[スポンサーリンク]

化学一般

【書評】有機化学のための量子化学計算入門

[スポンサーリンク]

痒い所に手が届く科学書に定評のある裳華房さんより 2022 年 6 月に刊行された「有機化学のための量子化学計算入門 –Gaussianの基本と有効利用のヒント」を読んでみました。
私は「量子計算化学をガチで導入したく、特に Gaussian を考えているが、何から始めたらいいかよく分かっていない。そもそも用語の意味もよく理解していない」という計算化学ド素人です。そんな私にとってこの書籍はまさに求めていたものだ!という感じでした。似たような境遇の方は本書を是非とも手に取っていただきたいと思います!

Gaussian を使うかどうかに関わらず、初学者にとっては DFT基底関数?  B3LYP6-31+G*??? 単語を聞いただけじゃ何のこっちゃ??? だと思います。ラボのマニュアルに従ってパラメータを設定し計算を走らせることはできても、実際に何をやっているのかは理解していない、そんな方にも本書はおすすめです。最初の 3 章までが量子化学計算の基本についての記述なのですが、非常にわかりやすく述べられていました。

本書のあらまし

有機化学のための量子化学計算入門 –Gaussianの基本と有効利用のヒント

東京都立大学准教授 博士 (工学) 西長 亨
HPCシステムズ株式会社 計算化学シニアエキスパート 博士 (工学) 本田 康 共著

B5判/224頁/2色刷/定価3850円(本体3500円+税10%)/2022年6月発行
ISBN 978-4-7853-3523-6 C3043

 量子化学計算に興味はあってもどうすればいいのかわからない、有機系をはじめとするすべての実験化学者のための「習うより慣れろ」的実践マニュアル。
 初学者でも無理なく最初のハードルを越えられるよう、計算を始めるための環境整備から、計算ソフトGaussianの基本と特性、実際の使い方から困ったときの対処法まで、具体的な応用例を示しながら丁寧に解説する。

<量子化学計算でできること>
・分子の最適化構造の予測
・分子の物性値や各種スペクトルの予測
・分子の電子状態の解析
・化学反応の解析
・新たな化学概念の提案
(本書p.5~ より)

目次
1.量子化学計算で何ができるか?
2.計算実行のための環境づくり
3.計算手法と基底関数
4.Gaussian の基本的な使い方
5.構造最適化
6.分子軌道
7.基底状態の物性
8.化学反応メカニズム
9.開殻系の取り扱い
10.励起状態の物性
11.計算を有効活用するためのヒント

裳華房 HP 書籍紹介 より

対象

・Gaussian を初歩から学ぼうとしている学生・研究者
・量子化学計算全般の入門書を求めている学生・研究者

第1章  量子化学計算で何ができるか?

本書 P.6 より引用

まず、計算化学の中で量子化学計算はどういった立ち位置なのか、何ができて何ができないのか、といった初歩の初歩から分かりやすく解説してくれています。果たして自身の設定した課題が量子化学計算で解けるのか、そこを理解しないと Gaussian を導入しても無用の長物となってしまう可能性もあります。”量子化学計算で「できること」は1分子の性質が本質的であるような物性や現象の計算である” 、こちらの記述だけでも心に留めおくと以降の学習がスムーズに進むと思います。

第 2 章  計算実行のための環境づくり

Guassian は有償ソフトであり、導入にはアカデミアでもそれなりのお金が掛かります。本当に Gassusian が適切なのか、他にも量子化学計算ソフトは無いのか、という点も含めて、本章では計算を始めるためのハードウェア・ソフトウェアを解説しています。

第 3 章   計算手法と基底関数

本書序盤の山場で、Hartree-Fock 法DFT 法の違い、基底関数の意味と意義やその選択指針など、汎用される量子化学計算の本質について数式を最小限にし非常に分かりやすく記述しています。

第 4 章以降

実際に Gaussian の使い方を学ぶための実践項目で、目的に沿った計算命令の入力方法と、簡単な章末問題から成ります。本章以降は Gaussian の使用環境をセットアップしてからじっくり取り組むと良いでしょう。

感想

私は非常に簡単な計算を研究の理論づけに使っていたことはあったのですが、量子化学計算を分子設計などに積極的に取り入れたことはありませんでした。新しく着任したボスが Gaussian を使いこなしているのをみて「おお!」と感銘を受け、ぜひ私も一丁前に使える様になりたいと思ったのですが、職場の移動により直接教えてもらうのが難しくなってしまいました。アカデミア価格で Gaussian のライセンスを購入するのはやぶさかでは無かったのですが、いかんせん周りに経験者がいない環境で使いこなせる自信がなく、購入には二の足を踏んでいました。そんな時、この入門書があれば一人でもがんばって身につけていけそうだと思い、Gaussianライセンス購入に踏み切りました。
本書はややこしい解説を最小限にし、「習うより慣れろ」のスタンスで Gaussian のトレーニングに特化しているのが良い点です。ラボに Gaussian の計算環境が整っているという方は、せっかくなので本書を片手に勉強を始めてみてはいかがでしょうか? また Gaussian を導入したいと思っている方は、本書を片手にボスのところへ交渉に行ってもいいと思います。

関連記事

計算化学を用いたスマートな天然物合成
計算化学記事まとめ

DAICHAN

投稿者の記事一覧

創薬化学者と薬局薬剤師の二足の草鞋を履きこなす、四年制薬学科の生き残り。
薬を「創る」と「使う」の双方からサイエンスに向き合っています。
しかし趣味は魏志倭人伝の解釈と北方民族の古代史という、あからさまな文系人間。
どこへ向かうかはfurther research is needed.

関連記事

  1. 液クロ虎の巻シリーズ
  2. ワールドクラスの日本人化学者が語る研究物語―『化学者たちの感動の…
  3. Handbook of Reagents for Organic…
  4. 研究者としてうまくやっていくには ー組織の力を研究に活かすー
  5. 創薬化学―有機合成からのアプローチ
  6. 二次元物質の科学 :グラフェンなどの分子シートが生み出す新世界
  7. Pythonで学ぶ実験計画法入門 ベイズ最適化によるデータ解析
  8. Modern Method of Organic Synthes…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. カルボプラチン /carboplatin
  2. The Sol-Gel Handbook: Synthesis, Characterization and Applications
  3. パーキンソン病治療の薬によりギャンブル依存に
  4. Bayer/Janssen Rivaroxaban 国内発売/FDA適応拡大申請
  5. モッシャー法 Mosher Method
  6. 1-ヒドロキシタキシニンの不斉全合成
  7. CSJジャーナルフォーラム「ジャーナルの将来像を考える」
  8. 水素水業界、国民生活センターと全面対決 「断じて納得できません」
  9. 三菱化学の合弁計画、中国政府が認可・330億円投資へ
  10. 真空ポンプ

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2022年6月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930  

注目情報

最新記事

ナノ学会 第22回大会 付設展示会ケムステキャンペーン

ナノ学会の第22回大会が東北大学青葉山新キャンパスにて開催されます。協賛団体であるACS(ア…

【酵素模倣】酸素ガスを用いた MOF 内での高スピン鉄(IV)オキソの発生

Long らは酸素分子を酸化剤に用いて酵素を模倣した反応活性種を金属-有機構造体中に発生させ、C-H…

【書評】奇跡の薬 16 の物語 ペニシリンからリアップ、バイアグラ、新型コロナワクチンまで

ペニシリンはたまたま混入したアオカビから発見された──だけではない.薬の…

MEDCHEM NEWS 33-2 号「2022年度医薬化学部会賞」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

マテリアルズ・インフォマティクスにおける分子生成の基礎と応用

開催日:2024/05/22 申込みはこちら■開催概要「分子生成」という技術は様々な問題…

AlphaFold3の登場!!再びブレイクスルーとなりうるのか~実際にβ版を使用してみた~

2021年にタンパク質の立体構造予測ツールであるAlphaFold2 (AF2) が登場し、様々な分…

【5月開催】 【第二期 マツモトファインケミカル技術セミナー開催】 有機金属化合物 オルガチックスによる「密着性向上効果の発現(プライマー)」

■セミナー概要当社ではチタン、ジルコニウム、アルミニウム、ケイ素等の有機金属化合物を“オルガチッ…

マテリアルズ・インフォマティクスにおける回帰手法の基礎

開催日:2024/05/15 申込みはこちら■開催概要マテリアルズ・インフォマティクスを…

分子は基板表面で「寝返り」をうつ!「一時停止」蒸着法で自発分極の制御自在

第613回のスポットライトリサーチは、千葉大学 石井久夫研究室の大原 正裕(おおはら まさひろ)さん…

GoodNotesに化学構造が書きやすいノートが新登場!その使用感はいかに?

みなさんは現在どのようなもので授業ノートを取っていますでしょうか。私が学生だったときには電子…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP