[スポンサーリンク]

ケムステニュース

フロンよりもオゾン層を破壊しているガスがある

[スポンサーリンク]

肥料の使用や化学物質の製造過程で出る「亜酸化窒素(N2O)」が、現時点でオゾン層を最も破壊する物質であることを、米海洋大気局の研究チームが突き止め、28日付の米科学誌「サイエンス」で発表した。N2Oは温室効果ガスとして先進国に排出規制が課せられているが、オゾン層保護の規制対象ではない。研究チームは「排出制限はオゾン層保護と温暖化抑制の両方に有益」と、厳しい規制を求めている。(引用:毎日.jp)

オゾン層破壊物質として一般にも認知されているのは、フロンガス(クロロフルオロカーボン、CFCs)とよばれる物質でしょう。安定性に優れ無害で揮発性も高いので、一時期は冷却剤だとか精密機器洗浄の目的で、盛んに使われていました。

CFC類は極めて安定な物質ゆえ、地上で分解されることなくオゾン層まで到達します。
ozonelayer_1.gif  CFCに紫外線が照射されることで、炭素-塩素結合の開裂が起こり、塩素ラジカルが生じます。これがオゾンと反応して、オゾン層が破壊されていきます。反応は連鎖的・触媒的に進むので、一つのCFC分子によって何十個ものオゾン分子が破壊されます。

ozonelayer_2.gif こういった影響が大きな為、CFCの製造・使用は厳しく規制されるようになりました。規制の甲斐あって、CFCによるオゾン層破壊は現状だいぶ抑えられているようです。

しかしその一方で現在でも排出が続き、同じくオゾン層を破壊している化合物が別に存在しています。それは今や、CFCよりも大規模でオゾン層破壊をもたらしている、というのです。

 それがすなわち、一酸化二窒素(N2O)という物質です。

N2Oは安定な分子であり、歯科治療の鎮静目的で使われることもあります。吸入すると笑ったような顔になることから、笑気ガス(laughing gas)と言う俗称で呼ばれることもあります。

N2OはCFCと同様のメカニズムでオゾンを破壊します。すなわち、N2Oが紫外線と反応することでニトロソラジカル(NO・)が生じ、上記塩素ラジカルの代わりにオゾン分子を破壊する、というわけです。

N2Oのオゾン破壊能自体は以前から知られていたことですが、CFCの陰にあって目立つことがなかった、というわけです。CFC使用削減に成功した現在にあっては、「N2Oこそが無視できないオゾン層破壊ガスだ」という状況になってきたわけですね。

こういった調査結果がこのたびScience誌に報告されたと言うわけです(関連論文参照)。

N2O自体、CO2の310倍の温室効果(greenhouse effect)もっています。そのため現状、温室効果ガスとしての排出規制がかかっています。今回の報告によって、オゾン層破壊物質としても認識されることになるはずで、その排出はより一層減らされる方向に向かうでしょう。

 

  • 関連文献

“Nitrous Oxide (N2O): The Dominant Ozone-Depleting Substance Emitted in the 21st Century ”
Ravishankara, A. R.  et al, Science 2009, DOI: 10.1126/science.1176985

By comparing the ozone depletion potential–weighted anthropogenic emissions of N2O with those of other ozone-depleting substances, we show that N2O emission currently is the single most important ozone-depleting emission and is expected to remain the largest throughout the 21st century. N2O is unregulated by the Montreal Protocol. Limiting future N2O emissions would enhance the recovery of the ozone layer from its depleted state and would also reduce the anthropogenic forcing of the climate system, representing a win-win for both ozone and climate.

 

  • 外部リンク

Nitrous oxide key ozone destroyer (Chemistry World)

N2O:オゾン層破壊の主犯「規制強化を」米研究チーム (毎日.jp)

亜酸化窒素 – Wikipedia

オゾン層 – Wikipedia

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. アルツハイマー病の大型新薬「レカネマブ」のはなし
  2. Natureが査読無しの科学論文サイトを公開
  3. IBM,high-k絶縁膜用ハフニウムの特性解析にスパコン「Bl…
  4. 2009年10大化学ニュース
  5. エーザイ 抗がん剤「ハラヴェンR」日米欧で承認取得 
  6. オカモトが過去最高益を記録
  7. 北大触媒化研、水素製造コスト2―3割安く
  8. 富山化学 新規メカニズムの抗インフルエンザ薬を承認申請

注目情報

ピックアップ記事

  1. ゾイジーンが設計した化合物をベースに新薬開発へ
  2. ペルフルオロデカリン (perfluorodecalin)
  3. マット・シェア Matthew D. Shair
  4. 日本化学界の英文誌 科学分野 ウェッブ公開の世界最速実現
  5. ケテンの[2+2]環化付加反応 [2+2] Cycloaddition of Ketene
  6. 位置選択的C-H酸化による1,3-ジオールの合成
  7. パット・ブラウン Patrick O. Brown
  8. ラリー・オーヴァーマン Larry E. Overman
  9. ストックホルム国際青年科学セミナー参加学生を募集開始 ノーベル賞のイベントに参加できます!
  10. MIを組織内で90日以内に浸透させる3ステップ

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2009年8月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31  

注目情報

最新記事

7th Compound Challengeが開催されます!【エントリー〆切:2026年03月02日】 集え、”腕に覚えあり”の合成化学者!!

メルク株式会社より全世界の合成化学者と競い合うイベント、7th Compound Challenge…

乙卯研究所【急募】 有機合成化学分野(研究テーマは自由)の研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

大森 建 Ken OHMORI

大森 建(おおもり けん, 1969年 02月 12日–)は、日本の有機合成化学者。東京科学大学(I…

西川俊夫 Toshio NISHIKAWA

西川俊夫(にしかわ としお、1962年6月1日-)は、日本の有機化学者である。名古屋大学大学院生命農…

市川聡 Satoshi ICHIKAWA

市川 聡(Satoshi Ichikawa, 1971年9月28日-)は、日本の有機化学者・創薬化学…

非侵襲で使えるpH計で水溶液中のpHを測ってみた!

今回は、知っているようで知らない、なんとなく分かっているようで実は測定が難しい pH計(pHセンサー…

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP