[スポンサーリンク]

ホスト分子

ククルビットウリル Cucurbituril

[スポンサーリンク]

ククルビット[n]ウリル(cucurbit[n]uril, CBn)とは、グリコウリル構造をホルムアルデヒドで連結させることで得られる環状水溶性ホスト分子のことである。nは構成されるグリコウリルモノマーの数を指す。名前はカボチャの学名(cucurbitaceae)に由来する。

合成法および構造的特性

グリコウリルとホルムアルデヒドを酸触媒条件下で縮合させると、CBnの混合物が得られる。連結数nに応じて環サイズは変化する。
CB6は1905年にBehrendによってはじめて合成され[1]、1981年にイリノイ大学のMockらによって構造決定がなされた[2]。環サイズを違えたCB5,7,8はKimらによって報告されている[3]。n = 9のものはこれまでに単離されていない。

グリコウリルの代わりにエチレンウレアを同様に連結し、上半分をカットした構造の分子はヘミククルビット[n]ウリル[4]と呼ばれる。上部ウリル構造をジアルキル化ののち縮合して得られるものはバンブス[n]ウリル[5]と呼ばれる。

ホスト―ゲスト化学への応用

環内部は疎水性分子に適した環境になっている。開口部は電気陰性であるカルボニル基が密集しており、電気陽性部位と強く相互作用する。この現象を活かしたホスト―ゲスト化学が精力的に研究されている[6-8]。

疎水性骨格の両端にアンモニウムカチオンを適切な距離で2つ備える分子が強力に取り込まれる。下記のとおり、アルキル鎖長4~6のα,ω-ジアミンが良く結合する。

●=H(CH2)mNH3+, ▲=+H3N(CH2)mNH3+ CB6との相互作用定数の関係 (b) サイズの比較(論文[7]より引用)

この知見を参考に、フェロセン骨格[9]もしくはジアマンタン骨格[10]にアンモニウム塩を2つ取り付けた化合物が、CB7と極めて強く結合することが見いだされている。結合定数はfM~aMレベルにも達するほどで、自然界が生み出した最強の非共有結合性相互作用であるアビジン-ビオチン系を超越する強さである。

ドラッグデリバリーシステムへの応用

毒性の懸念が少ない生体適合型ホスト分子として、ドラッグデリバリーシステムなどにも用いられている[11]。この目的にはホスト内孔の大きさや、溶解性などの観点からCB7もしくはCB8が良く用いられる。

関連文献

  1. Behrend, R.; Meyer, E.; Rusche, F. Liebig Ann. Chem. 1905, 339, 1. doi:10.1002/jlac.19053390102
  2. Freeman, W. A.; Mock, W. L.; Shih, N.-Y. J. Am. Chem. Soc. 1981, 103, 7367. DOI: 10.1021/ja00414a070
  3. (a) Kim, J.; Jung, I.-S.; Kim, S.-Y.; Lee, E.; Kang, J.-K.; Sakamoto, S.; Yamaguchi, K.; Kim, K. J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 540. DOI: 10.1021/ja993376p (b) Lee, J. W.; Selvapalam, S. N.; Kim, H.-J.; Kim, K. Acc. Chem. Res. 2003, 36, 621. DOI: 10.1021/ar020254k
  4. Miyahara, Y.; Goto, K.; Oka, M.; Inazu, T. Angew. Chem. Int. Ed. 2004, 43, 5019. DOI: 10.1002/anie.200460764
  5. Švec, J.; Nečas, M.; Šindelář, V. Angew. Chem. Int. Ed. 2010, 49, 2378. doi:10.1002/anie.201000420
  6. Review: Lagona, J.; Mukhopadhyay, P.; Chakrabarti, S.; Isaacs, L. Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 4844. DOI: 10.1002/anie.200460675
  7. Rewiew: Assaf, K. I.; Nau, W. M. Chem. Soc. Rev. 2015, 44, 394. DOI: 10.1039/C4CS00273C
  8. Review: Barrow, S. J.; Kasera, S.; Rowland, M. J.; del Barrio, J.; Scherman, O. A. Chem. Rev. 2015, 115, 12320. DOI: 10.1021/acs.chemrev.5b00341
  9. (a) Jeon, W. S.; Moon,K.; Park,, S. Y.; Chun, H.; Ko, Y. H.; Lee, J. Y.; Lee, E. S.: Samal, S.; Selvapalam, N.; Rekharsky, M. V.; Sindelar, V.; Sobransingh, D.; Inoue, Y.; Kaifer, A. E.; Kim, K. J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 12984. DOI: 10.1021/ja052912c (b) Rekharsky, M. V.; Mori, T.; Yang, C.; Ko, Y. H.; Selvapalam, N.; Kim, H.; Sobransingh, D.: Kaifer, A. E.; Liu, S.; Isaacs, L.; Chen, W.; Moghaddam, S.; Gilson, M. K.; Kim, K.; Inoue, Y. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2007, 104, 20737. doi:10.1073/pnas.0706407105
  10. Cao, L.; Šekutor, M.; Zavalij, P. Y.; Mlinarić-Majerski, K.; Glaser, R.; Isaacs, L. Angew. Chem., Int. Ed. 2014, 53, 988. DOI: 10.1002/anie.201309635
  11. Review: Yin, H.; Wang, R. Isr. J. Chem. 2017, DOI: 10.1002/ijch.201700092

関連書籍

[amazonjs asin=”0470512342″ locale=”JP” title=”Supramolecular Chemistry”][amazonjs asin=”9048125812″ locale=”JP” title=”Supramolecular Chemistry: From Biological Inspiration to Biomedical Applications”][amazonjs asin=”0080406106″ locale=”JP” title=”Comprehensive Supramolecular Chemistry: 11-Volume Set”]

関連リンク

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. カルタミン
  2. アスパルテーム /aspartame
  3. イベルメクチン /Ivermectin
  4. トリメチルアルミニウム trimethylalminum
  5. トラネキサム酸 / tranexamic acid
  6. ゲオスミン(geosmin)
  7. みんなおなじみ DMSO が医薬品として承認!
  8. ヘロナミドA Heronamide A

注目情報

ピックアップ記事

  1. 水分解 water-splitting
  2. 有機化学イノベーション: ひらめきと直観をいかにして呼び込むか
  3. フラグメント創薬 Fragment-Based Drug Discovery/Design (FBDD)
  4. 薬物耐性菌を学ぶーChemical Times特集より
  5. 発見が困難なガンを放射性医薬品で可視化することに成功
  6. 「科研費の採択を受けていない研究者」へ研究費進呈?
  7. ACSで無料公開できるかも?論文をオープンにしよう
  8. 祝100周年!ー同位体ー
  9. 中皮腫治療薬を優先審査へ
  10. LEGO ゲーム アプローチ

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2017年11月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930  

注目情報

最新記事

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

第58回Vシンポ「天然物フィロソフィ2」を開催します!

第58回ケムステVシンポジウムの開催告知をさせて頂きます!今回のVシンポは、コロナ蔓延の年202…

第76回「目指すは生涯現役!ロマンを追い求めて」櫛田 創 助教

第76回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第75回「デジタル技術は化学研究を革新できるのか?」熊田佳菜子 主任研究員

第75回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第74回「理想的な医薬品原薬の製造法を目指して」細谷 昌弘 サブグループ長

第74回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第57回ケムステVシンポ「祝ノーベル化学賞!金属有機構造体–MOF」を開催します!

第57回ケムステVシンポは、北川 進 先生らの2025年ノーベル化学賞受賞を記念して…

櫛田 創 Soh Kushida

櫛田 創(くしだそう)は日本の化学者である。筑波大学 数理物質系 物質工学域・助教。専門は物理化学、…

細谷 昌弘 Masahiro HOSOYA

細谷 昌弘(ほそや まさひろ, 19xx年xx月xx日-)は、日本の創薬科学者である。塩野義製薬株式…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP