可能エネルギーによる水素製造”]

関連リンク

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 国公立大入試、2次試験の前期日程が実施 ~東京大学の化学の試験を…
  2. 室温で液状のフラーレン
  3. ハーバード大Whitesides教授プリーストリーメダルを受賞
  4. COX2阻害薬 リウマチ鎮痛薬に副作用
  5. 発展が続く触媒研究~京大より触媒研究の成果が相次いで発表される~…
  6. 産学官若手交流会(さんわか)第19回ワークショップ のご案内
  7. 化学・バイオつくば財団賞:2研究が受賞 /茨城
  8. GoogleがVRラボを提供 / VRで化学の得点を競うシミュレ…

注目情報

ピックアップ記事

  1. アイルランドに行ってきた①
  2. H-1B ビザの取得が難しくなる!?
  3. NHC銅錯体の塩基を使わない直接的合成
  4. 山本嘉則 Yoshinori Yamamoto
  5. 植物性油の再加熱によって毒物が発生
  6. 山元公寿 Kimihisa Yamamoto
  7. 【日産化学 27卒】 【7/10(木)開催】START your ChemiSTORY あなたの化学をさがす 研究職限定 Chem-Talks オンライン大座談会
  8. 犬の「肥満治療薬」を認可=米食品医薬品局
  9. 役に立たない「アートとしての科学」
  10. 掃除してますか?FTIR-DRIFTチャンバー

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年2月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728  

注目情報

最新記事

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

第58回Vシンポ「天然物フィロソフィ2」を開催します!

第58回ケムステVシンポジウムの開催告知をさせて頂きます!今回のVシンポは、コロナ蔓延の年202…

第76回「目指すは生涯現役!ロマンを追い求めて」櫛田 創 助教

第76回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第75回「デジタル技術は化学研究を革新できるのか?」熊田佳菜子 主任研究員

第75回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第74回「理想的な医薬品原薬の製造法を目指して」細谷 昌弘 サブグループ長

第74回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第57回ケムステVシンポ「祝ノーベル化学賞!金属有機構造体–MOF」を開催します!

第57回ケムステVシンポは、北川 進 先生らの2025年ノーベル化学賞受賞を記念して…

櫛田 創 Soh Kushida

櫛田 創(くしだそう)は日本の化学者である。筑波大学 数理物質系 物質工学域・助教。専門は物理化学、…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP