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高専の化学科ってどんなところ? -その 1-

高等専門学校 (通称 : 高専) は、中学校卒業後から 5 年間の一貫した専門教育を行う高等教育機関です。私が初対面の人に「高専生です」と自己紹介すると、「あー、高専ロボコンは知ってるよ」と答えてくださる人が多くいらっしゃいます。そのように、高専といえば高専ロボコンのイメージが強く、機械工学科、電気工学科あるいは電子工学科のような学科がメジャーな地位を占めています。一方、物質工学科や (生物) 応用化学科のような化学系の学科もありますが、それの化学系の学科は高専という教育機関のなかでは、やや毛色の異なる学科であり、その活躍もあまり知られていません。

おそらくケムステの読者の大半が大学生以上であるため、ケムステにとって高専を紹介するという記事にどれくらい需要があるかはわかりません。しかし、高校の進路選択を控えた中学生とその保護者の方々、そして進路指導の先生方が、高専について検索したときにこの記事がヒットすることを期待して、この記事の投稿に至りました。本記事では、化学科に所属する現役の高専生 (厳密には専攻科生) である私が、高専化学科での学生生活について赤裸々にお話しし、できるだけ詳細な情報を提供したいと思います。

5 年間一貫教育の概要

まずは、高専全般のカリキュラムについて簡単に説明します。記事の冒頭でも説明したように、高専では中学卒業後から各学科に特有の専門教育を行います。とはいえ、高専入学直後の学生の知識は、所詮普通の中学生と同等です。したがっていきなり高度な専門科目を学ぶことはありません。下の図は、物質工学科や応用化学科 (以下、まとめて化学科と書きます) で学ぶ教科を表したものです。図で表したのような “くさび形” のカリキュラムに沿って、徐々に専門性を高めていきます。

高専の化学科のカリキュラムの一例。

具体的には、1 年生のうちは一般科目 (数学、物理、英語、日本史などなど) を中心的に学び、専門科目の授業はありません。ただし、実験実習の授業が 1 週間に 1 度あり、その授業の 1 週間後にはレポートを作成する必要があります (実験とレポートについては、後ほど改めてお話しします)。2 年生になると、専門科目の講義が始まります。一口に化学といっても、上の図のカリキュラムに紹介しているように有機化学、物理化学、生化学などのように様々な分野があります。私の通っている高専では 2 年生から有機化学、無機化学、分析化学と呼ばれる基礎的な化学の専門科目が登場しました。しかし専門科目を学ぶとはいえ、2 年生の段階の時間割を見ると、まだ一般科目が大半であり、高校生の時期は専門性を高めているといった実感はありませんでした。

その後、学年が上がるにつれて、専門科目の割合が増え、一般科目は少なくなります。3 年生で一般科目と専門科目が半々くらいで、4, 5 年になると、一般科目が主に数学と外国語のみとなります。加えて、専門科目の内容が次第に高度になります。例えば、高分子化学はプラスチックや繊維の機能を分子レベルで理解する科目で、プロセス設計では化学工場の設備や運転方法について学習します。

5 年生になると、研究室に配属されて、卒業研究という研究活動にも取り組み始めます。そこでは自分の興味のある分野を選んでテーマを選び、自主的に実験を行います。例えば、燃料電池のような、環境に優しいエネルギーシステムを改善することを目指したり、大気中の汚染物質を浄化するための触媒の開発に携わったりします。卒業研究では、高専に入ってから授業で学んだ知識を活用することはもちろんですが、授業で学んでいないことであっても自主的に本や文献を読んで勉強し、未解決の課題に取り組む力を身につけることが求められます。研究の最後には、そのまとめとして、学科の先生や、クラスメート、あるいは下級生の前でそれぞれが成果を発表します。

このように、高校 1 年生という若い時期から、5 年間かけて非常にゆっくりと各自の専門教科を深めていくことが、高専教育の特徴となっています。

週に 1 度の実験

先ほど、「実験実習が 1 週間に 1 度ある」と書きましたが、このことが学生にとって最も魅力的な高専のカリキュラムの特色の 1 つです。高専では、実験および実習を重視しており、1 年生から 4 年生までずっと、週に 1 度の実験の授業があります。実験テーマについて、私が 1 年生のときに行った実験を挙げると、ミョウバンの結晶作り、石ケン作り、金属イオンの定性分析注)などでした 。2 年生以降は、授業で習う専門科目とも関連する実験を行い、においの素となる物質を化学反応によって作る有機化学実験や、美しい色彩を持つ結晶を作る無機化学実験、はたまた大腸菌から DNA を抽出する生化学実験など実に様々な分野の実習を経験することができます。

注)  「金属イオンの定性分析」とは、何が入っているか分からないサンプルが学生一人一人に与えられて、そこにどんな金属が入っているかを化学的に分析するテストのことです。

(左) 無機化学実験で作成した鉄化合物の結晶。この化合物を使って、青写真を現像しました。(右) 生物化学実験で培養した大腸菌。灰色の部分は実験者の名前が書いてあります。

なお、この記事を書くにあたって、大学の化学系の学科の学生実験や他高専の学生実験について調べてみたのですが、高専の学生実験の多くが、大学でも行われていることがわかりました。このように大学相当の化学実験を高校生から経験できるということは、実験が好きな人にとっては嬉しいカリキュラムだと思います。「手を動かして実践できる技術者を養成する」という教育方針が、この実習の授業に現れています。

卒業生の進路

次に、高専の卒業後の進路について簡単にお話しします。中学卒業後から考えられる他の進路とともに、上の図に高専の卒業後の選択肢をオレンジ色で示しました。本来、高専は卒業後に産業界で活躍できる技術者を養成することを目的として設立されましたが、就職と進学のどちらの道に進むこともできます。就職する学生と進学する学生の割合は、学科によって異なりますが、過半数の学生が就職を選びます。というのも、高専の一番の売りとして、企業からの就職の内定率の高さが挙げられるからです (具体的な数字はこちら)。私の通う高専でも「毎年この企業に誰かが行く」という風潮があり、このことは、高専教育で養われる実践的な能力と専門知識の高さが評価されていることの現れであると思います。ちなみに、化学科から就職できる企業の分野としては、食品、化粧品、塗料、製薬あるいは繊維会社などがあります。

しかしながら、高専の化学系の学科では、進学を選ぶ学生の割合が高いという傾向が強く、実際、私の通う高専でもそうです。進学する場合には、一般の大学の 3 年生に編入するか、専攻科とよばれる高専 5 年間の延長的な過程に進みます (専攻科についてはまた次回お話ししようと思います)。大学編入する人は、その大学の大学院に進むことまで意識して、自分の興味がある研究を行なっている大学を選びます。高専の化学系の学科から編入が可能な学部は、主に理学部、工学部あるいは農学部ですが、大学によっては、これらのなかでも編入を受け入れていない学科もあります (具体的な進学先はこちら)。

編入試験の内容は、学校や学部によって異なるため一概には言えませんが、基本的には大学相当の基礎的な化学や数学、そして英語などです。高校から大学を受験する際のセンター試験は必要なく、一般的な高校生の受験とは根本的に試験内容が違います。受験の時期は 7 月から 9 月で、早い人は 4 年生の秋頃から受験を意識し始め、遅い人でも 5 年生に進級してからは本気で受験勉強に取り組んでいました。ちなみに、晴れて大学に編入した友達は大学で良い成績をおさめているという噂を聞いているので、高専の授業は基本的に大学学部レベルの基礎をきちんと押さえているのだと思います。

どんな人が受験するか

以上のように、卒業生は就職にも有利で、進学も可能であるということを説明しましたが、中学卒業後の早期から専門分野を決めてしまうことに不安を感じる中学生も多いと思います。そこで、実際に高専の化学系の学科に志望する人はどのような人がいるかを紹介します。実は、中学卒業時点で、筋金入りの化学好きという新入生はほとんどいません。機械系や電気電子系の学科を志望する中学生のなかには、車やロボットが好きな人や、趣味でパソコンをいじるのが好きな人もいますが、化学科に限っては入学時点で何らかのアドバンテージやこだわりを持っている人が少ないように思います。

では私の場合、なぜ化学科を選んだかというと、ちょうど中学 3 年生のときに日本人化学者である根岸英一先生と鈴木章先生がノーベル化学賞を受賞し、テレビや新聞が大騒ぎになっていたことに、もろに影響を受けたからです。そんな簡単な理由でも、5 年間の高専生活中で化学の面白さを教えてもらい、こうして化学の情報を発信する活動に携わっています。一方、他の同級生の中には、「高専に行きたいと思っていたが、高専の中でも女子学生が比較的多い化学科を選んだ」という人もいました。このように、高専を受験するにあたって学科を選ぶ際に、比較的気軽な気持ちで化学科を選んでいるケースも多いです。

ちなみに、高専生の中には兄弟姉妹で高専に通っている、あるいは親が高専出身であるという人が多いです。このことは、高専について知っている人ほど、高専を信頼しているという証拠であると思います。周りに高専の関係者がいなくて、高専に進学するか迷っている人は、オープンキャンパスに参加したり、高専祭 (文化祭) に足を運んで、直接学生の話を聞いてみるのが良いと思います。

これで、高専のカリキュラムや特色について一通り説明を終えました。しかし、上に書いたようなことは、国立高専機構などのサイトを見れば書いていますので、もっと詳しく知りたい方はそちらも参照してください。次回は、そのようなサイトでは書かれないような学生生活の実情や学生の本音について、お話ししようと思います。(需要はないかもしれませんが、続きます。)

関連記事

関連動画

富山高専物質化学工学科による学科紹介の動画 (富山高専様より許可を得て掲載)。

[出典: 富山高等専門学校(2012)、富山高専紹介ムービー、物質工学科]

外部リンク

以下の 2 つは高専の卒業生が運営しているサイトです。私自身は、この記事を作成するために情報を集めているなかではじめて知りましたが、高専を受験のためのアドバイスや、実際の学生生活について非常に豊富な情報が掲載されています。比較的客観的な立場で書かれており、おおよそ共感できます。

関連書籍

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やぶ

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高専生。Chem-Station を見て育った学生として、このコミュニティをより盛り上げていきたいです。米国大学院への学位留学を準備中。

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コメント

    • 2017年 6月 02日

    京都で大学院生やっている、高専出身者です。専門は有機合成です。
    いつも興味深く拝見させていただいています。

    高専が知ってもらえるのは嬉しいですね♪何か出来ることがあったら、時間のある限り協力させてください。

    • やぶ
      • やぶ
      • 2017年 6月 02日

      コメントありがとうございます。

      高専については、「知っている人は知っている」と言われますが、結局、世間一般的には知名度が低いため、「高専出身です」といってもパッとしないのが現状かと思っています。高専出身であることを公にする卒業生がもっと多ければ、その実力が認知されていくのだとは思うのですが、進学後に功績を残した人に限って、学歴の中にある高専の名前が埋もれてしまうのでしょうね。

      そのような応援コメントをくださるだけで、とっても力になります。今後も気づいた点やコメントをくださればうれしいです。

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