[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

フェニル酢酸を基質とするC-H活性化型溝呂木-Heck反応

[スポンサーリンク]

 

Ligand-Enabled Reactivity and Selectivity in a Synthetically Versatile Aryl C-H Olefination
Wang, D.-H.; Engle, K. M.; Shi, B. F.; Yu, J.-Q.  Science 2009, ScienceXpress. doi: 10.1126/science.1182512

現在ホットな研究領域である、C-H結合活性化型触媒反応に新たなメンバーが加わりました。
スクリプス研究所・Jin-Quan Yuらによる報告です。

芳香環のC-H活性化反応の常として、反応点近傍に配向基(directing group)が必要となります。
今回のケースでは、使い勝手の良いフリーのカルボン酸を配向基として機能させています。冒頭条件を用いることで、溝呂木-Heck型の反応が起こり、カルボン酸のオルト位選択的にオレフィンが導入されます。


本論文のアピールポイントのひとつにリガンドの添加効果が挙げられます。保護アミノ酸をリガンドとして用いた場合、有意な位置選択性の向上及び収率向上が見られたようです。例えば以下の例のように、カルボン酸を伸長させた基質、電子求引性をもつ基質などなどの結果を大きく改善することに成功しています。

CHact_JQ_Yu_2.gifまた、この反応を使って多置換ナフタレン誘導体を新規なルートで効率的に合成できる、とのデモンストレーションを行っています。すなわちケダルシジンなどに存在する芳香環パーツを、下記のようなルートでザクザクと作っています。

CHact_JQ_Yu_3.gif入手容易な試薬で実行可能であり、特別なケアも必要としない、混ぜて加熱するだけのいわゆる「キッチン・ケミストリー」です。わりかし使い勝手の良い反応条件だと思えます。覚えておくに良い反応の一つでしょうかね。

しかしメカニズムに関する示唆はどこにもありませんし、必然それほどconceptualな報告とはなえりえません。物量作戦と力技で強引にまとめた感じで、これでもScienceなのか・・・という印象は正直否めませんが、まぁ通ったモン勝ちではあります。

 

PIについて

Jin-Quan Yuはスクリプス研究所に2007年にポストを得たのち、C-H結合活性化の反応開発にて化学系トップジャーナルにものすごい数の報告を続けている人物です(写真は彼のラボのHPより)。

JQ_Yu.jpg

 特に2009年の報告量は凄まじく、現時点でacceptedなものまで入れれば、JACS6報・Angewandte Chemie3報・Science(本論文)1報と、途轍もないです。

噂を聞いた限りですが、まぁ当然のことというか、相当なハードワークラボのようです。メンバーもチャイニーズばかり。まぁそれほどの激務に耐えられる民族はというと、限られてきますからね。

経歴欄によればあちこちの大学を転々としていて、全くもって妙なキャリアパスを歩んでいるようです。外国の人は得てして年齢不詳なものですが、いったい歳いくつなんでしょうか。長く中国の大学で過ごしていたようですが、彼もひょっとしたら「中国本土に帰りたくない」というのがモチベーションたりえるチャイニーズの一人かも知れないな、などと何となく思ったり。

ちなみにYuラボのホームページ上では、グループ勉強会セミナーの資料がPowerpoint形式で公開されています。均一系金属触媒絡みの最新事情を収集したい方は、参考にしてみてはいかがでしょうか。こういう資料を公開してくれるラボが各所で増えるのは、全く素晴らしいことですね。

日本のラボでも「Web上に化学情報を行き届かせる取り組み」を、是非推奨していって欲しいですね。年くった教授じゃなくて、若いフレッシュな考え方を持った皆さんこそが、先導して行って欲しいものです。

関連リンク

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. SNS予想で盛り上がれ!2024年ノーベル化学賞は誰の手に?
  2. アルケンのE/Zをわける
  3. 実験条件検討・最適化特化サービス miHubのメジャーアップデー…
  4. シクロデキストリンの「穴の中」で光るセンサー
  5. 第1回ACCELシンポジウムを聴講してきました
  6. ゲルマニウム触媒でアルキンからベンゼンをつくる
  7. 【マイクロ波化学(株)環境/化学分野向けウェビナー】 #CO2削…
  8. タンパクの骨格を改変する、新たなスプライシング機構の発見

注目情報

ピックアップ記事

  1. 就活・転職・面接・仕事まとめ
  2. 光と熱で固体と液体を行き来する金属錯体
  3. 金大大学院、ナノ微粒子開発 医薬品や塗料などに応用も
  4. 【速報】2022年ノーベル化学賞は「クリックケミストリーと生体直交化学」へ!
  5. フタロシアニン phthalocyanine
  6. 化学反応を自動サンプリング! EasySampler 1210
  7. ダイヤモンド半導体について調査結果を発表
  8. ジ-π-メタン転位 Di-π-methane Rearrangement
  9. 最終面接で内定をもらう人の共通点について考えてみた
  10. ドイツのマックス・プランク研究所をご存じですか

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2009年12月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

7th Compound Challengeが開催されます!【エントリー〆切:2026年03月02日】 集え、”腕に覚えあり”の合成化学者!!

メルク株式会社より全世界の合成化学者と競い合うイベント、7th Compound Challenge…

乙卯研究所【急募】 有機合成化学分野(研究テーマは自由)の研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

大森 建 Ken OHMORI

大森 建(おおもり けん, 1969年 02月 12日–)は、日本の有機合成化学者。東京科学大学(I…

西川俊夫 Toshio NISHIKAWA

西川俊夫(にしかわ としお、1962年6月1日-)は、日本の有機化学者である。名古屋大学大学院生命農…

市川聡 Satoshi ICHIKAWA

市川 聡(Satoshi Ichikawa, 1971年9月28日-)は、日本の有機化学者・創薬化学…

非侵襲で使えるpH計で水溶液中のpHを測ってみた!

今回は、知っているようで知らない、なんとなく分かっているようで実は測定が難しい pH計(pHセンサー…

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP