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軽量・透明・断熱!エアロゲル(aerogel)を身近に

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エアロゲルってご存じですか?80年以上前に始めて作製され、[1] さまざまな特徴をもつ構造体です。装置などの面で作製のコストが高く、目にしたことがある人は滅多にいません。インターネットで情報を見たことだけある、という読者も中にはいることでしょう。

しかし最新技術を使えば、エアロゲルは(頑張れば)特別な設備なしで作れてしまうのです!今回はそんな材料、私の研究テーマのひとつでもあるエアロゲルについて書いてみたいと思います。

そもそもエアロゲルとは?

エアロゲル(aerogel)とは簡単にいえば細かく均一な内部構造(細孔、骨格)をもつスカスカの構造体のことです。IUPAC GOLD BOOKにおいては “Gel comprised of a microporous solid in which the dispersed phase is a gas.” と(一応)定義されていますが、実際は超臨界乾燥法という高温高圧の特殊な流体によって溶媒を取り除き、乾燥体となったゲルを呼ぶことが多くなっています。この方法で乾燥ゲルを作ることで、蒸発乾燥やフリーズドライとは異なり、湿潤時と同じ構造をナノメートルのレベルまで保つことができます。

SCF.png

エアロゲルは化合物ではなく構造体のこと

エアロゲルは構造体の名称です。特定の化合物ではありません。[2] 最初の論文でも、シリカ、アルミナ、酒石酸ニッケル、酸化タングステン、ゼラチン、寒天、ニトロセルロース、セルロース、卵白アルブミンから作製できたことが報告されています。[1] 近年は電池電極材料などの応用を目指して炭素材料をエアロゲルにすることが多いようです。

これらそれぞれの化合物で作られたエアロゲルはさまざまな用途が期待されています。

代表的なエアロゲルの微細構造は、緻密な一次粒子が凝集した二次粒子が、さらに数珠状に連なったものといわれています。骨格の太さや細孔径の大きさが均一なので、うまく設計すればさまざまな物性を引き出すことが可能です。

aerogelstructure.png

エアロゲルはなぜ低密度か?

エアロゲルはその名前の通り低密度です。最初の報告でも0.02 g/cm3、近年ではさらに約10倍軽くなったものが報告されています。自立した材料として、軽いことは大きなアドバンテージになります。しかし、軽さに関する多くの誤解も存在します。

よくある誤解

エアロゲルは空気のx倍と表現される場合がありますが、誤解を招きやすい表現です。エアロゲルのような多孔体の密度は、重さを全体の体積で割ったもの(かさ密度)であり、固体成分が軽いというわけではありません。かさ密度について極端な表現をするならば、1 tの鉄骨で作った1辺10 mの立方体の構造体は空気よりも軽いということになってしまいます。自重の2000倍の重さを支えるという機械特性が大々的に書かれることもありますが、これもかさ密度という観点だけから議論したものであり、それだけでは大した性質といえません。

全体としてただ軽いだけではなく、数~数十ナノメートルオーダーの内部構造を保持しているからこそ価値があります。軽ければ他の物性もよくなるというわけでもありません。エアロゲルの優れた物性を引き出すには、ターゲットを絞った設計が必要になります。

エアロゲルを透明に

エアロゲルは透明というイメージがついているようですが、エアロゲルはあくまでも構造体の名称であり、さまざまな組成が存在します。カーボンエアロゲルを紹介する際、(代表的な透明体である)シリカエアロゲルの写真を何の説明もなく載せているネット記事をみかけますが、これは木炭を説明するためにシリカガラスの写真を用いるようなものです。

物質を透明にするためにはさまざまな条件が必要ですが、多孔体であるエアロゲルにおいては光の散乱が大きく影響してきます。

例えばシリカエアロゲルは直径約10 nmの微粒子が数珠状に繋がってできた構造をもちます。連続構造が凝集することなく、空間内に均一に散らばった状態で存在しています。細孔も含めて可視光波長の1/10よりも小さい局所構造しかもたないため、エアロゲルを曇らせる大きな原因となるミー散乱があまり起こりません。代わりにレイリー散乱が起こるため、空と同様に青く色付いて見えます(写真はPMSQエアロゲル)。

エアロゲルの断熱性

熱伝導率が自立した固体の中でもっとも低いため、エアロゲルの産業応用としては昔から断熱材が考えられています。具体的数値を書くと、一般的な断熱材の熱伝導率が約20-45 mW/(m・K) であるのに対し、エアロゲルはそれを下回る報告ばかりです。数値が低ければ低いほど断熱性能が高く、厚みを減らすことができます。

その秘密は構造にあります。骨格が空間を均一に仕切っているため、エアロゲル内ではガスの対流や分子の熱運動量交換が起こりません。室温での窒素分子の平均自由行程は約70 nmなので、これより小さい空間に仕切る(=細孔を形成する)ことで真空に近い断熱性を得ることができます。[3] 空気が入った魔法瓶のようなものです。

エアロゲルを低密度化すると空隙部分が増えて細孔径が広がり、内部ガス分子の熱運動量交換が生じてしまいます。ですから、断熱性を高めるためには最適な構造(かさ密度)を探す必要があります。150 mg/cm3付近のものがいいようです。

余談ですが、ここ数年の話。材料化学の査読がいい加減になってきたのか、市販品にも劣る熱伝導率を高断熱性と謳った論文をトップジャーナルですら見かけます。その道の研究者なら常識として見抜けなければおかしいのに、非常に残念です。

エアロゲルを身近に

なぜエアロゲルは普及しないのか?

優れた特性(特に断熱性)をもったエアロゲルが何故普及しないのか?その原因は構造の脆さにあります。

エアロゲルの骨格径は前述の通り10 nmほど。化学的作用(例えばシリカにおける吸湿)があれば変質します。乾燥時には、骨格すべてに毛管力がはたらきます。超臨界乾燥なしでは粉々に砕けます。無事作製に成功し、窓ガラス代わりにしました。虫が体当たりしたら割れます。それほど衝撃に弱い材料です。

最近の論文では高強度を謳ったエアロゲルも出てきていますが、単に骨格径を大きくしたものがほとんどです。これではメリットが失われコストでも性能でも既存の発泡材料に負けてしまいます。

普及に向けて ~ハイブリッド化~

衝撃に弱いなら強くすればいい、という考えでさまざまな人がシリカエアロゲルの性質を調べてきました。数十年前とは思えないハイレベルな論文がたくさん報告されています。そして、さまざまな人が弱すぎる骨格の補強を試みてきました。

行き着いた結論はハイブリッド化です。シリカ骨格が脆いなら繊維や有機ポリマーで補強すればいい。一時、米国では軍事・宇宙開発用途でかなりの研究が行われ、現在市販されるものも増えてきています。しかし、熱伝導率が上昇したり、透明でなくなったりするなどのデメリットがあります。

蒸発乾燥でも得られるPMSQエアロゲル ~シリカに劣らない断熱性~

シリカエアロゲル作製は乾燥以外は簡単にできるため、小さいものなら米国版Amazonでもポチることができます。しかし高温高圧を用いるため大規模なサンプルはなかなか作製できませんでした(装置を大きくし過ぎて爆発した事故もあったようです)。

2007年、京都大学から新しいエアロゲルが発表されました。[4] 有機-無機ハイブリッドであるPMSQ(CH3SiO1.5、シリコーンの一種)で、シリカエアロゲルと同等の透明性(10 mm厚で可視光を90 %以上透過)と断熱性(熱伝導率約14 mW/(m・K))をもつ材料を超臨界乾燥など特別なプロセスなしで完成させています。

仕組みは単純です。筆記具のグリップについているシリコーンを想像してもらえればわかりやすいと思いますが、同じシロキサン結合を多くもつシリカガラスと異なりシリコーンには柔軟性があります。乾燥時にこの特徴が威力を発揮し、毛管力に応じて変形することで構造破壊を防ぎます。溶媒が完全に蒸発して毛管力がなくなったあとは、弾性によって元の形状を回復します(スプリングバック効果 [5])。これにより(かなり頑張れば理論的には)どんな面積の断熱パネルでも作製可能になりました。

このエアロゲルはシリカにない特徴ももっています。シリカとは異なり水に強く、低密度でも水蒸気をほとんど吸着しません。シリカエアロゲルも表面修飾により疎水化が可能ですが、骨格の内部まで完全に疎水化処理を施すことは立体障害などの理由で不可能です。また、PMSQは弾性により圧力をある程度受け流すため、明らかに耐衝撃性がアップしています。

しかし改善されたといっても一般的な材料に比べればまだまだ弱く、蒸発乾燥では超低密度なゲルを得ることが不可能などの解決すべきポイントがあります。そもそも、超臨界流体の利用自体が今日では特殊な事例ではなくなってきているため、あえて蒸発乾燥で作製するメリットも薄れてきています。

PMSQに限らず、現在もいろんなエアロゲルが実用化に向けて研究されています。日常的に触れるようになる日がくるかもしれません。

サイエンスアゴラでPMSQエアロゲルに触れます!

特別な装置なしで簡単に作製することができるPMSQエアロゲルですが、サイエンスアゴラのケムステブースで展示します。実物を目にすれば驚くこと間違いなし!

いろんな不思議素材を触ってみませんか?ご来場をお待ちしています!

Aerogels Handbook (Advances in Sol-Gel Derived Materials and Technologies)

参考文献

  1. “Coherent Expanded Aerogels and Jellies”, S. S. Kistler, Nature, 127, 741 (1931). doi:10.1038/127741a0
  2. “Aerogels – Airy Materials: Chemistry, Structure, and Properties”, Nicola Husing and Ulrich Schubert, Angew. Chem. Int. Ed., 37, 22-45 (1998). doi:10.1002/(SICI)1521-3773(19980202)37:1/2<22::AID-ANIE22>3.0.CO;2-I
  3. “Thermal conductivity of monolithic organic aerogels”, X. Lu, M. C. Arduini-Schuster, J. Kuhn, O. Nilsson, J. Fricke and R. W. Pekala, Science, 255, 5047, 971-972 (1992). doi:10.1126/science.255.5047.971
  4. “New Transparent Methylsilsesquioxane Aerogels and Xerogels with Improved Mechanical Properties”, Kazuyoshi Kanamori, Mamoru Aizawa, Kazuki Nakanishi and Teiichi Hanada, Adv. Mater., 19, 1589-1593 (2007). doi:10.1002/adma.200602457
  5. “Silica aerogel films prepared at ambient pressure by using surface derivatization to induce reversible drying shrinkage”, Sai S. Prakash, C. Jeffrey Brinker, Alan J. Hurd and Sudeep M. Rao, Nature, 374, 439-443 (1995). doi:10.1038/374439a0
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GEN
国立大JK。エアロゲルやモノリス型マクロ多孔体を作製しています。専門分野はあいまいです。ピース写真付インタビューが化学の高校教科書に載りました。

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