関東化学が発行する化学情報誌「ケミカルタイムズ」の紹介も今回で6回目。ケミカルタイムズという雑誌名を超えた、幅広い分野が扱われています。
今回は特集「食品衛生関係」(2017年No.2)に掲載された食の安全や検査法に関する4つの記事を紹介したいと思います(記事はそれぞれのタイトルをクリックしていただければ全文無料で閲覧可能です。PDFファイル)。
食の安全と検査
最も我々に身近な食。それに悪影響を及ぼす食問題。食問題に取り組み、食に関する安全を守ることは、大変重要なことはいうまでもありません。
近年トランス脂肪酸やN-ニトロソアミンなど有害化合物問題は大きく取り上げられますが、実は毎年必ず発生する食問題は、「食中毒」。そして食中毒はほとんどが微生物の発生が原因となって起こるものです。記事では食中毒に関するサルモネラ属菌、腸管出血性大腸菌O-157、カンプロバクター属菌および腸炎ビブリオの各病原菌に関するこれまでの安全対策とその効果及び問題点について述べています。
国内の食品微生物試験法とISO法とのハーモナイゼーション
2011年4月に発生した焼肉屋チェーンの「ユッケ食中毒事件」を覚えているでしょうか?それが発端となり生肉の食肉微生物試験が2010年10月に変更されました。基本的には食品の国際規格である「コーデックス」の求める指標を導入しました。そして2016年にはコーデックスの採用している国際標準化機構(ISO)法と整合性のある試験方法に変更されています。
記事は食品微生物に関する小リスクマネージメントの国際基準や試験の妥当性確認を行う第三者期間の設置、目的整合性のある迅速法・簡便法の導入などに加え、目的に合わせた試験法の選択を促しています。重要な内容であることはわかりますが、あまりにもスペシフィックかつ専門的すぎてあまり深くは読めていません。
腸管出血性大腸菌感染症の発生状況と検査法の変遷
すでに誰もがしっている単語と化した腸管出血性大腸菌「O157」。記事では近年の発生状況とその検査法について述べています。感染症報告数は毎年3500人以上。一方で、厚生省に報告された食中毒事件数は20件前後と感染症報告数に比べてかなり少ななっています。この原因は、食品からの感染からはじまりますが(食品媒介)、その後は人から人への感染、つまり「感染症」の方が圧倒的に多いことを示しています。腸管出血性大腸菌試験の歴史から現在の手法まで詳細に述べられており、これも正直難解で興味もそがれますが、読んでみるとよいでしょう。
微生物を色で見る
これらの記事の中ではもっとも化学に近い記事。記事は微生物を推定および特定できる分離培地について述べられています。1970年代のルイ・パスツール研究所でDr. Alain Rambachによって開発された酵素敷地培地に関するお話です。各種微生物の特異的な代謝を利用した鑑別手法で、現在CHROMagar(クロモアガー)シリーズとして世界的にに活用されています。
酵素基質培地とは「目的とする微生物が特異的に代謝する基質に色原体(発色もしくは発光物質)を標識した特異酵素基質を含ませた培地」のことです。微生物が特異酵素基質を取り込んで代謝すると色原体が解離し、縮合、発色して微生物を染めるという原理に基づいています。
例えば、O157は特異酵素としてβ-glactosidaseをもっているため、それにより特異酵素基質が分解され、赤色の色原体が解離・縮合し、微生物を赤く染めます。一方で、あるグラム陽性菌はβ-glucronidaseを特異酵素としてもっており、同様に基質が分解され、青色に染めます。
現在様々な特異酵素に対する特異酵素基質が報告されており、公衆衛生・食品衛生臨床分野で利用されているそうです。本記事が一番化学的な見地からはわかりやすく、面白く読めました。
以上、すべて無料で読めますので手の空いたときにでも閲覧してみてはいかがでしょうか。
過去のケミカルタイムズ解説記事
- 電子デバイス製造技術(2017年 No.3)
- 食品衛生関係 ーChemical Times特集より (2017年 No.2) 本記事
- 免疫/アレルギー(2017年No.1)
- 標準物質(2016年No.4)
- 再生医療(2016年No.3)
- クロスカップリング反応 (2016年No.2)
- 薬物耐性菌を学ぶ (2016年No.1)