- 界面活性剤の自己集積(self-assembly)
MCMの紹介の前に、
界面活性剤(surfactant)についてざっと確認しておきます。
界面活性剤とはッ!「...ただの洗剤だろう。」と揶揄されることも多々、多々、多々、多々ありますが...その本質は
親水性と親油性、二つの異なる性質の部分をもつことから、溶液中でその
濃度に応じた形状のミセル(micelle)を生成することにあります。この時、ミセルを形成するために必要な濃度(ミセルを形成できる最も低い濃度)のことを
臨界ミセル濃度(
Critical
Micelle
Concentration)と呼びます。
ミセルの形状は、
球状ミセル(spherical micelle)棒状ミセル(rod-like micelle)ラメラ状ミセル(lamellar micelle)などがあり、
微妙な条件変化(界面活性剤、溶媒、温度、pH、系中に存在するその他全ての物質)に影響されるため、自分の欲しい形状の(テンプレート※後述)ミセルをバシっと用意するのはなかなか骨の折れる作業です。(まぁ具体的な操作は
ひたすら洗剤を溶かすだけですけど。)

界面活性剤のミセル形状
界面活性剤のおさらいをしたところで、やっと今回の主役の登場です。
1992年、米Mobil社のKresgeらによって報告された
MCM-41(
Mobil
Crystalline
Material)は上述の界面活性剤の特徴を上手く活用したもので、アルキルトリメチルアンモニウム塩の棒状ミセルを
Structure Directing Agent(構造の雛形、テンプレート)として利用し、ミセルの周囲でケイ酸塩もしくは
Si(OMe)4などを縮合(condensation)させた後、FSMと同様の焼成(calcination)処理をすることで界面活性剤を除去しメソポーラス構造体を得ました
[1]。
界面活性剤のアルキル鎖の長さを変えることでメソ孔の径を調節できることから、
欲しいサイズの孔を持つオーダーメイド・メソポーラスシリカの合成が現実のものとなりつつあります。
(他にも
メシチレンの添加によってミセルを膨らませる、というテクニック[2]もあります。
また、2Dヘキサゴナル構造の生成機構に関して、シリカ源を加える前に既に界面活性剤の棒状ミセルにより2Dヘキサゴナルの
液晶相ができていて、それをテンプレートとしているのだという説(
下図①)があるものの、実際には
液晶相には至らない低濃度のミセル溶液からも2Dヘキサゴナル構造を持つ生成物が得られることから、ミセル表面でのシリカ源の縮合と棒状ミセルの配列が
協奏的に起こっているとする説(
下図②)が広く支持されています。)

Structure Directing Agentによる規則的構造の生成メカニズム
(関連文献[2]より)
MCMが後のメソポーラス材料の研究に与えた影響は、そのネーミングセンス(※)と、何と言ってもミセルを用いたその多孔質構造の生成機構(
Surfactant Templating Method(界面活性剤会合体鋳型法、というお念仏のような日本語記述を一度だけ目にしたことがあります...))の開発でしょう。例えば次のような化合物を目にして、みなさんは何を思い浮かべますか?

何を思ふ
続きます 。
※後発のメソポーラスシリカで特に有名なものに、
SBA-15というものがあります。このSBAの由来はもはや生成機構でも
Materialでもなんでもなく、ただの地名だったりします。カリフォルニア州立大学
サンタバーバラ校のStuckyらにより報告されたもので...お察し下さい。
[3]
- 後日加筆 FSM-16のメソポーラス構造の生成機構について
その後の研究で、FSM-16の生成機構は「シートの折れ曲がり」ではなく、「一度融解したカネマイト由来のケイ酸が縮合する」
MCMと同様の生成機構を経ていることが報告されています
[4]。しかしながら、同様にカネマイトをシリカソースとする場合でも
酸性条件下ではカネマイトの
ケイ酸層は保持され、かつ
正方形のメソポーラス構造を持つ、KSW-2というマテリアルも報告されています
[5]。
また、カネマイトから合成した
"MCM-41様"メソポーラスシリカは
MCM-41よりも熱的安定性に優れているという報告もあり、たとえ塩基性条件下でもカネマイトは完全に融解するわけではなく、したがって結晶構造も部分的に保たれているようです
[6]。
いずれにせよ、当初報告されていた
Folded Sheet機構は否定されているということで、筆者の浅学ゆえに古い情報をそのままお伝えしてしまいました。申し訳ありません。
コメントでご指摘してくださったXSさん、どうもありがとうございました。また、この加筆をするに当たりインターネットで偶然発見し読ませていただいた島津省吾先生(千葉大学工学部)の授業用資料(?)でも改めて勉強させていただきました。(直接リンクは貼らずに「
見つけた時の画面」だけ貼っておきます。)
[1] Kresge, C. T.; Leonowicz, M. E.; Roth, W. J.; Vartuli, J. C.; Beck, J. S.
Nature,
1992,
359, 710.
DOI: 10.1038/359710a0
[2] Beck, J. S.; Vartuli, J. C.; Roth, W. J.; Leonowicz, M. E.; Kresge, C. T.; Schmitt, K. D.; Chu, C. T-W.; Olson, D. H.; Sheppard, E. W.; McCullen, S. B.; Higgins, J. B.; Schlenkert, J. L.
J. Am. Chem. Soc.,
1992,
114, 10834.
DOI: 10.1021/ja00053a020
[3] Huo, Q.; Margolese, D. I.; Ciesla, U.; Feng, P.; Gier, T. E.; Sieger, P.; Leon, R.; Petroff, P. M.; Schüth, F.; Stucky, G. D.
Nature,
1994,
368, 317.
DOI:10.1038/368317a0[4] Sakamoto, Y.; Inagaki, S.; Ohsuna, T.; Ohnishi, N.; Fukushima, Y.; Nozue, Y.; Terasaki, O.
Microporous and Mesoporous Mater. 1998,
21, 589.
DOI: 10.1016/S1387-1811(98)00053-5[5] Kimura, T.; Kamata, T.; Fuziwara, M.; Takano, Y.; Kaneda, M.; Sakamoto, Y.; Terasaki, O.; Sugahara, Y.; Kuroda, K.
Angew. Chem., Int. Ed. 2000,
39, 3855.
DOI: 10.1002/1521-3773(20001103)39:21<3855::AID-ANIE3855>3.0.CO;2-M
[6] Chen, C. Y.; Xiao, S. Q.; Davis, M. E.
Microporous Mater. 1995,
4, 1.
DOI: 10.1016/0927-6513(94)00077-9