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Altmetric Score Top 100をふりかえる ~2018年版~

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Tshozoです。

暑い中電子版ジャーナルをお読みの方々、論文横のコーナーにある数字をご覧になったことはありますでしょうか。

とある論文サイトの右側にある例のアレ
ドーナツ部の中心の数字が”Altmetric Score”

これこそ最近結構な数のジャーナルに併設されているウェブ上でのリアルタイム注目度指標、”Altmetric Score“です。世間的ダービーポイントと言っては下卑た例えでしょうが、考え方次第で適切な指標になり得るのではないかという印象を受けています。[北海道大学の小泉准教授(リンク)が既にご自身のブログで詳細を述べられており、そちらが非常に判りやすいのでまずはそちらをご覧ください(その1 :リンク その2:リンク)[文献1]]。下記、その概要と考えたことを諸々書いていってまいりますのでお付き合いを。

Altmetric Score 概要

Altmetric Scoreは研究者かつ論文誌編集経験者であったEuan Adieによって創業されたデータサイエンス業であるAltmetric社が提唱する指標のことで、「該当ArticleがWeb上で現在(&累積)どれだけ話題を集めているのか」を何らかの関数を通した後の値として定量的に示すものです。あくまで「Web上の」注目度を示すということがポイントで、一般的に科学論文の本質的意義はその被引用数に示されることが多いですが、数年~十年以上経たないとその傾向がわからないケースがほとんど。これに対しAltmetric Scoreはどちらかというと直近の(現世の)世間一般注目度を示したものと言えるでしょう。また、下図のように「できること」「できないこと」をきっちり宣言しているのも好感が持てます。要は絶対視するなってことですね。

Cernで発表されたEuan Adie氏によるプレゼンから引用(リンク)
こういう「概念」「原理原則」がはっきりしているのは本当に見習いたい・・・

それを踏まえたうえでのこの指標の裏側なのですが、実はどういう関数で算出されているかは非公開で、単純な重みづけ積算ではなさそうです。ただポイントに関わる「基本的な変数の重みづけ」は公開されており(同社のこちらのリンク)それによると↓

8 : News
5 : Blog
3 : Policy document(per source),  Patent,   Wikipedia
1 : Twitter(tweets & retweets), Peer review(Publons, Pubpeer), Weibo, Google+, F1000, Syllabi(Open)
0.5 : LinkedIn
0.25: Facebook, Reddit, Pinterest, Q&A (Stack Overflow), Youtube
0 : Number of Mendeley readers, Number of Dimensions and Web of Science citations

のように順序付けされています。基本的にはNewsやブログの重みが高い≒Web上での注目度が高い、と判断しているわけですね。また面白いのが一般に注目度の高いYoutubeやFacebookの重みが低い点。これは特定組織などによって無理矢理ポイントを上げることのできるようなサイトであることが理由な気がします(もっとも、Twitterもそれに近いリスクを抱えている印象がありますけど)。個人的にはPinterestが入っているのはどうかと思うのですが・・・

ちなみに「化学者のつぶやき」もこのAltmetric Scoreに寄与する1つ(@blog)に採り上げられるようになっており、たとえばSpringer Natureでは基幹誌NatureはもちろんNature Chemistry, Nature Communications などでも採用され論文の注目度を示せるようになっています。またWeily誌でも推薦により2013年からScore算出に採用頂いているようなので(リンク)(導入経緯 説明記事 こちら)、ますます尿とか虫のゲロとかマタタビとか鈴木大拙とか書いてる場合じゃなくなっているわけです。ともかく上記のWeily誌も書いていますがAltmetric Scoreの狙いとしては「被引用数が明らかになるまでの論文の発展経緯を補足的に示す」ということに尽きるのでしょう。

重ねて蛇足ですが、Nature最新誌でポイントがかなり高いものの例を取ってみると下図のように”3400“とかいう頭おかしいレベルの数値が出たりします(2019年7月末に出たばっか)。後述しますが、結局ニンゲン活動にダイレクトに関わっている部門のArticleはやっぱり衆目を集めやすいという印象があります。

2019/8/12時点の数字 [文献2]から編集して引用
現在の温暖化傾向が人為由来であると結論付けた重要な論文

2018年 Altmetric Score ランキング

ということで本題。2018年に衆目を集めたトップ100がこちらのリンクに公開されていますが、実は「いわゆる化学分野の成果はひとつもない」のです。有機、無機、電気化学、こういったものはランク外だったのです。では何がトップ100に来たかというと分類的には下図。

Altmetric サイトより引用[リンク]

50%近くが薬学とヘルスケア(医学含む)、環境含む地学が15%くらい、社会科学、物理学と来て、歴史&考古学、バイオがやっとここで、研究業界云々ときて計算科学と続きます。どれもこれも人間の生死にかかわり、生活にかかわり、知識にかかわり、と、ダイレクト感がある領域ですよね、うーん。以上、終了。

ではつまらんので・・・これは化学という学問の特徴(特長でもある)だと思うのですが、たとえばノートパソコンを作るのに様々な部品が使われる中、部品のどれもこれも不可欠なのは間違いないのですが結局最終ユーザはその中のネジとか筐体の樹脂とか、まずほとんど気にしちゃいない、というのと同じ構図なのかなと感じます。電池もどこのメーカのどの種類のものが入ってるかなんて、筆者を除くフツーの方ならまず気にしませんよね? さすがにキーボードの触感くらいは気になるかもしれませんがそこのみで買うものが変わるというのは考えにくい。

それと同じで、サービスが複雑化する中で技術とニンゲンとの距離が変わってきたため化学分野が衆目に触れにくくなってしまっている、というのが如実にこうしたポイントに表れている気がします(どなたかが言われていましたがB to C とB to Bの違いでもあります)。薬学へは大きな貢献をしているのでもう少し前面に出てほしいのですけどこれもやっぱりユーザが欲しいのは「薬そのもの」であるわけで、たとえば言いたくはないですが合成方法や原材料は正直ほとんど気にしていないというのが本音でしょう。

ということで各分野へ貢献していないとは絶対に言いませんが、「命」にかかわる薬学や医学、比較的理解しやすい環境や地学、こうしたいわゆる衆目を集めやすい分野に対しては化学系(有機・無機・電気・農業・・・)はどうしてもAltmetric Scoreでは一般的に優位に出られないというのは致し方ないのかもしれません、やや悲しいお話ではありますが。最終ユーザをある程度見据えた研究開発、というのは引き続き意識しなければならないのでしょうが、それのみで駆動する研究というのはだいたい長続きしないということとのバランスはいつの時代も難しいことなのだと実感した次第です。

おわりに

筆者は随分前に保険営業に携わったのですが、当然契約件数が全て。親族をダマそうが友人を丸め込もうがとにかく目の前の件数。全体観なぞ全く無く、最近問題になったか〇ぽの件とかとほぼ同じ構図だったと思っています。これはとりもなおさず成果の本質を問わなくなるという点で極めて危険で、毛沢東が推し進めた大躍進政策そっくりの構図ではないかと。「お上品では商売は出来ん」と声が聞こえそうですが石田梅岩の爪の垢でも煎じて飲んどけ、と言っておきます。

同様にIFよろしくAltmetric Scoreについても「数字でトップを(も)目指せ」という大声を上げだすんじゃなかろうかという懸念は常についてまわります。Altmetric Scoreは個人的に興味をそそられるため有効活用すべきと思うのですが、特に為政者側が「特定の指標の絶対視だけはいかん」という認識を持ってくれんと大躍進政策の二の舞になってしまうことは明白。特に日本のどこかの国は特定の指標をセットすると客観視も何も打ち捨てて「指標だけを上げる努力」してしまう歴史的傾向があるので・・・中国のことわざにあったと思うのですが「いったい誰がトサカが珍妙に巨大になった鶏を美しいと感じるのか」という視点が無くなるんですね。あと好奇心とか偶然性とか運とかいった、場合によっては最も科学に重要な陰徳的なものが指標の絶対化で多数抜け落ちることは繰り返し強調しなければならないでしょう。もちろんAltmetric本体もそこらへんはきちんと配慮して下記のような文言を表明していますので、本意は一緒なのだと信じます。

Altmetricサイトより引用(リンク)
” it can’t tell you anything about the quality of the article itself” が重要

いっぽう、このAltmetric Scoreは経緯さえ追えていれば変化が顕著にあった論文や特定の研究分野の活動が芽吹いたことをかなり早い段階でつかむことが出来るため、特に長期傾向を継続的にみるのに重要なのではないでしょうか。じっさい筆者としては論文の歴史的経緯も理解していきたいのでこうした時系列データも公開してもらいたいところです(が、いまのところデータ利用申請するか会員登録でもしないと見れないみたいですね・・・)。

というのも、たとえば九州大学の石野教授が1987年に発表されたCRISPERに関する論文を掲載された学術誌”American Society for Microbiology Journals”では論文アクセスの時系列データを公開していますが、2013年以前はほっとんどアクセス稼いでなかったですので。あと下村脩先生のGFPの論文に至っては米国はともかく日本ではほぼ無関心だったようですから、こういう国別データも実は注目に値するものになるのかと。ここらへんもう少し拡充してもらうと筆者のようなWeb書きもの記者にとっては非常に嬉しいのですけど、こういうデータはたとえば先回りしてマスメディアの特ダネに繋がるデータとして活用するといったようになんらかの「商売」に繋がる可能性がありますから公開していないのかもしれません。結局のところAltmetric Scoreは当面は下図のように「学術」と「世間」の橋渡しをしながら動向と位置付けをチェックできる有効なツールとして認識しておくべきなのでしょう。

筆者の独断と偏見によるAltmetric Scoreに対するイメージ図
もちろん学術的意義はある時間での位置にしか過ぎず、変動する

たとえばCRISPRは今でこそ上の方にいるが2013年以前は上述のように「微妙」ゾーンにいた

蛇足なのですが、論文誌Cellなどには同様のデータを取り仕切っているPlumXという指標もあります、近年の流れを考えると最終的にはこれらも巨大データ屋さんに統合されるような気がしています。商売に繋がる、という面ではこうした「科学を整理する」という視点は常に留意しとくべきなんでしょうね。

という事であんまりまとまってませんが今回はこんなところで。

参考文献

  1. “プレスリリースとAltmetrics” 北海道大学大学院環境科学院・地球環境科学研究院 生物圏科学専攻 動物生態学コース 小泉研究室 ブログ  その1 :リンク その2:リンク
  2. “No evidence for globally coherent warm and cold periods over the preindustrial Common Era”, Nature, 571, 550–554 (2019) リンク
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Tshozo

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メーカ開発経験者(電気)。56歳。コンピュータを電算機と呼ぶ程度の老人。クラウジウスの論文から化学の世界に入る。ショーペンハウアーが嫌い。

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