[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

スルホニルアミノ酸を含むペプチドフォルダマーの創製

[スポンサーリンク]

南フロリダ大学・Jianfeng Caiらのグループは、L-アミノ酸とD-sulfono-γ-AApeptideの2:1繰り返し構造が特異な右巻きらせん構造を取ることを報告した。

“Right-Handed Helical Foldamers Consisting of De Novo D-AApeptides”
Teng, P.; Ma, N.; Cerrato, D. C.; She, F.; Odom, T.; Wang, X.; Ming, L.-J.; van der Vaart, A.; Wojtas, L.; Xu, H.*; Cai, J.* J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 7363–7369. DOI: 10.1021/jacs.7b03007 (冒頭図は論文より引用)

問題設定と解決した点

3次元構造を持つペプチドはタンパク質や膜分子に作用し、医薬・材料方面での利用が期待されている。中でもらせん状に折りたたまれたペプチドフォルダマーはこのような働きに加えて、膜内に入り込みチャネルとして機能できる可能性がある。

らせんを形作るペプチドの一つとして、L体・D体の両方のアミノ酸を交互に含むペプチドが挙げられる。そのような例としてはグラミシジンAやoligo-L-Val-D-Val peptideなどが知られるが報告例は少なく、らせん方向などの予測が困難であった。

著者らはらせん状ペプチドフォルダマーを新たに合成することでこのような化合物の知見を増やすとともに、生体分子模倣ペプチドの拡充を目指している。

技術・手法のキモ

著者らはペプチド核酸(PNA)から着想を得て設計されたAApeptide (N-acetylated-N-aminoethyl peptide)の3級アミド部分をスルホンアミドにする(Sulfono-AApeptide)ことで、アミドのシス/トランスによる影響をなくすとともに、立体障害を増大させてらせんを作りやすくする[1]ことを期待した。


主張の有効性検証

著者らはこれまでに、L-sulfono-γ-AApeptideのみのらせん[1]と α-アミノ酸とL-sulfono-γ-AA peptideの1:1複合のらせんフォルダマーを合成していた[2]。今回の論文ではα-アミノ酸:D-sulfono-γ-AApeptide=2:1でらせんフォルダマーを形成できることを示している。

具体的には、L-Ala、L-Phe、4-chlorobenzenesulfonyl-D-sulfono-γ-AA残基でペプチドを作り、単結晶X線構造解析を行うことで、冒頭図の様ならせん構造が作られていることを確認している。

誘導体の構造解析より、以下のことが明らかになっている。

  • 長いペプチドほどらせんを形成しやすい。
  • どの鎖長のものも右巻きである。半径2.6Å、一巻き4.5残基、5.1Å。π-へリックスに近い構造をとる。
  • 16-16-14の水素結合形成パターンを取る。
  • 側鎖は軸に対して外側を向いている。官能基の表面提示に有効な骨格である。
  • 各結合のねじれ角が特徴的。Ala部分はαへリックスに近くPhe部分はβシートに近い。D-sulfono-γ-AA残基部分はどれともつかない角度を取る。
  • トリフルオロエタノール中でのCDスペクトルより、温度・濃度変化にらせん構造は安定であることが示されている。
  • 分子動力学シミュレーションにより得られたらせん構造の妥当性が示されている。
  • スルホンアミドフェニル基上の置換基やα-アミノ酸部位を各々変更しても、らせん構造を取り得ることがNOE解析(CD3OH中)によって示唆されている。

議論すべき点

  • 官能基の一般性および安定性を兼ね備える、D-sulfono-γ-AA残基という特殊アミノ酸を含む、πへリックスという特異な構造を取る、側鎖は外を向いていてその向きに方向性がある、などの特性があるため、医薬分子や膜人工チャネル分子として組み込める可能性が十分あると考えられる。
  • 末端近傍のらせん構造は若干崩れやすい平衡にあるので改善は必要か。
  • D-sulfono-γ-AA残基は固相合成できる。Pd還元が必要なのが難である。

次に読むべき論文は?

  • Poly‐Aibペプチドでらせんを作り、膜に組み込んでイオン透過能を計測している論文[3]。鎖長によってイオン取り込み能が変わっている。膜に組み込むにはどのような特性がいるのか。N、C末端にどのようなキャップ構造を付ければよいか。膜貫通に必要な鎖長、チャネルを作る穴の大きさetc…などのヒントになるか?

参考文献

  1. Wu, H.; Qiao, Q.; Hu, Y.; Teng, P.; Gao, W.; Zuo, X.; Wojtas, L.; Larsen, R. W.; Ma, S.; Cai, J. Chem. Eur. J. 2015, 21, 2501. DOI: 10.1002/chem.201406112
  2. Wu, H.; Qiao, Q.; Teng, P.; Hu, Y.; Antoniadis, D.; Zuo, X.; Cai, J.  Org. Lett. 2015, 17, 3524. DOI: 10.1021/acs.orglett.5b01608
  3. Jones, J. E.; Diemer, V.; Adam, C.; Raftery, J.; Ruscoe, R. E.;  Sengel, J. T.; Wallace, M. I.; Bader, A.; Cockroft, S. L.; Clayden, J.;  Webb, S. J. J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 688. DOI: 10.1021/jacs.5b12057

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 発想の逆転で糖鎖合成
  2. 祝5周年!-Nature Chemistryの5年間-
  3. セミナー/講義資料で最先端化学を学ぼう!【有機合成系・2016版…
  4. アカデミックから民間企業へ転職について考えてみる 第三回
  5. 分子構造を 3D で観察しよう (2)
  6. 近況報告PartI
  7. 第93回日本化学会付設展示会ケムステキャンペーン!Part I
  8. 私がケムステスタッフになったワケ(3)

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 基礎有機化学討論会開催中
  2. クラリベイト・アナリティクスが「引用栄誉賞2018」を発表
  3. 無保護糖を原料とするシアル酸誘導体の触媒的合成
  4. アルツハイマー病・ワクチン開発相次ぐ、副作用回避へ知恵絞る
  5. 続・日本発化学ジャーナルの行く末は?
  6. 有機合成化学者が不要になる日
  7. 色素・樹脂材料処方設計におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用とは?
  8. 2018年1月20日:ケムステ主催「化学業界 企業研究セミナー」
  9. 秋田の女子高生が「ヒル避け」特許を取得
  10. どっちをつかう?:adequateとappropriate

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2017年7月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31  

注目情報

注目情報

最新記事

ラジカルを活用した新しいケージド化法: アセチルコリン濃度の時空間制御に成功!!

第 524回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院 薬学研究科 薬科学専攻 …

第38 回化学反応討論会でケムステをみたキャンペーン

今週の6月7日から9日に九州大学 西新プラザにて第38 回化学反応討論会に参加される皆様にお知らせで…

材料開発を効率化する、マテリアルズ・インフォマティクス人材活用のポイントと進め方

開催日:2023/06/07 申し込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化…

材料開発の変革をリードするスタートアップのデータサイエンティストとは?

開催日:2023/06/08  申し込みはこちら■開催概要MI-6はこの度シリーズAラウ…

世界で初めて有機半導体の”伝導帯バンド構造”の測定に成功!

第523回のスポットライトリサーチは、千葉大学 吉田研究室で博士課程を修了された佐藤 晴輝(さとう …

第3回「Matlantis User Conference」

株式会社Preferred Computational Chemistryは、7月21日(金)に第3…

第38回ケムステVシンポ「多様なキャリアに目を向ける:化学分野のAltac」を開催します!

本格的な夏はまだまだ先ですが、毎日かなり暖かくなってきました。皆様お変わりございませんでしょうか。…

フラノクマリン -グレープフルーツジュースと薬の飲み合わせ-

2023年2月に実施された第108回薬剤師国家試験において、スウィーティーという単語…

構造の多様性で変幻自在な色調変化を示す分子を開発!

第522回のスポットライトリサーチは、北海道大学 有機化学第一研究室(鈴木孝紀 研究室)で博士課程を…

マテリアルズ・インフォマティクス適用のためのテーマ検討の進め方とは?

開催日:2023/05/31 申し込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の…

Chem-Station Twitter

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP