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化学者のつぶやき

乾燥剤の種類と合成化学での利用法

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今回は溶液や化合物の乾燥と乾燥剤などについて話をしようかと思います。書いた後になってかなり基本的な話になりすぎたのに気づきました。もしかするとたくさんの実験をしてこられたM2以上の方はあまり見る価値が無いかもしれませんが、気晴らし程度に読んでいただけると幸いです。

抽出後のBrine

抽出を行った後はBrineで振る。有機化学の基本ですが、洗う器具の数も増えるし、あまりやりたくない、一見無駄そうな作業ですよね。確かにトルエンやヘキサン、クロロホルムなど、水を含みにくい溶媒で少量の抽出を行った場合は筆者もさぼって硫酸ナトリウムなどでそのまま乾燥としちゃったりしています。一方で、溶媒量が多くなった場合や、比較的水に親和性がある抽出溶媒(THF混媒やAcOEtなど)を用いて抽出操作を行った場合は、有機溶媒層にもかなりたくさんの水が混入しており、必ずBrineで振るべきです。最悪、抽出してまとめた有機層に粒状のNaClを入れて、振盪、デカンテーションしてから、乾燥するなどすると、乾燥剤の量を減らすことが可能ですので、面倒でも最低限の水分の除去はやっておきましょう。(Brineには、HClで反応を停止後、抽出したときに有機溶媒中に混入したHClの濃度を下げるという効果もあると聞いたことがあるので、そういう意味でも重要かと思われます。)

MgSO4 or Na2SO4?

MgSO4は基本的に手っ取り早く乾燥が可能です。粒径が細かい(恐らく試薬会社とバッチによる?)のと、化合物によっては吸着される(噂の域を出ず、筆者が真偽を確かめたわけではないのでご注意、Twitterなどではポリオールやらリン酸などが吸着されたという話が出ています)ので、筆者はあまり利用しませんが、便利だと思います。

Na2SO4も分液後に頻繁に利用される試薬の一つです。MgSO4に比べて、乾燥には時間がかかりますが、基本的にどのような化合物が溶液に含まれていようが簡便に水分を除去できます。乾燥にかける時間は人によってまちまちなようですが、DCMの乾燥には10分程度、AcOEtには30分から1時間程度なようです。(筆者は短気なので基本的にAcOEtやTHF混媒以外の溶媒は30秒、長くてもせいぜい3分で、ろ過してしまっていますが、特に問題になったことは無いです。。。

高真空

高真空でOver Nightはよくやる手かと思います。ただ、この場合、化合物の沸点が低く、ポンプに吸い込まれてしまいました見たいな事態にはならないように注意してくださいね。

共沸

共沸は多くの有機反応で行われる手法かと思います。濃縮したサンプルに、PhMeやPhHを入れて、2-3回ロータリーエバポレーターで濃縮を繰り返します。(筆者は大抵、残存水分量の量が知れているのでsolvent grade若しくはAnalytical gradeのPhMeを使っています。)これにより、大抵の水分の除去が可能です。また、一部の水和物の除去も可能です。酸素のコンタミや水蒸気のコンタミが気になる場合はロータリーエバポレーターにN2ラインやバルーンを接続、解放時に空気の代わりにそれらのガスで置換することが可能です。

また、共沸ではDMFやPyridineなどの高沸点溶媒の除去も同様の溶媒(PhMeなど)を使うことで可能です。(ピリジンに関してはその他の溶媒の方が適切という指摘をいただきました。詳しくは)

ディーンスターク

脱水縮合反応を行うときによく利用されるのがDean Stark。特に大量スケールでの脱水反応では必須のガラス器具で、反応の平衡を目的物側に偏らせるのに必要です。気を付けるべきところは、適切なサイズのものを使うことで溶媒蒸気がしっかり冷却管で冷却されるようにすること、溶媒だめにあらかじめ反応溶媒を入れておくと反応フラスコ内の溶媒量が減らずに済むということ、CHCl3のような水より重たい溶媒を使う際はreverse型のDean Starkを使わないといけないこと、少量ーグラムスケールでの反応ではペレット型のモレキュラーシーブと滴下漏斗(やそれに準ずるガラス器具)で水の除去を行う必要があることなどがありますが、それさえ守ればよい脱水剤となり得ます。Dean Starkが利用できないような、さらに小スケールの場合は、反応系中に粉状のモレキュラーシーブを入れて回してやりましょう。

モレキュラーシーブ

モレキュラーシーブは脱水のために反応に入れたり、ディーンスタークの代替えとして、滴下漏斗に詰めたりすることで脱水に利用されます。また、反応により生成する水を除去する必要は無くても、単純に小スケールの反応溶液を脱水条件に保つために、予め乾燥したモレキュラーシーブを投入したりもします(例、グリコシル化)。モレキュラーシーブと言ってもかなりたくさんの種類があり、今回は基本的な話にとどめ、以降は粉末と粒状どっちを使うかという話にしぼって話をしようかと思います。

粉状のモレキュラーシーブはかなり水蒸気を吸いやすいのに加え、粒径が細かいので反応に用いた場合のろ過にはセライトろ過が必要なので、扱いがしにくい部分もありますが、小さな撹拌子でも確実に撹拌が可能で、小~中スケールの反応に直接入れて用いるには便利です(粉状のMSは反応後セライトろ過しないと、恐らくいろいろなところに詰まります。なので、いろいろな作業をする前にセライトろ過することをお勧めします。)。

一方で、溶媒の乾燥や保存などの用途には粒状が便利です。最近では市販の蒸留溶媒や溶媒生成装置がかなり一般化したのでTHFやEt2Oのケチル蒸留のために蒸留塔を立てている研究室は少ないかと思いますが、そういった蒸留をする際にも溶媒をあらかじめモレキュラーシーブであらかじめ乾燥しておくと、ケチルが駄目になってしまうのを遅らせることが可能です。蒸留塔を建てるのはかなり面倒くさいので、ケチルが死んでしまうのを防止できるとかなり実験が楽です。また、蒸留した溶媒を保存するのにもモレキュラーシーブを入れておくとより安心です。

その他、モレキュラーシーブに関しては過去にもケムステでこちら(乾燥剤の脱水能は?)にも記事を書いていますので、もっと深く知りたい人は読んでみてくださいね。

その他

セライト: 筆者は全く知らなかったのですが、一応Celiteでも少量の水は除去可能なようです。

Gakushi

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東京の大学で修士を修了後、インターンを挟み、スイスで博士課程の学生として働いていました。現在オーストリアでポスドクをしています。博士号は取れたものの、ハンドルネームは変えられないようなので、今後もGakushiで通します。

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