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ノーベル化学賞を担った若き開拓者達

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さて、速報お祭り編と2010年のノーベル化学賞を2つの異なった視点からお話してきました。次のお話は上記のサインから始まります。このサインは2001年の京都、クロスカップリング発見30周年を祝って行われた国際シンポジウムにて、この分野の第一人者によって署名されたものです。もちろん、今回の受賞者もリチャード・ヘック氏を除いて含まれています。今から40年前、この反応開発初期に携わったのは30代?40代前半の若手研究者でした。これだけの人数が研究を行っていたのです。
しかし、

 

 ノーベル化学賞を受賞したのはわずか3人

 これは悲しい出来事でしょうか。今回の受賞は金属として「パラジウム触媒」を用い、「クロスカップリング反応」の開発に貢献された人々に贈られています。それが鈴木根岸、ヘックらであったわけです。この分類には異論がある方がいらっしゃるかもしれませんが、この分類でこの受賞者と考えると妥当である気がします。それでは惜しくもこの“分類”にかからなかった研究者たちはどんなクロスカップリング反応を行ってきたのでしょうか。負けず劣らず素晴らしい研究です。これは悲しいことではなく、クロスカップリング開拓者たちが分野全体で勝ち取った結果であるといえるでしょう。

今回は、ノーベル化学賞を受賞された方ではなくこの分野の「夜明け前研究」すなわち先駆的研究に携わった若き開拓者に敬意を表して、そしてできれば他分野の方にも知っていき抱きたいため、化学的なところは極力省略し、人物を中心に紹介したいと思います。

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 上記の6人が「パラジウム触媒による有機化合物のクロスカップリング反応」の夜明け前研究に携わった人たちです。それぞれを紹介してみましょう。
 

辻二郎ーはじめてパラジウム触媒で炭素と炭素をくっつける

 

 
 
 炭素同士をくっつけて炭素ー炭素結合をつくる。40年前においても現代においても分子レベルのモノづくりである有機合成化学には不可欠な技術です。なぜなら我々(人体)も構成している有機化合物は炭素ー炭素結合で造られているものであるからです。しかしながら既に様々な炭素ー炭素をくっつける反応は知られていました。

一方でで周期表でプラチナの近くにある遷移金属であるパラジウムは、その当時、炭素と酸素をくっつける金属(触媒)としては知られていましたが、炭素同士をくっつけることはできませんでした。

 1965年、当時38歳であり、研究員として東レに務めていた辻二郎は、パラジウム触媒を用いて、炭素同士をくっつけることに初めて成功しました。

この発見が、現在の医薬品や有機材料をつくるために非常に効率がよく汎用に使われる「パラジウムを用いた有機合成反応」の幕開けとなりました。

とはいってもまだパラジウム触媒を用いても多種多様な炭素ー炭素結合や今回受賞したクロスカップリング反応が行えるわけではありませんでした。

 

山本明夫ークロスカップリング反応夜明け前

 
 1970年、当時40歳であった山本明夫東京工業大学教授があるニッケル錯体(錯体=有機化合物と金属が結合したもの)をポリマーをつくるための触媒として合成していた時のことです。目的の錯体がある反応によって得られたので、得られた生成物と共に論文を書きました。なんの変哲もないと思われた論文が、ある若き研究者には大変驚くべき論文で、なんとクロスカップリング反応の基本概念である酸化的付加還元的脱離(後日説明)が行われていたのです。その後これを参考に、その若き研究者によってクロスカップリング反応は実現されていきます。
つまり、クロスカップリング反応の基本概念を示す重要なヒントを与えたのが山本先生となります。

 

J.K.Kochiークロスカップリング反応の成功

 
pioneer2.png

そんな最中、1971年に金属触媒を用いた初めてのクロスカップリング反応が報告されます。当時43歳のKochi(高知和夫)でした。彼は鉄触媒を用いて、アルケニルハライドと呼ばれる特殊な化合物に対して、有機マグネシウム化合物(グリニャール試薬といいます)を作用させることで、クロスカップリング反応を成功させたのです。しかし、残念ながら医薬品や有機材料の基本骨格にある、炭素6個で構成されているよく言われる亀の甲=ベンゼンとは反応は進行せず、これらが反応した理由も不明でした。

 

玉尾皓平ークロスカップリング反応の先駆者

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ここで、先程の若き研究者が登場です。当時29歳と京都大学の熊田研究室の助手(今の助教)になったばかりの玉尾皓平でした。
彼は東工大の山本明夫先生が報告したニッケル錯体で展開されていた化学に見せられていました。論文を読んでいると、ふと上記に示した1961年の歴史的論文からニッケル触媒によりクロスカップリング反応が進行するのではないかと気づき、すぐに当時の学生にやってもらいました。

数日後、予想通りクロスカップリングは進み、生成物が得られたのです。これはKochiのような反応物の制約もなく、ベンゼンにも炭素がくっつきました。これは現在のクロスカップング反応の礎となっています。しかし、実はほぼ同時期に、フランスのCorriuらにより同様の反応が発見されており、今ではこの反応は師匠である熊田誠教授(故人)と彼らの名前を冠して

 熊田-玉尾-Corriuクロスカップリング

と呼ばれています。
反応がどのように進行するかという理由も示すことができたため、ここ歴史的結果から怒涛のように効率性やさらなる反応性の高いクロスカップリング反応が生まれてくることはいうまでにもありません。

 

あれ?ノーベル化学賞受賞者たちは?

以上の6人がカップリング反応「夜明け前研究」で活躍した化学者です。

「あれ、ノーベル化学賞受賞者たちは?」

と思われるかもしれませんが、今回の受賞理由が「パラジウム触媒」と「クロスカップリング反応」の両方を利用したものであるため、彼らの登場は実はもう少しだけ後になります。

約40年後の現在、辻先生、山本先生は東工大名誉教授となり、Kochiと熊田先生はお亡くなりになられました。Corriuはモンペリエ大学名誉教授、玉尾先生は京都大学名誉教授であり現在理化学研究所の基幹研究所長となっています。この中で今回の受賞理由がもし「パラジウム触媒」のみだったら「クロスカップリング反応」のみだったら受賞された方はいらっしゃると思います(ご想像にお任せします)。

ただ、現代有機化学の一大テーマの担った化学者達という称号はノーベル化学賞と同等以上の価値があり、歴史的にも語られるべきであると期待します。化学に対して感動と熱狂を与える基礎をつくってくれた40年前の若い化学者達に心から感謝し、今回のご紹介を終わりにしたいと思います。

さて、次回以降はクロスカップリング反応はどのように進行しているのか?多種多様なクロスカップリング反応およびこれから先の展開は?実際の応用は?などについて話していこうと思っています。お楽しみに!

【追加】上記に記した2001年の京都、クロスカップリング発見30周年を祝って行われた国際シンポジウムの写真を添付します。

 

 

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Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

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