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マイクロ波化学のカーボンニュートラルや循環型社会におけるアプリケーションや事業状況

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当社のマイクロ波プラットフォーム技術および工業化知見を活用し、アクリル樹脂の分解に必要なエネルギーを化石資源ではなく電気由来のマイクロ波に代替したプロセスにすることで、従来法に比べて設備の小型化や安全性向上、省エネ化などを実現させることが可能です。

これら技術の実証を進めるため、当社、三菱ケミカル株式会社及び三菱ケミカルメタクリレーツ株式会社は、2021年6月完成を目処に当社大阪事業所内に実証設備を建設することとしました。三菱ケミカル株式会社では、2024年の稼働を視野にアクリル樹脂のリサイクル設備の建設に向けた検討を本格化することとしており、当社も引き続き技術協力を行ってまいります。

(引用:マイクロ波化学プレスリリース5月24日)

 

2021年5月18日、カーボンニュートラルに向けた取組みを“C NEUTRAL 2050 design”(略称 ”CN 2050 design”)として推進していくことを決定しました。

CO2排出削減策として製造プロセスの電化がカギとされているものの、大型化や効率の観点から課題が多く、現段階では、具体的なソリューションが確立されていません。当社は、再生可能エネルギーによる「電化」と「マイクロ波プロセス」の2つの要素を掛け合わせて製造プロセスを構築することで、石油・石炭など化石燃料由来のエネルギーを利⽤する従来プロセスと⽐較して90%以上のCO2排出削減を可能とします。

(引用:マイクロ波化学プレスリリース6月2日)

1. はじめに

昨年10月に菅首相により2050年カーボンニュートラル宣言がなされて以降、日本国内のさまざまな企業、自治体が対策を急いでいる。本稿では、カーボンニュートラル時代の解決策のひとつとして、マイクロ波技術の原理と応用事例を紹介する。

 

化学産業で行われている多くの単位操作(特に合成反応、焼成、乾燥など)では、大量の熱が化石燃料の燃焼によって作られ、外部から操作対象の系に供給されてきた。この基本的な方式は、100年前から大きく変わらなかったが、日本政府が2050年に温室効果ガスの排出を実質ゼロとすることを表明(=カーボンニュートラル宣言)して以降、状況は一変した。今や、至るところで電気の利用(=電化)が検討されている。

しかし、電化が化学産業におけるカーボンニュートラル実現に向けたカギとされているにもかかわらず、大型化やエネルギー効率の観点から課題が多いため、具体的なソリューションはいまだ確立されていない。当社は、再生可能エネルギーによる「電化」と「マイクロ波プロセス」の2つの要素を掛け合わせた製造プロセスを構築することで、化石燃料由来のエネルギーを利⽤した従来プロセスから90%以上のCO2(温室効果ガスの一種)排出削減を目指している。

2. マイクロ波プロセスについて

電気を利用する加熱技術としては、マイクロ波加熱を始め、抵抗加熱、赤外加熱、レーザー加熱などがある。マイクロ波加熱以外は結果的に従来と同じ伝熱による加熱技術であり、あるいは汎用化が難しい。

マイクロ波は約 1 mm ~ 1 m (周波数300 MHz ~ 300 GHz) のの波長をもつ電磁波の一つで、電子レンジ、レーダー、携帯電話など広く利用されている。電気から80〜90%の効率でマイクロ波に変換することが可能で、マイクロ波のもつエネルギーは90%程度の効率で直接対象物に伝達される。また、マイクロ波加熱は、(1)急速加熱、(2)内部加熱、(3)選択加熱など、従来の伝熱方式にはない特長を有する。さらに、触媒などの特定物質を局所的に加熱できるため、反応効率を数倍に高めることも可能である。反応に必要なエネルギーを必要な反応場に必要なだけ供給すればよいので、反応温度の低温化、装置のコンパクト化、製品収率向上も実現可能である。

 

3. マイクロ波プロセスによる省エネとCO2排出削減

下図に示すのは、従来加熱とマイクロ波加熱とで排出されるCO2排出量を比較したものである。従来法は、LNGなど化石資源からスチームなどの熱媒体を発生させるものである。対して、マイクロ波加熱法は、再生可能エネルギーから電気を生み、これをマイクロ波に変換する。

再生可能エネルギーからマイクロ波への変換は、投入エネルギーベースのCO2排出量において、LNGからスチームを作る場合よりも小さく、エネルギー伝達効率も高い。さらに、反応効率そのものが1.5〜10倍程度となることも多いため、トータルでのCO2排出量は従来法の1/10以下となる(図1)。

例えば、当社が2014年に操業開始した脂肪酸エステルのマイクロ波化学プラント(図2、処理能力:3,200トン/年)においては、触媒の選択加熱による反応低温化と1/10の反応短時間化を達成した。その結果、従来の化石燃料を用いる加熱方法に比べ、エネルギー使用量は約1/4にまで低減した。再生可能エネルギーを用いた場合、従来法と比較して94%のCO2排出削減が可能となる。

図1 従来加熱法とマイクロ波加熱法とでのCO2排出量の比較

図2 世界初のマイクロ波化学プラント(当社大阪事業所内)

 

4. アプリケーション

冒頭で述べたように、化学産業では多くの単位操作が、化石燃料の燃焼によって得られる熱の供給に依存してきた。しかし、各企業、各製品、各業界でカーボンニュートラルに取り組む必要に迫られる中、まずはじめに検討対象となるのは、エネルギー消費的な製造プロセス、すなわち高温の反応群であろう。マイクロ波加熱は、~200℃付近の有機合成反応だけでなく、500℃、1000℃を超えるような高温のプロセスにも適用することができる。

そこで、これからのカーボンニュートラル時代において、高温反応系でのマイクロ波加熱の優位性について以下に述べていく。

主として熱媒油や溶融塩が加熱媒体として使われる温度域では、潜熱を利用できないので総括伝熱係数が小さくなりがちである。一方、この温度域で蒸気の凝縮潜熱を利用しようとすると装置が高圧になり、凝縮水の顕熱ロスも大きいため不経済である。そこで,マイクロ波による「高速加熱」によって,熱媒体不要のシンプルな装置で反応系構築が可能であることを示す。

400℃の熱媒油で対象を350℃に加熱する例として図6のようなジャケット付き反応釜で内容液を加熱する場合を考える。総括伝熱係数U (W/m2K),伝熱面積A (m2) ,熱源と加熱対象の温度差ΔT  (K)を用いると,加熱対象への伝熱量Q (W) は,

Q = U A ΔT                                   (2)

比較的高粘度の液同士の熱交換を想定し,U値として150 W/m2Kを仮定すると,単位体積あたり伝熱量Q/V (W/m3)は式2の両辺をVで割って,

Q/V = UAΔT / V = 40,000 W/ m3   (3)

である。紙面の都合上詳細は省略するが、マイクロ波加熱の場合の単位体積あたりの発熱量,すなわち式(1)のP (W/m3)はこのQ/V (W/m3)よりはるかに大きい。例として1 Lの液に500 Wのマイクロ波電力を吸収させるときP = 500 W / 0.001 m3 = 500,000 W/m3なので10倍以上の速度で加熱できる可能性がある。

図3 ジャケット加熱のQ/V(W/m3)

 

マイクロ波加熱では対象である液自身が発熱体(ヒーター)の役割を担うことから,高粘性液や熱劣化しやすい液など、U, A, ΔTのいずれかあるは複数が制約となって装置が大きくなってしまう(Q/Vを大きくできない)ケースに適用することで、装置を驚くほど小型化できる。このマイクロ波加熱の長所は,スケールアップして体積に対する伝熱面積が小さくなるほど顕著になり、短期間でスタートアップ、シャットダウンを繰り返す場合は装置自体を温めなくて良いという利点も活かせる。以上は、マイクロ波の「高速加熱」特性を生かした適用例と言える。

 

1) プラスチック熱分解/解重合

今日、廃プラスチックリサイクルの方法は完全には確立されていない。熱分解油化法、解重合法等、様々な研究や実証試験がなされてきたが、ケミカルリサイクルの普及率は国内全体の処理量のわずか4%程度である。当社では、プラスチック分解によるガス化について精力的に取り組んでおり、外部加熱方式の現行技術における課題解決を試みている。

プラスチック熱分解反応の多くは、数百℃程度の高い温度を必要とする。それだけでなく、リサイクル原料(廃プラスチック)は嵩高く、装置伝面を通しての加熱は効率が悪いため、装置が大掛かりになったり、伝面温度を熱分解反応温度以上に高く保たなければならないといった課題が発生する。

それに対して、マイクロ波加熱は、物質を選択的に直接加熱できる(図4)。先に述べたように伝面を通した加熱に依存せず、装置全体を外から加熱する必要がないので、装置小型化や伝面温度の低減による反応収率向上や安全性の向上が期待できる。また、分解反応場へ直接・迅速に、必要なエネルギーを供給できるため、短時間での処理も可能である。さらに、加熱ムラや過加熱等に起因する低収率や低純度といった問題を解決することができる。これらのメリットはいずれも、リサイクルコストの縮小に貢献すると考えられる。

図4 従来法とマイクロ波法の比較図

 

以下に述べるのは、当社の少量スケール実験にてポリエチレン(PE)を分解したものである。短時間でほぼ全量のPEが分解され、分解生成物をガスとして回収した。分解反応場はマイクロ波からフィラーへのエネルギー伝達により300℃以上に保たれながらも、その周囲のヘッドスペースガス等の温度は300℃以下である。分解生成物は常温常圧で気体状態を保ち、炭化水素が主成分となっているエチレンモノマーだが、通常加熱条件でみられるような、異なる炭素数の炭化水素成分(例えばC6~C20炭化水素)の含有量はわずかであった(図5)。すなわち、マイクロ波によるPE熱分解により、高収率でエチレンを得られることを確認した。従来の通常加熱法では、プラスチック原料や分解によって生ずるガスの熱履歴が悪化することで、このようなC6~C20といった炭化水素成分が観測され、精製などの後工程負荷を増す原因となっている。したがって、マイクロ波熱分解で高収率のプロセスを実現できれば、分解工程そのものの経済性だけでなく、その後段のプロセスへの寄与も生まれうる。

図5 PE分解ガスのGC/MS分析結果

 

現在当社はNEDOからの助成を受けつつ、数kgの原料を処理するための少量ベンチ装置から1トン/日レベルの処理が可能な実証設備の立ち上げまでを既に計画しており、2022年に導入完了予定である。最終的には1万トン/年レベル以上へのスケールアップを目指している。

また、2021年5月、当社と三菱ケミカル株式会社は、PMMA(ポリメチルメタクリレーツ)のケミカルリサイクル事業化に向け、数百トン/年規模の実証プラントを建設し、事業化に向けた実証試験を進めることを発表した(図6)。アクリル樹脂は優れた透明性・耐光性を持つプラスチック製品で、自動車のランプカバー、看板、水族館の水槽、塗料、建材などに幅広く用いられており、その世界需要は300万トンを超える。本プロセスによって製造されたMMA(メチルメタクリレート)およびそれを原料として製造されたアクリル樹脂は、通常品と同水準の性能を保つとともに、製造工程でのCO2排出量を、石化資源を原料とした従来品よりも70%以上削減できると見込んでおり、環境負荷低減に大いに貢献することが可能である。

図6 実証プラントイメージ図

2) 気固反応

石油化学において、ガスと固体触媒を接触させて反応する気固反応は重要な単位操作である。従来の加熱法のように加熱対象物より温度が高い熱源を別途用意する必要がないという点で、マイクロ波加熱は高温系に対しても優位性を発揮する。マイクロ波加熱を適用する反応器形式としては、固定層に限らず、移動層や流動層の触媒反応器でもよいが、とにかく反応器中(“その場”)で、固体触媒を直接加熱できるという特徴を生かすと良い。そうすることで、例えば、断熱反応器において入口ガスを過剰に予熱する必要がなくなる可能性がある。また、等温反応器においては、熱交換のための伝熱面積で縛られていた反応器設計の制約を取り払い、全く新しい形のコンパクトな装置を実現できる可能性がある。

石油精製や石油化学プラントの高温等温反応器の例として,管式加熱炉があげられる。この反応器での伝熱は加熱炉輻射部の輻射伝熱,管金属部の熱伝導,管内壁からガスへの対流伝熱,ガスから触媒への対流伝熱というステップを含み、この各ステップの一番遅い段階が全体の伝熱速度を決める。したがって高い熱伝達率を達成するための装置設計上の制約が非常に多い。輻射部の熱流束はエチレン分解炉、スチームリフォーマーなどで58,000 W/m2以上に達する場合もあるものの、装置体積あたりの伝熱面積は決して大きくない。下図7に示すように、マイクロ波加熱により触媒自体を発熱体とすることで、加熱炉の輻射部の空間が不要になり、コンパクトで最高温度の低い装置温度を実現できる。

図7 気固触媒反応系における温度分布の違い

 

3) 焼成

最後に、マイクロ波焼成について紹介する。物質選択的な加熱を得意とするマイクロ波焼成においては、対象物質温度>>雰囲気温度の環境を作ることが可能である。外部雰囲気も含めて全体を加熱する通常加熱とは、この点で大きく異なる。さらに、急速昇温も可能であるため、製造時間が短縮される効果も見込める。結果として、大幅な省エネやCO2排出削減が可能になるだろう。

下図に示すのは、断熱材で囲われた金属酸化物を、マイクロ波によって加熱した実験の例である。この場合、マイクロ波のエネルギーが伝達されるのは、外部雰囲気でも断熱材でもなく、金属酸化物である。系内に供給されたエネルギーの多くが、金属酸化物の加熱に使われるため、急速な昇温やバルク温度を低く抑えながらの選択加熱などが可能となる。

5.おわりに

本稿では、これからのカーボンニュートラル時代におけるマイクロ波の使い方について紹介した。再生可能エネルギーによる「電化」と「マイクロ波プロセス」の2つの要素を掛け合わせた製造プロセスは、石油・石炭など化石燃料由来のエネルギーを利⽤する従来プロセスと⽐較して90%以上のCO2排出削減を可能とする。

今後、化学産業全体にマイクロ波プロセスを導入するための技術力をさらに強化し、企業とのパートナーシップを通じて持続可能な社会の実現に向けて邁進する。

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注:本記事はマイクロ波化学株式会社からの寄稿です

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Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

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