[スポンサーリンク]

日本人化学者インタビュー

第54回「光を使ってレゴブロックのように炭素と炭素を繋げる」吉見 泰治 教授

[スポンサーリンク]

第54回目の研究者へのインタビューは福井大学の吉見泰治先生にお願いいたしました。第27回ケムステVシンポの講師です。

有機光化学を世界に先駆けて進められていた先生です。第43号のCSJカレントレビューでは、PartII:研究最前線 の第一章「カルボン酸の光脱炭酸を経由したラジカル生成とアルケンへのラジカル付加反応」を寄稿されています。有機光反応の面白さの伝わる素晴らしい寄稿で必見です。是非第27回ケムステVシンポに参加して、割引価格でCSJカレントレビューをGETしましょう!

さて、このインタビューでは吉見先生の人柄がうかがえます。それではインタビューをご覧ください!

Q1. あなたが化学者になった理由は?

正直に言いますと、大学の化学系を選んだ理由は、化学自体には興味がなかったのですが、手に職がついて、白衣でも着てれば給料がもらえるだろうと考えたからです。これは大学の3年生の時まで同じで、学部生の間はたくさん遊びました(学生寮に住んでいたのでいろいろと、、、)。しかし、4年生になって研究室(大阪府立大学水野一彦研究室)で最新の論文を読み、誰もやったことがない実験を行い、反応機構を推測することで、こんなに面白いことがあるのかと思い、これを仕事にしたいと考えました。大学院の入試はギリギリの成績だったと思いますが、その後ぐらいから本格的に勉強し始めました。大学の入試もあまり真剣に勉強しませんでしたが、研究室に入ってからは人生で1番、勉強したと思います。

Q2. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

どんな分野でもいいので、ゼロから会社を立ち上げてみたいです。それなら、今やってる研究で大学発ベンチャーを設立しろと言われるかもしれませんが、基礎的な有機化学をやっているとかなりハードルが高いので、IT系で起業してみたいですね。

Q3. 現在、どんな研究をしていますか?また、どのように展開していきたいですか?

光エネルギーを利用した有機合成的に有用な反応の開発です。2002年にドクターを取ってすぐに福井大学に就職が決まり、ラッキーなことに自分自身の研究を始めることができました。地方大学でゆっくりと研究を続けていたのですが、SDGsや石油・二酸化炭素をめぐる状況、MacMillan教授の参入によって2010年代から競争の激しい分野になってしまい、正直戸惑っています。人や測定機器、研究費がない地方大学にとって、競争について行くことが難しくなってきています。しかし、学生時代に感じていた、光を利用した環境調和型有機合成反応の大きな利点を皆さんが理解され、次々と新しい光反応が論文として報告されるようになって、うれしくもあります。この分野は、まだまだ伸び代があり、その一部に貢献できればと思っています。自分の研究のこれからの展開は、太陽光で有用な化合物を合成できる反応や安価な基質から熱反応では不可能な共有結合の繋ぎ方を見つけて、それを世の中に出し、社会に貢献していきたいです。

Q4. あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

偉人ではないのですが、石鹸をどのような状況で見つけたか、それをなぜ使用しようとしたか、を聞いてみたいです。5000年前に、動物の油脂と植物の灰(塩基)を混ぜ、加熱したことで得られたらしいですが、どのような条件かつ偶然でできたか、また当時の人はそれを何と思って使用したのかを知りたいです。

Q5. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

5年ぐらい前(2017年ぐらい)に、外部から依頼があった化合物の合成だったと思います。研究費捻出かつ卒論・修論の研究には関係がないので、自分で合成しました。

Q6. もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

音楽:BABYMETALです。日本語の歌詞で世界に進出し、人気を獲得していく。誰もやったことがない道を進んでいく姿にしびれます。

本:CSJ Current Reviewシリーズです。日本語で書かれていますので、他分野のものをゆっくりと見てみたいですね。

Q7. 次にインタビューをして欲しい人を紹介してください。

同僚の杉原伸治先生(福井大・高分子化学)です、地方の大学でも頑張っている方にスポットライトを当てていただければと思います。

研究者の略歴

名前:吉見泰治

所属: 福井大学

専門: 有機光化学

略歴:
2002年3月 大阪府立大学大学院工学研究科博士後期課程修了
2002年4月 福井大学工学部助手
2007年4月 福井大学大学院工学研究科助教
2008年4月 福井大学大学院工学研究科講師
2010年8月 福井大学大学院工学研究科准教授
2022年4月 福井大学学術研究院工学系部門教授.

spectol21

投稿者の記事一覧

ニューヨークでポスドクやってました。今は旧帝大JKJ。専門は超高速レーザー分光で、分子集合体の電子ダイナミクスや、有機固体と無機固体の境界、化学反応の実時間観測に特に興味を持っています。

関連記事

  1. 第12回 DNAから人工ナノ構造体を作るーNed Seeman教…
  2. 第87回―「NMRで有機化合物の振る舞いを研究する」Daniel…
  3. 第164回―「光・熱エネルギーを変換するスマート材料の開発」Pa…
  4. 第13回 化学を楽しみ、創薬に挑み続ける ―Derek Lowe…
  5. 第168回―「化学結晶学から化学結合を理解する」Guru Row…
  6. 第142回―「『理想の有機合成』を目指した反応開発と合成研究」山…
  7. 第42回―「ナノスケールの自己集積化学」David K. Smi…
  8. 第62回「分子設計ペプチドで生命機能を制御する!!」―松浦和則 …

注目情報

ピックアップ記事

  1. 長井長義の日記など寄贈 明治の薬学者、徳島大へ
  2. ジスルフィド架橋型タンパク質修飾法 Disulfide-Bridging Protein Modification
  3. (–)-Daphenezomine AとBの全合成
  4. 第五回ケムステVシンポジウム「最先端ケムバイオ」開催報告
  5. 人工軟骨への応用を目指した「ダブルネットワークゲル」
  6. NMRデータ処理にもサブスクの波? 新たなNMRデータ処理ソフトウェアが登場
  7. 有機合成化学協会誌2021年7月号:PoxIm・トリアルキルシリル基・金触媒・アンフィジノール3・効率的クリック標識法・標的タンパク質指向型天然物単離
  8. ピーター・リードレイ Peter Leadlay
  9. 第96回日本化学会付設展示会ケムステキャンペーン!Part I
  10. 換気しても、室内の化学物質は出ていかないらしい。だからといって、健康被害はまた別の話!

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2022年7月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

ペーパークラフトで MOFをつくる

第650回のスポットライトリサーチには、化学コミュニケーション賞2024を受賞された、岡山理科大学 …

月岡温泉で硫黄泉の pH の影響について考えてみた 【化学者が行く温泉巡りの旅】

臭い温泉に入りたい! というわけで、硫黄系温泉を巡る旅の後編です。前回の記事では群馬県草津温泉をご紹…

二酸化マンガンの極小ナノサイズ化で次世代電池や触媒の性能を底上げ!

第649回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院環境科学研究科(本間研究室)博士課程後期2年の飯…

日本薬学会第145年会 に参加しよう!

3月27日~29日、福岡国際会議場にて 「日本薬学会第145年会」 が開催されま…

TLC分析がもっと楽に、正確に! ~TLC分析がアナログからデジタルに

薄層クロマトグラフィーは分離手法の一つとして、お金をかけず、安価な方法として現在…

先端の質量分析:GC-MSおよびLC-MSデータ処理における機械学習の応用

キャラクタライゼーションの機械学習応用は、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)およびラボオートメ…

原子半径・電気陰性度・中間体の安定性に起因する課題を打破〜担持Niナノ粒子触媒の協奏的触媒作用〜

第648回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科(山口研究室)博士課程後期2年の松山…

リビングラジカル重合ガイドブック -材料設計のための反応制御-

概要高機能高分子材料の合成法として必須となったリビングラジカル重合を、ラジカル重合の基礎から、各…

高硬度なのに高速に生分解する超分子バイオプラスチックのはなし

Tshozoです。これまでプラスチックの選別の話やマイクロプラスチックの話、およびナノプラスチッ…

新発想の分子モーター ―分子機械の新たなパラダイム―

第646回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機反応論研究室 助教の …

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP