[スポンサーリンク]

身のまわりの分子

ペンタシクロアナモキシ酸 pentacycloanamoxic acid

[スポンサーリンク]

 ペンタシクロアナモキシ酸(pentacycloanamoxic acid)は、嫌気性細菌が産生する脂肪酸の一種です(図はメチルエステル)。

歴史・用途

嫌気性アンモニア酸化(Annamox)細菌の一種から単離され、シクロブタン環が複数縮合した構造を持ちます。天然由来の脂肪酸は多数知られていますが、四員環を持つ脂肪酸の発見例はこれが初めてであり、その構造的ユニークさとインパクトゆえ、単離論文は見事Nature誌に掲載されています[1]

一度見たら忘れられないこのユニークな構造は、有害物質の防御壁形成に役立っています。すなわち、シクロブタン環のはしご型部分のお互いが重なり合うことで、アンモニア代謝部で非常に高密度な脂質二重膜を形成します。 アンモニア酸化の代謝中間体であるオキシムやヒドラジンは生体にとって有害なため、このような丈夫な二重膜を作ることで、その漏洩を防いでいると想像されています。

2006年には、Harvard大学のE.J.Coreyらによって不斉全合成が達成[2]されました。自然界と人工の合成法の違いという科学的側面からも、興味深い報告の一つとなっています。

関連論文

  1. Damst, J. S. S. et al. Nature 2002, 419, 708. doi:10.1038/nature01128
  2. (a) Mascitti, V.; Corey, E. J. J. Am. Chem. Soc. 2004, 127, 15664. DOI: 10.1021/ja044089a (b) Mascitti, V.; Corey, E. J. J. Am. Chem. Soc.  2006, 128, 3118. DOI: 10.1021/ja058370g

関連リンク

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. アピオース apiose
  2. キセノン (xenon; Xe)
  3. パクリタキセル(タキソール) paclitaxel(TAXOL)…
  4. ノルゾアンタミン /Norzoanthamine
  5. 化学者のためのエレクトロニクス講座~無線の歴史編~
  6. ノビリシチンA Nobilisitine A
  7. 化学者のためのエレクトロニクス講座~無電解卑金属めっきの各論編~…
  8. カルタミン

注目情報

ピックアップ記事

  1. ポール・モドリッチ Paul L. Modrich
  2. ベンジャミン・フランクリンメダル―受賞化学者一覧
  3. 化学クラスタ発・地震被害報告まとめ
  4. 2014年ノーベル化学賞・物理学賞解説講演会
  5. アゾベンゼンは光る!~新たな発光材料として期待~
  6. 沼田 圭司 Keiji Numata
  7. 第67回―「特異な構造・結合を示すランタニド/アクチニド錯体の合成」Polly Arnold教授
  8. 第18回 出版業務が天職 – Catherine Goodman
  9. 夏休みのおでかけに最適! 化学にまつわる博物館5選 ~2024年版~
  10. 未来の製薬を支える技術 – Biotage®金属スカベンジャーツールキット

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2007年9月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930

注目情報

最新記事

配座制御が鍵!(–)-Rauvomine Bの全合成

シクロプロパン環をもつインドールアルカロイド(–)-rauvomine Bの初の全合成が達成された。…

岩田浩明 Hiroaki IWATA

岩田浩明(いわたひろあき)は、日本のデータサイエンティスト・計算科学者である。鳥取大学医学部 教授。…

人羅勇気 Yuki HITORA

人羅 勇気(ひとら ゆうき, 1987年5月3日-)は、日本の化学者である。熊本大学大学院生命科学研…

榊原康文 Yasubumi SAKAKIBARA

榊原康文(Yasubumi Sakakibara, 1960年5月13日-)は、日本の生命情報科学者…

遺伝子の転写調節因子LmrRの疎水性ポケットを利用した有機触媒反応

こんにちは,熊葛です!研究の面白さの一つに,異なる分野の研究結果を利用することが挙げられるかと思いま…

新規チオ酢酸カリウム基を利用した高速エポキシ開環反応のはなし

Tshozoです。最近エポキシ系材料を使うことになり色々勉強しておりましたところ、これまで関連記…

第52回ケムステVシンポ「生体関連セラミックス科学が切り拓く次世代型材料機能」を開催します!

続けてのケムステVシンポの会告です! 本記事は、第52回ケムステVシンポジウムの開催告知です!…

2024年ノーベル化学賞ケムステ予想当選者発表!

大変長らくお待たせしました! 2024年ノーベル化学賞予想の結果発表です!2…

“試薬の安全な取り扱い”講習動画 のご紹介

日常の試験・研究活動でご使用いただいている試薬は、取り扱い方を誤ると重大な事故や被害を引き起こす原因…

ヤーン·テラー効果 Jahn–Teller effects

縮退した電子状態にある非線形の分子は通常不安定で、分子の対称性を落とすことで縮退を解いた構造が安定で…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP