[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

添加剤でスイッチするアニリンの位置選択的C-Hアルキル化

[スポンサーリンク]

Ru触媒を用いたアニリン誘導体のパラ位アルキル化が開発された。極めて位置選択性が高く、添加剤により選択性をメタ位にスイッチできる。

アニリンの位置選択的アルキル化

芳香族化合物に対して官能基を望みの位置に直接導入できる手法、「位置選択的C-H官能基化反応」は現在世界中で精力的に開発が行われている。

特定の位置のC–H結合を活性化するために「配向基」を用いる手法がある。配向基は遷移金属に配位し、金属が芳香環の近傍C–H結合を活性化、すなわち、芳香環のシクロメタル化反応を補助する(図 1A)(1)。シクロメタル化された金属上で反応が進行すれば、その位置が官能基化された生成物を与える。配向基を工夫した、遠隔のメタ位・パラ位C–H結合の活性化反応も近年開発されている(2)

しかし、配向基をもちいれば常に、芳香環とのシクロメタル化が起こるわけでも、その位置で反応が進行するわけではない。

代表的な置換芳香族化合物であるアニリンの触媒的C–Hアルキル化反応を例に述べる。

Ackermannらはピリミジンを配向基としてもつアニリンのRu触媒によるメタ位選択的アルキル化に成功した(図 1C)(3)。配向基によりオルト位がシクロメタル化されたRu錯体aは、高級アルキルハライドとは反応しない。すなわち、錯体aはσ-アリール金属錯体として働き、パラ位で求電子置換反応を起こす(4)。また、WengとLuらはピコリンアミドを配向基とするアミノナフタレンの触媒的パラ位C–H官能基化を報告している(図 1C)(5)。Cu触媒がピコリンアミド部位に二座配位し(錯体b)、芳香環のシクロメタル化は進行しない。

今回、バース大学のFrost教授らは配向基を用いた芳香族化合物の位置選択的C-H官能基化反応の開発中、Ru触媒を用いたパラ選択的なアニリンのC-Hアルキル化反応を発見した(図 1D)。Ackermanの条件とほぼ同様であるが、Ru触媒は芳香環とシクロメタル化せず、アニリンNと二座配位し、嵩高い置換基をもつアニリン誘導体cとして振る舞い、パラ選択性を発現する。

図1. (A) 芳香族化合物のシクロメタル化反応 (B) アニリンのメタ位アルキル化 (C) アミノナフタレンのパラ位アルキル化 (D) 今回の反応

 

“Ruthenium-Catalyzed para-Selective C–H Alkylation of Aniline Derivatives”

Leitch, J. A.; McMullin, C. L.; Paterson, A. J.; Mahon, M. F.; Bhonoah, Y.; Frost, C. G. Angew. Chem., Int. Ed. 2017, 56, 15131. DOI: 10.1002/anie.201708961

論文著者の紹介

研究者:Christopher G. Frost

研究者の経歴:
-1991 B.S., University of Loughborough
1991-1994 Ph.D., University of Loughborough
1994-1996 Posdoc, University of Texas (Prof. Philip D. Magnus)
1996-2011 Lecturer, Senior Ledcturer, University of Bath
2011- Professor, University of Bath
研究内容:位置選択的C–H官能基化、タンデム触媒システムの開発、バイオプローブとその導入法の開発

論文の概要

本反応は、TBME中でRu触媒とK2CO3存在下、配向基として5-クロロピリミジンを有するアニリン誘導体1tert-ブロモアルキルエステル2を作用させることで、アニリンのパラ位アルキル化体3を与える (図 2A)種々のアニリン誘導体およびtert-ブロモアルキルエステルを用いても反応は完全なパラ位選択性で進行する。なお、クロロ基はピリミジンの5位がアルキル化されるのを防ぎ、若干3の収率を向上させる。

推定反応機構を図 2Bに示す(論文SI参照)。

まず、Ru錯体のクロロ基が炭酸イオンと置換した錯体A1が反応して錯体Bが生成する。その結果、Bの金属-配向基部位は嵩高い置換基として働く。Ru錯体は同時にtert-ブロモアルキルエステル 2を一電子還元してアルキルラジカルが生成、Bと反応しラジカル中間体Cとなる。Cは、アルキルラジカルを生成した際に生じた三価のRu錯体により一電子酸化され錯体Dとなり、最終的に配向基から金属が解離し、パラ位置換体3を与える。

さらに著者らは、添加剤をK2CO3からKOAc/AcOHに変更すると、アルキル化反応の選択性を切り替えられることを見出した(図 2C)。

DFT計算により炭酸塩存在下および酢酸塩存在下でのRu錯体形成時のギブズ自由エネルギー変化を算出した。その結果より、炭酸塩存在下ではアニリン部位のN–H結合活性化が優先する(錯体Bとなる) ため、パラ選択性が現れるが、酢酸塩存在下ではアニリンのオルト位C–H結合が活性化されやすく(芳香環シクロメタル化体:上述錯体aに当たる)、メタ選択性が発現すると推定している。

図2. (A) アニリンの触媒的パラ位アルキル化反応 (B) 推定反応機構 (C) 反応条件の変更によるメタ選択的反応への変換

 

参考文献

  1. Ackermann, L. Chem. Rev. 2011, 111, 1315. DOI: 10.1021/cr100412j
  2. Ma, W.; Gandeepan, P.; Li, J.; Ackermann, L. Chem. Front. 2017, 4, 1435. DOI: 10.1039/C7QO00134G
  3. Li, J.; Warratz, S.; Zell, D.; Sarkar, S. D.; Ishikawa, E. E.; Ackermann, L. J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 13894. DOI: 10.1021/jacs.5b08435
  4. Gagliardo, M.; Snelders, D. J. M.; Chase, P. A.; Gebbink, R. J. M. K.;van Klink, G. P. M.; van Koten, G. Angew. Chem., Int. Ed. 2007, 46, 8558. DOI: 10.1002/anie.200604290
  5. Li, J.-M.; Wang, Y.-H.; Yu, Y.; Wu, R.-B.; Weng, J.; Lu, G. ACS Catal. 2017, 7, 2661. DOI: 10.1021/acscatal.6b03671
Avatar photo

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. ジボリルメタンに一挙に二つの求電子剤をくっつける
  2. 理研の一般公開に参加してみた
  3. SlideShareで見る美麗な化学プレゼンテーション
  4. TBSの「未来の起源」が熱い!
  5. 超高速X線分光が拓く原子レベルの分子動画観測
  6. 超分子化学と機能性材料に関する国際シンポジウム2016
  7. ホストとゲスト?
  8. 電子1個の精度で触媒ナノ粒子の電荷量を計測

注目情報

ピックアップ記事

  1. 第3のフラッシュ自動精製装置がアップグレード:分取クロマトグラフィーシステムPure
  2. 剛直な環状ペプチドを与える「オキサゾールグラフト法」
  3. 女性化学賞と私の歩み【世界化学年 女性化学賞受賞 特別イベント】
  4. ショウガに含まれる辛味成分
  5. Ugi反応を利用できるアルデヒドアルデヒド・イソニトリル・カルボン酸・アミン
  6. 有機合成化学協会誌2023年9月号:大村天然物・ストロファステロール・免疫調節性分子・ニッケル触媒・カチオン性芳香族化合物
  7. 酵素触媒反応の生成速度を考える―ミカエリス・メンテン機構―
  8. 日本で発展する化学向けAIと量子コンピューターテクノロジー
  9. 低分子ゲル化剤の特性・活用と、ゲル化・増粘の基礎【終了】
  10. エリック・ジェイコブセン Eric N. Jacobsen

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2017年11月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930  

注目情報

最新記事

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

第58回Vシンポ「天然物フィロソフィ2」を開催します!

第58回ケムステVシンポジウムの開催告知をさせて頂きます!今回のVシンポは、コロナ蔓延の年202…

第76回「目指すは生涯現役!ロマンを追い求めて」櫛田 創 助教

第76回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第75回「デジタル技術は化学研究を革新できるのか?」熊田佳菜子 主任研究員

第75回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第74回「理想的な医薬品原薬の製造法を目指して」細谷 昌弘 サブグループ長

第74回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第57回ケムステVシンポ「祝ノーベル化学賞!金属有機構造体–MOF」を開催します!

第57回ケムステVシンポは、北川 進 先生らの2025年ノーベル化学賞受賞を記念して…

櫛田 創 Soh Kushida

櫛田 創(くしだそう)は日本の化学者である。筑波大学 数理物質系 物質工学域・助教。専門は物理化学、…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP