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理系で研究職以外に進んだ人に話を聞いてみた

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先日、某大手化学メーカーの役員にお会いし、これまでのキャリアについてお話を伺った。

国立大の大学院で応用化学を学んだ後、研究者として入社し、開発、製造、海外支社の責任者を経て取締役にまで登りつめた。今から30年~40年前にキャリアをスタートさせた世代にとって、入社した会社で出世してポジションを得ることは理想的なロールモデルであったに違いない。また、研究者から経営者になったことは、理系出身の社員にとって一つの目指すべきキャリアパスとして映ったことだろう。

「ただ、私のようなキャリアは、これからの若い人たちにはイメージし難い時代になっていますね。産業構造や市場環境が短期間で大きく変わる中、一つの会社、一つの専門領域でキャリアを積むことが最善とは言えない。例えば、自動車産業にしても、欧州がハイブリッド車も含むガソリン車を2035年に販売禁止するとしています。EVシフトが進めば研究開発の現場に求められる技術も変わるので、働く側も変化せざるを得ないでしょう。専門領域を強みにはしても、それに固執せず、自分の能力や可能性を広げていくことが大事」という。

確かに、理系出身の転職希望者から、「理系出身で専門外の仕事についた人について教えてほしい」「どの分野や職種で活躍しているのか知りたい」という相談を頂くことは多い。

話を聞くと、多くは新卒で就職する際、研究室の教授やOB・OG訪問など自身の専門分野に関する人からの情報収集は行っていたが、それ以外の分野や職種についている人からの話はあまり聞く機会がなかったという。また、文系専攻の学生以上に、「専攻した分野を生かせる職種」を軸に就活を進めることが多い。ただ、先の話の通り、産業構造の変化や技術革新の結果、全くこれまでの技術を生かせない部署に異動になったり、その産業自体が斜陽化していったり、自分のキャリアの軸について見直しをせざるを得ない状況が確実に増えている。そんな中、この時代において自身のロールモデルとなるような人を見つけたいと思うのは当然のことだろう。

今回は、特に「理系出身で研究職以外に進んだ人」をテーマに考えていきたい。

 

博士研究員から投資銀行へ

一人目は、大学のポスドク研究員から投資銀行へ転職したA氏について紹介したい。

A氏は、生命科学分野の研究をしており、医学博士を取得後、ポスドクとして勤務していた。ただ、研究活動における大学の研究資金が減少していることや、欧米と比べて日本のライフサイエンス系ベンチャー企業への投資が十分でないことに問題意識が強くなっていったという。「IT分野などと比べ、ライフサイエンス分野の研究開発の期間は相当長い。数年で結果が出ないのは当然なのに、技術に理解がないために資金が短期で打ち切られることが問題だと思いました。知人を通じて金融関係の人を紹介してもらったところ、欧米の投資銀行やベンチャーキャピタルには博士号を取得した人も多くいて、投資の際に技術的な観点で見極めをしていると聞いたので、自分に向いているかもしれないと思いました」。

このように、ライフサイエンス分野に限らず、投資会社などの金融業界で博士号取得者が活躍できるフィールドは十分にある。実際、ある国内の大学教授がアメリカのベンチャーキャピタリストと話をした際、投資だけでなく、技術についての深い理解にとても驚いたという。そのキャピタリストは教授のこれまでの論文を熟読しており、「発表された論文を読んだが、Xの実験データについて私の見解はこうだが、話を聞かせてほしい」など、学会の論文発表の際に出るような鋭い質問を次々としてきたそうだ。後から聞いたところ、その人は関連する分野で博士号を取得しており、研究者としてのキャリアもあったため、その論文内でのデータの意味付けや、この技術の今後の課題、その課題をクリアするためにはどのようなハードルがあるかについて、高い解像度をもってイメージ出来ていたに違いない。「これまで多くのキャピタリストの方ともお会いしていますが、ここまで込み入った質問をされた経験はなかった。まるで同じチームの研究者同士でディスカッションしているような感覚で会話ができたので、心強かった」という。

A氏の言うように、研究の事業化を推進するために、博士号取得者が求められる場面は更に増えていくのかもしれない。

 

コンサルティング会社を経て、ベンチャー企業へ

2人目は、大学院で薬学の修士号を取得し、新卒でコンサルティング会社に就職したB氏。B氏は、コンサルティング会社を5年間勤務したのちに、創薬技術に関わる大学発ベンチャー企業へ転職した。大学院のゼミの同期のほとんどがメーカーの研究者として就職していく中、新卒でコンサルティング会社を希望した理由はなぜだろうか。

「学生時代にベンチャー企業でインターンをした際に、企業経営に興味を持ったことがきっかけです。研究を進めていく中で、論文が評価されてポストを得ていく先輩がいる一方、自分は研究者としてやっていくのは違うだろうなという感覚はあったんですよね。インターン先は専攻とは全く関係のないネット系の広告会社でしたけど、研究生活で培ったことは生かせるかもしれないと思いまして。例えば数字の分析や集計は日常的にやっていたので得意でしたし、経営側からデータ分析について意見を求められるようなこともありました。その経験があったので、漠然と経営に関わりたいという想いがあり、コンサルティング会社に入りました。

創薬化学が専門だったので、化学系のチームの所属となり、クライアントは製薬企業が多かった」という。B氏もインターンをするまでは、当然のように自分も研究者として就職するものだと考えていたが、全く違う業界の人と接することで大きく考えが変わったという。「私の場合は学部時代から大学外のコミュニティにも意識的に持つようにしていました。インターン先の先輩や経営層の人たちが何を考え、どのように仕事をしているのか、実際に現場を見なければ知らなかったことばかりです。修士課程に入ってからは、特に研究が忙しくなり、人間関係も研究室が中心になります。専門分野に進むにしても、研究室の外の世界を知ることは俯瞰的に自分の研究やキャリアを見つめ直すために重要」という。現在、B氏はコンサルティング会社で当時担当していた企業の社長に誘われ、創薬系ベンチャー企業の経営企画として勤務している。「いつかは事業会社で経営に関わりたいという気持ちがあったので、今の会社に転職しました。経営企画部では、私以外は文系なので、社内の研究部門と経営側を繋ぐ『通訳』のような役割をすることも少なくありません。また、大学院時代に製薬やアカデミアの研究者の道に進んだ同僚との繋がりも生かされています。

『あの論文についてどう思うか』とか『この前の国際学会で気になったトピックは何か』とか今もよく議論しています。そうゆう繋がりがあるのは、自分が研究していたからこその強みですよね」という。

 

このように、二人とも研究経験の強みを最大限に生かし、自らの力が発揮できるキャリアを歩んでいる。共通しているのは、専門外の人の話を積極的に聞き、自らの可能性を広げる行動力があったという点である。変化が大きい時代において、今後のキャリアを考える際の参考になればと思います。

*本記事はLHH転職エージェントによる寄稿記事です。これまでの寄稿記事はこちら

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LHH転職エージェントとは、世界最大の総合人財サービス企業アデコが日本で展開する転職支援サービスのブランド名称です。国内では大都市圏を中心に事業を展開し、各領域に精通した転職コンサルタントがさまざまな業界・職種の転職サポートを行っています。ライフサイエンス・メディカル領域においては、化学業界を軸に、理化学機器、製薬、再生医療、医療機器といった分野でご活躍される方々の転職をサポートしています。

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Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

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