[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

研究室でDIY!ELSD検出器を複数のLCシステムで使えるようにした話

[スポンサーリンク]

 

先日のBiotage Selekt + ELSDの記事でちらっと紹介した、ELSD検出器をSelektとHPLCシステムに接続しましたので、詳細についてご紹介します!
※アナログシグナルケーブルを切断して繋ぎ変えていますので、ある程度の慣れは必要です。他の検出器などにも応用できますが、やってみたい場合はある程度の知識と技能が必要ですので、ご注意下さい。

DIYをするに至った動機

Selektは最大圧力3 MPaですので、5ミクロンのシリカゲルHPLCカラムは圧力上昇のため、現実的に運用できませんでした。また、HILICタイプのHPLCカラムを購入したものの、UV吸収がない化合物ばかり分析の対象になり、せっかく購入したHILICカラムが運用できないでいました。そこで、BiotageのELSD A120をSelektのみならずHPLCでも運用できるように、流路とシグナルのスイッチシステムを構築しました。せっかく購入した高価なELSD検出器ですので、Selektだけに使うだけではもったいない!というのも理由の一つ。
そもそも、業者はやってくれないの?ということですが、アナログ信号ケーブルをぶった切る保証外の行為が必要であるため、DIYする他ありませんでした。

全体図

ELSD検出器をSelektとHPLCの間に置き、流路のセレクター(セレクターバルブ)とアナログ信号のセレクター(シグナルセレクター)をELSDのインラインとモニターの近くに設置しました。

配管図

以下、具体的な配管図になります。
Selekt側の流路は以前の記事とほとんど同じです。異なる点は、ELSD検出器の前にセレクターバルブを配置した点です。ELSDからのアナログ信号アウトプット端子は1つしかないため、スイッチを経由してSelekt本体に繋ぎます。
HPLC側にもT字の分岐を入れ、UVディテクターを経由してドレインに向かう流路とELSD検出器に入る流路をスプリットします。この時、UVディテクターのセルが極めて細いため、異なる太さのpeekチューブを利用して配管抵抗を調製するだけでは流量比が十分に調製できません。そこで、レギュレーターが活躍します。レギュレーターは実際はセレクターバルブがついている金属板の浦に設置してあり、適切な流量比になるように位置を調整しておきます。また、配管抵抗をレギュレーターによって調整すると、ELSD検出のタイミングとUV検出のタイミングが大きくずれてしまうので、UV検出を遅らせるためのループが必要です。HPLCのラインはインジェクター前がφ0.75 mmのSUS tube、インジェクターの後はすべてpeek tubeで構成されており、ELSDに向かうスプリットラインのみφ0.25 mmのpeek tubeです。

以下、セレクターバルブの背面図です。レギュレーターとセレクターバルブが金属板に設置されています。セレクターバルブの左に刺さっているチューブがSelektから流入するラインで、右側がHPLCから流入するライン、真ん中がELSDに向かうラインです。

電気系統のDIY

このパートが化学者には難しい部分かと思います。以下にHPLC用のアナログ信号ケーブルの写真を載せます。ELSD検出器からのアナログ信号アウトプット端子は3穴構成になっていて、プラス、マイナス、アースの3つの線に繋がっています。プラス、マイナスのアナログ信号を送る線は赤と黒の絶縁チューブで被覆されており、さらに2本の線の周りには片面青、片面銀の絶縁膜(青側が絶縁体、銀側は導電体)で覆われていました。アースとまとめて、灰色の絶縁チューブに入った状態で1本のケーブルとしてまとめられています。青銀の膜を剥がし、赤と黒の線を切断した図が下。これらをスイッチにはんだ付けしていきます。

HPLC用アナログ信号ケーブル

 

今回採用したスイッチはモノタロウで購入したLB3S-2LT2という2ノッチ型2cスイッチとなります(左図)。これは、2本1組のケーブル2組をスイッチングできるスイッチとなります。裏面図中(中央図)、一番下のC11, C21と書いてある2本の端子がインプット、スイッチを①側に倒すと下と真ん中が繋がり、②に倒すと下と上が繋がります。間違いのないように、テスターで通電を確認しておきましょう(右図)。
セレクタースイッチについては、こちらの外部記事を参考に勉強致しました。

LB3S-2LT2スイッチ

 

ELSDからのアナログ信号の赤・黒の線の被覆を1 cmほど剥がし、下(C11, C21)に接続。赤黒の向きは問わず。次に、HPLC側のSmart ADC lite(日本分光)用のコネクターに繋がる赤・黒の線を真ん中(NO14, NO24)に接続。この時赤と赤、黒と黒が同じ列に来るようにする。最後に、Selektに繋がるケーブルはアースも含め3本のケーブルを切断して赤・黒の線を被覆し、上(NC12, NC22)に接続する。アースの線がハンダ付けした部位に触れないようにまとめ上げ、念の為アースの線にもハンダを乗せておく。それぞれはんだ付けした箇所を絶縁テープや熱で縮むケーブル保護チューブで保護して完成。
(4本がビニールテープで、2本がケーブル保護チューブになっていますが、4本はヘタクソで保護チューブを被せる前に縮んでしまったためビニールテープで妥協しました。もう慣れたのでできます。)

スイッチ完成図

スイッチを含むケーブルの全体図

 

最後にSelekt本体の上に両面テープで固定して、スイッチを操作しやすい位置に配置しました。右側にHPLC、左側にSelektを置いてあるので、右に倒した時にHPLC、左に倒した時にSelektに繋がるようにしました。
最初に仮設置して、はんだ付けする位置を決めておくのを忘れないように!!

スイッチ配置図

 

以上、少々かなりマニアックなDIYでしたが、検出器は基本的にアナログ信号を送るだけの極めてシンプルな配線でできているため、案外簡単に配線工事ができます。今使っている検出器を他の機械用にリユースしたい時や、今回のように併用したい場合役に立つテクニックです。
また、本記事をご覧になられているクロマト会社や電気技師さん?ならもう少しきれいなモノを作れると思います(笑

ご興味ある方はぜひご連絡下さい。

謝辞

今回のDIYにおいて、アナログ信号ケーブルおよびpeek tubeをご提供頂いたBiotage様にお礼申し上げます。

DIYに使用した工具や購入した部品

関連記事

Macy

投稿者の記事一覧

有機合成を専門とする教員。将来取り組む研究分野を探し求める「なんでも屋」。若いうちに色々なケミストリーに触れようと邁進中。

関連記事

  1. アルコールを空気で酸化する!
  2. 有機合成化学協会誌2019年9月号:炭素–水素結合ケイ素化・脱フ…
  3. インドの化学ってどうよ
  4. 組曲『ノーベル化学賞』
  5. どっちをつかう?:adequateとappropriate
  6. 試薬会社にみるノーベル化学賞2010
  7. 電子ノートSignals Notebookを紹介します!④
  8. アミジルラジカルで遠隔位C(sp3)-H結合を切断する

注目情報

ピックアップ記事

  1. 第15回 有機合成化学者からNature誌編集者へ − Andrew Mitchinson博士
  2. 有賀先生に質問しよう!!【第29回ケムステVシンポ特別企画】
  3. 【クラリベイトウェブセミナー】 新リリース! 今までの研究開発にイノベーションをもたらす新しいソリューション Clarivate Chemistry Researchのご紹介 ー AI技術を搭載したシンプルかつインテリジェントな特許・学術文献情報の活用ツール
  4. ハンチュ ジヒドロピリジン合成  Hantzsch Dihydropyridine Synthesis
  5. Pdナノ粒子触媒による1,3-ジエン化合物の酸化的アミノ化反応の開発
  6. 接着系材料におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用 -条件最適化編-
  7. 第66回「物質の宇宙:未知の化合物を追い求めて」山本 隆文 准教授
  8. 【書評】続続 実験を安全に行うために –失敗事例集–
  9. ピーターソンオレフィン化 Peterson Olefination
  10. セレンディピティ:思いがけない発見・発明のドラマ

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2023年2月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728  

注目情報

最新記事

アザボリンはニ度異性化するっ!

1,2-アザボリンの光異性化により、ホウ素・窒素原子を含むベンズバレンの合成が達成された。本異性化は…

マティアス・クリストマン Mathias Christmann

マティアス・クリストマン(Mathias Christmann, 1972年10…

ケムステイブニングミキサー2025に参加しよう!

化学の研究者が1年に一度、一斉に集まる日本化学会春季年会。第105回となる今年は、3月26日(水…

有機合成化学協会誌2025年1月号:完全キャップ化メッセンジャーRNA・COVID-19経口治療薬・発光機能分子・感圧化学センサー・キュバンScaffold Editing

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年1月号がオンライン公開されています。…

配位子が酸化??触媒サイクルに参加!!

C(sp3)–Hヒドロキシ化に効果的に働く、ヘテロレプティックなルテニウム(II)触媒が報告された。…

精密質量計算の盲点:不正確なデータ提出を防ぐために

ご存じの通り、近年では化学の世界でもデータ駆動アプローチが重要視されています。高精度質量分析(HRM…

第71回「分子制御で楽しく固体化学を開拓する」林正太郎教授

第71回目の研究者インタビューです! 今回は第51回ケムステVシンポ「光化学最前線2025」の講演者…

第70回「ケイ素はなぜ生体組織に必要なのか?」城﨑由紀准教授

第70回目の研究者インタビューです! 今回は第52回ケムステVシンポ「生体関連セラミックス科学が切り…

第69回「見えないものを見えるようにする」野々山貴行准教授

第69回目の研究者インタビューです! 今回は第52回ケムステVシンポ「生体関連セラミックス科学が切り…

第68回「表面・界面の科学からバイオセラミックスの未来に輝きを」多賀谷 基博 准教授

第68回目の研究者インタビューです! 今回は第52回ケムステVシンポ「生体関連セラミックス科学が切り…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP