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GHS(化学品の分類および表示に関する世界調和システム)

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GHS (Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals) とは化学品の危険有害性(ハザード)ごとに分類基準及びラベルや安全データシートの内容を調和させ、世界的に統一されたルールとして提供するもの。

GHSの意義と歴史

化学品は産業の中で重要な材料であり、また人々の生活の中でも利便性を高めてくれるものでもあり必要不可欠なものですが、外見だけではそれにどんな危険性があるのか分からず、ラベルや添付書類などでその危険性を明示されて初めて正しい取り扱い方を認識できます。そのため各国・地域の中では統一の基準で化学品の危険性を判断できるような手続き・ルールを制定し普及に努めてきました。しかしながら、各国のルールや表示はバラバラであり同じ化学物質であるのに異なる情報を表示している場合まであります。また化学物質に関するルールを持っていない国もあります。

化学品は世界的に流通している中、国際的に調和された化学物質の分類及び表示方法が必要であると認識されるようになり、持続可能な開発に関する世界首脳サミットは2002年9月4日にヨハネスブルグで採択した行動計画において、2008年までにGHSという新しいシステムを完全に実施することを目指すことになりました。そして2003年にGHSの最初のバージョンが出され、年々改訂を重ね2021年には改訂第9版が公開されました。

ヨーロッパで流通するデオドラントスプレーに表示されているGHSピクトグラム

日本でもこの流れを受けてGHSに基づいたJIS規格が制定されていて、GHSに則った化学品の危険性の明示が促進されています。例えば、化学物質等安全データシートについて平成23年度までは一般的にMSDS (Material Safety Data Sheet)と呼んでいましたが、GHSではSDS(Safety Data Sheet)と定義されているため、SDSという名称に各所での呼び名が統一されています。

  • JIS Z7252:2019 GHSに基づく化学物質等の分類方法
  • JIS Z7253:2019 GHSに基づく化学品の危険有害性情報の伝達方法-ラベル、作業場内の表示及び安全データシート(SDS)

GHSの内容

GHSの内容を示した国連GHS文書は4部と附属書で構成されています。

  1. 物理化学的危険性
  2. 健康に対する有害性
  3. 環境に対する有害性

序には、GHS制定の目的から、範囲、制定に至るまでの作業過程といったGHSそのものについてから表示方法やSDSといった実務的な内容までをカバーしています。

GHSの範囲について、

(a) 物質及び混合物を、健康、環境、および物理化学的危険有害性に応じて分類するために調和された判定基準;および

(b) ラベル及び安全データシートの要求事項を含む、調和された危険有害性に関する情報の伝達に関する事項

と定義されています。これはまさに、化学品の種々のリスクをラベルやSDSに記述し、リスクが高い場合にはイラスト(ピクトグラム)を使って注意していることを指します。

またGHSの対象者は、消費者、労働者、輸送担当者、緊急時対応者が含まれるとされており、製造現場で使用する人だけでなく、それを運ぶ人や緊急時に対応する可能性がある人、消費する人にもGHSに準じた内容が周知されるべきとなっています。一方、安全のためなら何でもすべきというわけではなく、適切な経済活動のために営業秘密情報についても言及されています。その中で、供給者は、必要に応じて情報を所轄官庁に提供し、所轄官庁は、情報の機密性を保護しながら安全を守るようなアクションをとるべきとされています。

実務内容:有害危険性シンボル(ピクトグラム)

リスクがある化学品について、取り扱いに注意を払うためのシンボルが定められています。

ピクトグラムの名称

輸送については、国連モデル規則により細かく分類された配色を使用すべきとなっています。

国連モデル規則でのガスボンベの表し方、GHSのルールではピクトグラムの表示にならないエアゾールでも国連モデル規則ではこのラベルが必要になる場合もある。

興味深い点は、小さな包装のラベルや作業場用の表示についても言及されている点で、現実に即したGHSのラベルの運用方法のアドバイスがあります。

GHSラベルソフトの紹介

実務内容:安全データシート

安全データシートについては、掲載すべき情報とその順番が下のように規定されています。

  1. 物質または混合物および会社情報
  2. 危険有害性の要約
  3. 組成および成分情報
  4. 応急措置
  5. 火災時の措置
  6. 漏出時の措置
  7. 取り扱い及び保管上の注意
  8. ばく露および保管上の注意
  9. 物理的および化学的性質
  10. 安定性及び反応性
  11. 有害性情報
  12. 環境影響情報
  13. 廃棄上の注意
  14. 輸送上の注意
  15. 適用法令
  16. その他の情報

各項目における内容までも規定されており、緊急時の電話番号や物理的・化学的物性、国連番号などの項目は必須となっています。

ここまでが第一部の序に書かれている内容です。以後の章ではそれぞれの危険性に関して危険性の判断基準が解説されていますが、リスク評価の基本的なアプローチは、危険有害性×ばく露=リスクで定義されています。

リスク評価:物理化学的危険性

第2部では爆発性や可燃性、腐食性といったリスクについて解説しています。基礎的な物性や安定性試験の結果に基づいてチャートを進んでいくと分類されるグループが判明します。グループによっては、高圧ガスならば、ガスボンベ、可燃性があるものは、、酸化性があるものは、円上の炎、そして腐食性のものは腐食性のピクトグラムを示すルールになっています。

リスク評価:健康に対する有害性

第3部では、人体に影響があるあらゆる毒性について解説しています。毒性試験の結果に基づいてチャートを進んでいくと分類されるグループが判明しますが、毒性試験の特性を加味してか複雑なチャートになっています。急性毒性が高いとどくろ、腐食性で腐食性、呼吸器または皮膚感作性、発がん性、生殖毒性、特定標的臓器毒性、誤えん有害性があると健康有害性のピクトグラムを示すことになります。またこの4つに分類されるほどの有害性は高くないが、少しでもリスクがある場合には警告として感嘆符を付けるルールになっています。

リスク評価:環境に対する有害性

第4部では、植物や魚といった環境に対する影響について解説しています。水生環境有害性は、毒性試験と分解性試験などに基づいてチャートを進んでいくと環境分類されるグループが判明し、リスクが高い化学品に関して環境のピクトグラムをつけるルールになっています。オゾン層有害性は、モントリオール議定書の付属書に列記されている成分が0.1%以上で少なくとも一つ含まれると警告として感嘆符をつけることになっています。

付属書

付属書には、本編の内容をより深く取り扱っており、国連モデル規則とGHSとの対比表やHコード、Pコードの一覧などが盛り込まれています。付属書7では、GHSラベル要素の配置例が図で示されており、細いビンなどには、紙をアコーディオンスタイルで折りたたみ有害情報を示すようアドバイスされています。

臭素のアンプル、ビンが小さすぎるのでラベルが線で貼り付けてあり両面に危険性が記載されている(引用:富士フイルム和光純薬株式会社

現在、多くの会社が発行しているSDSや試薬のラベルにはこのGHSのルールに則って作られており、洗剤などの一般家庭で使用する化学品にもピクトグラムが示されています。身の回りの物は安全で工業品は危険というわけではなく、身の回りの物にもリスクが高い化学品は存在し、それらを正しく使う必要があることを周知されるためにもこのGHS表記が広まってほしいと思います。

レギュラーガソリンのSDSに記載されているピクトグラム、ガソリンスタンドにも車にもGHSに基づいた危険性の表示はないと思う。仮に表示をしたらガソリンの危険性が良く伝わると思うのだが。。。

関連書籍

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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