[スポンサーリンク]

医薬品

カスガマイシン (kasugamycin)

[スポンサーリンク]

カスガマイシンとは、奈良県の春日大社の土壌サンプルに見られた放線菌のなかまが産生していた抗生物質イネいもち病の防除に優れた効き目を持ち、他方、ヒトやその他の動物への影響はきわめて少ないため、長年にわたり農薬として使われてきました。

詳細

GREEN2013kasugamycin3.png

カスガマイシン(kasugamycin)は、1960年代に奈良県の春日大社の土壌サンプルから単離された放線菌ストレプトマイセス・カスガエンシス(Streptomyces kasugaensis )より発見されました。カスガマイシンの構造は各種手法で推定され、1966年には単結晶X線構造解析[1]で化学構造が確認されました。カスガマイシンは1968年[2]および1972年[3]に全合成も達成されています。北興化学工業らによってカスガマイシンは応用開発され、1965年に農薬登録を受けて以来、およそ半世紀に及ぶ長きに渡り、イネいもち病菌の殺菌をはじめとする用途でカスガマイシンは使われてきました。カスガマイシンは、細菌以外の生き物への毒性がとりわけ弱く、また耐性菌が出にくいことが特徴です。遺伝子操作の容易な大腸菌を使った研究[4],[5],[6]等によりカスガマイシンの標的分子はリボソームであると推定され、21世紀に入ってその詳細な作用基盤はタンパク質複合体の結晶構造解析[7],[8]で確認されました。放線菌ストレプトマイセス・カスガエンシスのゲノムにおいて、カスガマイシンの生合成酵素やカスガマイシンの輸送体は、遺伝子発現を調節する転写因子とともに、遺伝子クラスターになっており、ひとつのオペロンとして機能が調節されています[9]。

 

ストレプトマイセス・カスガエンシスの電子顕微鏡画像が見たい場合は例えば次のリンクを参照のこと。

http://www0.nih.go.jp/saj/Atlas/subwin.cgi?section=7&fig=15-1A

 

分子モデル(GIFアニメーション動作確認:Internet Explorer, Google Chrome)

GREEN2013kasugamycinmovie.gif

 

参考文献

  1.  “Chemical studies on kasugamycin. V. The structure of kasugamycin.” Yasuji Suhara et al. Tetrahedron Lett. 1966
  2. “The total synthesis of kasugamycin.” Yasuji Suhara et al. J. Am. Chem. Soc. 1968 DOI: 10.1021/ja01025a08
  3. “The total synthesis of kasugamycin.” Yasuji Suhara et al. J. Am. Chem. Soc. 1972 DOI: 10.1021/ja00773a038
  4. “Kasugamycin Resistance: 30S Ribosomal Mutation with an Unusual Location on the Escherichia coli Chromosome.” Sparling PF et al. Science 1970 DOI: 10.1126/science.167.3914.56
  5. “Change in Methylation of 16S Ribosomal RNA Associated with Mutation to Kasugamycin Resistance in Escherichia coli.” Helser TL et al. Nature 1971 DOI: 10.1038/newbio233012a0
  6. “Mechanism of Kasugamycin Resistance in Escherichia coli.” Helser TL et al. Nature 1972 DOI: 10.1038/newbio235006a0
  7. “The antibiotic kasugamycin mimics mRNA nucleotides to destabilize tRNA binding and inhibit canonical translation initiation.” Frank Schluenzen et al. Nature Struct. Mol. Biol. 2006 DOI: 10.1038/nsmb1145
  8. “Structural analysis of kasugamycin inhibition of translation.” Schuwirth BS et al. Nature Struct. Mol. Biol. 2006 DOI: 10.1038/nsmb1150
  9. “DNA Sequencing and Transcriptional Analysis of the Kasugamycin Biosynthetic Gene Cluster from Streptomyces kasugaensis M338-M1.” Souichi Ikeno et al. J. Antibiot. 2006 DOI: 10.1038/ja.2006.4
  10. 北興化学工業株式会社ウェブサイト (http://www.hokkochem.co.jp/)
Avatar photo

Green

投稿者の記事一覧

静岡で化学を教えています。よろしくお願いします。

関連記事

  1. A-ファクター A-factor
  2. 化学者のためのエレクトロニクス講座~無電解卑金属めっきの各論編~…
  3. シスプラチン しすぷらちん cisplatin
  4. トリニトロトルエン / Trinitrotoluene (TNT…
  5. カプロラクタム (caprolactam)
  6. 亜鉛クロロフィル zinc chlorophyll
  7. ボルテゾミブ (bortezomib)
  8. プラテンシマイシン /platensimycin

注目情報

ピックアップ記事

  1. tert-ブチルメルカプタン:tert-Butyl Mercaptan
  2. 勤務地にこだわり理想も叶える!転職に成功したエンジニアの話
  3. エーザイ、医療用の処方を基にした去たん剤
  4. 研究室でDIY!~エバポ用真空制御装置をつくろう~ ②
  5. ルイ・E. ・ブラス Louis E. Brus
  6. 有機蛍光とは異なる新しい有機りん光の分子設計指針の発見
  7. ポーソン・カーン反応 Pauson-Khand Reaction
  8. ジアルキル基のC–H結合をつないで三員環を作る
  9. 持続可能性社会を拓くバイオミメティクス
  10. 理系ライターは研究紹介記事をどうやって書いているか

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2013年9月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  

注目情報

最新記事

圧力は「設定値」だけで決まらない【プロセス化学者のつぶやき】

前回まで1. 設定温度と系内の実温度のお話2. 温度値をどう判断するか3. 反応操作をし…

査読に AI を使われた体験談

生成 AI の普及は加速しており、調べもの、英文校閲など研究者の皆さんも活用していることと思います。…

フィーゼルマン チオフェン合成/Fiesselmann Thiophene Synthesis

概要フィーゼルマン チオフェン合成(Fiesselmann Thiophene Synthesi…

“とび跳ねる水滴”に潜む物理 〜接触時間とエネルギー源で読む撥水・防氷のテク〜

熱したフライパンに落ちた水滴が、玉になってコロコロと走り回り、冷えた面では、結露水が合体した瞬間に跳…

AI時代に研究者がすでに持っている力・これから伸ばしたい力

論文要約や文献検索など、研究現場でもAI活用が日常化する一方、「自分の仕事の先行き」に漠然とした不安…

miHub®を活用した探索的データ解析の実践

開催概要研究開発においてデータ活用が進む中、機械学習モデルの構築や予測解析に…

“ある特効薬”のはなし ~本田宗一郎氏の回想から

Tshozoです。最近実家に戻っては色々と廃棄するなどの店じまいを少しずつ進めているのですが、中…

高分子鎖を束ねた新しい共重合体「束状共重合体」が誕生

第715回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院 工学系研究科(植村研究室)に所属されていた亀谷…

2026年「有機溶媒危機」へのアンサー。北大発・メカノクロスが挑む、溶媒に依存しない新たな合成法 = “メカノケミカル有機合成”の社会実装

株式会社メカノクロスは、メカノケミカル有機合成技術の社会実装に挑む北海道大学発の…

“壊れないよう” に作ってきた半導体ポリマーを、あえて “壊れるよう” に作る化学

半導体ポリマーは長いあいだ、「いかに壊れにくく、長持ちさせるか」といったような安定性を競って進歩して…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP