[スポンサーリンク]

一般的な話題

化学者のためのエレクトロニクス入門④ ~プリント基板業界で活躍する化学メーカー編~

[スポンサーリンク]

bergです。化学者のためのエレクトロニクス入門と銘打ったこのコーナーも、今回で4回目となりました。前回は半導体製造プロセスの仕組みと、それにかかわるファインケミカルの生産に携わっている企業をご紹介しました。

今回はプリント基板の製造プロセスに関連する製品・企業に焦点を当てていきます。この分野もニッチながら、日本の化学・素材メーカーが存在感を発揮している分野です。製造工程の上流から順を追ってみていきましょう。

①銅張積層板(CCL)

概要

プリント基板製造の大本になる材料です。絶縁体の樹脂などに薄い銅箔を均一に張り合わせて作られています。

供給元

国内ではAGC(旧:旭硝子)、日立化成(2020年10月より昭和電工マテリアルズに改名予定)、日本製鋼(旧:新日鐵住金)など。海外では台光電子材料など。

最近のトピック

5G通信への対応など高周波特性を改善する目的で、低誘電率の樹脂材料の探索が進められています。

②ソルダーレジスト

SOLDER_RESIST

緑色の部分がソルダーレジスト(画像:Wikipedia

概要

フォトレジストの一種ですが、基板の銅配線を絶縁し、はんだなどから保護する役割があります。

緑色のものが安価で広く普及していますが、近年では様々な用途に合わせた製品が登場しています。

供給元

太陽ホールディングスが首位。ほかにタムラ製作所日立化成(2020年10月より昭和電工マテリアルズに改名予定)、東洋紡東亞合成など

最近のトピック

5G通信への対応など高周波特性を改善する目的で、低誘電率材料の探索が進められています。

③金属めっき薬品

PCB

基板上の銅/無電解ニッケル/置換金めっき(ENIG)(画像:Pixabay

概要

プリント基板の銅配線や、素子を実装する際のはんだめっき、外部との電気的接続をつかさどる金コネクタなどの製造プロセスに使われるのがめっき技術です。

前回も紹介しましたが、銅や金は低温でも非常に拡散しやすいため、銅の表面に直接金めっきを施すと長時間経過後に表面の金めっきが原子レベルで内側へと拡散し、めっき自体が消滅してしまいます。そこで、拡散しにくい金属(バリアメタル)の薄膜を中間に形成する手法が広く用いられています。バリアメタルとしてはNiPdが一般に利用されています。

なお、コネクタなどの接点部位は機械的な外力に繰り返しさらされることから柔らかい純金では摩耗してしまいます。そこで、NiやCoとの合金(硬質金)とすることで強度を確保するのが一般的です。しかし、そのままでは電気陰性度のまったく異なる金属同士を一定の比率で析出させることは困難であることから、各種の添加剤が重要で、高度な技術力が必要な分野となっています。

供給元

めっきの種類ごとにおおむね棲み分けができています。

日本高純度化学:リードフレーム、コネクタ用貴金属めっきなど世界トップ。特にスマホ向けはほぼ独占

上村工業:無電解ニッケルで世界トップ

日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース(EEJA):貴金属めっき液のラインアップ数トップ

小島薬品化学:高純度が要求される貴金属めっき液

JCU:銅ビアフィルでトップクラス、装飾用も

石原ケミカル:はんだめっき、ウエハバンプ用めっき

 

最近のトピック

貴金属は地殻中の存在量自体が少ないことから、数千円/g以上と極めて高価です。また、鉱床の多くが特定の国家・地域(独裁国家や政情不安定・係争中の地域)に偏在しており、政治的なリスクなどから安定供給に不安があるものも少なくありません。そのため、その使用量の低減(省金化)の努力が払われています。

また、半導体内部の配線にはここ四半世紀銅が用いられてきましたが、近年では微細化による性能面(エレクトロマイグレーション:高電流密度による配線の破損、など)での限界に直面しています。そのため、次世代の微細配線材料としてはCoRuが一躍脚光を浴びています。

④フラックス

Flux_Pen

市販のフラックス(画像:Wikipedia

概要

はんだづけ性を良好にするためなどに塗布される薬品で、ロジン(樹脂)と銅表面の酸化膜を除去する活性剤などから構成されています。

供給元

タムラ製作所など

⑤異方性導電膜(ACF)

概要

微少な半導体チップなどをはんだづけせずに接続するための素材です。エポキシ樹脂またはアクリル樹脂中に金属微粒子(フィラー)を分散させたもので、圧縮方向にのみ導通する優れものです。

供給元

デクセリアルズ(旧:ソニーケミカル)、日立化成(2020年10月より昭和電工マテリアルズに改名予定)など

最近のトピック

5G通信の実用化などにより高周波帯域での低損失化などが求められています。

ソルダーレジストや金属めっきをはじめ、このあたりの分野は非常に奥が深い分野で、それだけで何本も記事が書けてしまいそうです。今回の投稿のみでは、ほんの導入しかご説明できませんでしたので、今後別途シリーズ化できればと考えています。

長くなりましたが、今回はこのあたりで区切ります。次回はディスプレイやその他の素子についてご紹介する予定ですのでご期待ください!

関連リンク

グローバルニッチトップ企業の5年後の現状と課題(令和元年6月 経済産業省製造産業局総務課)

2019年9月11日付 日経新聞朝刊全国版 スマートフォン特集

関連書籍

[amazonjs asin=”4526066893″ locale=”JP” title=”よくわかるプリント配線板のできるまで”] [amazonjs asin=”406257084X” locale=”JP” title=”図解・わかる電子回路―基礎からDOS/V活用まで (ブルーバックス)”] [amazonjs asin=”4526068144″ locale=”JP” title=”本当に実務に役立つプリント配線板のめっき技術”]
gaming voltammetry

berg

投稿者の記事一覧

化学メーカー勤務。学生時代は有機をかじってました⌬
電気化学、表面処理、エレクトロニクスなど、勉強しながら執筆していく予定です

関連記事

  1. 【Q&Aシリーズ❸ 技術者・事業担当者向け】 マイクロ…
  2. 「もしかして転職した方がいい?」と思ったらまずやるべき3つのこと…
  3. 『リンダウ・ノーベル賞受賞者会議』を知っていますか?
  4. 光触媒で人工光合成!二酸化炭素を効率的に資源化できる新触媒の開発…
  5. 核酸合成試薬(ホスホロアミダイト法)
  6. 新形式の芳香族化合物を目指して~反芳香族シクロファンにおける三次…
  7. 近傍PCET戦略でアルコキシラジカルを生成する
  8. 電子一つで結合!炭素の新たな結合を実現

注目情報

ピックアップ記事

  1. 高分子材料中の微小異物分析技術の実際【終了】
  2. ものづくりのコツ|第10回「有機合成実験テクニック」(リケラボコラボレーション)
  3. 【化学×AI・機械学習クラウド】実験科学者・エンジニア自身が実践するデータサイエンス/データケミカル株式会社
  4. C-CN結合活性化を介したオレフィンへの触媒的不斉付加
  5. 「リジェネロン国際学生科学技術フェア(ISEF)」をご存じですか?
  6. 熊田 誠 Makoto Kumada
  7. 論文執筆で気をつけたいこと20(2)
  8. グローバルCOE審査結果
  9. 投票!2017年ノーベル化学賞は誰の手に!?
  10. 第2回「Matlantis User Conference」

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年7月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

注目情報

最新記事

岩田浩明 Hiroaki IWATA

岩田浩明(いわたひろあき)は、日本のデータサイエンティスト・計算科学者である。鳥取大学医学部 教授。…

人羅勇気 Yuki HITORA

人羅 勇気(ひとら ゆうき, 1987年5月3日-)は、日本の化学者である。熊本大学大学院生命科学研…

榊原康文 Yasubumi SAKAKIBARA

榊原康文(Yasubumi Sakakibara, 1960年5月13日-)は、日本の生命情報科学者…

遺伝子の転写調節因子LmrRの疎水性ポケットを利用した有機触媒反応

こんにちは,熊葛です!研究の面白さの一つに,異なる分野の研究結果を利用することが挙げられるかと思いま…

新規チオ酢酸カリウム基を利用した高速エポキシ開環反応のはなし

Tshozoです。最近エポキシ系材料を使うことになり色々勉強しておりましたところ、これまで関連記…

第52回ケムステVシンポ「生体関連セラミックス科学が切り拓く次世代型材料機能」を開催します!

続けてのケムステVシンポの会告です! 本記事は、第52回ケムステVシンポジウムの開催告知です!…

2024年ノーベル化学賞ケムステ予想当選者発表!

大変長らくお待たせしました! 2024年ノーベル化学賞予想の結果発表です!2…

“試薬の安全な取り扱い”講習動画 のご紹介

日常の試験・研究活動でご使用いただいている試薬は、取り扱い方を誤ると重大な事故や被害を引き起こす原因…

ヤーン·テラー効果 Jahn–Teller effects

縮退した電子状態にある非線形の分子は通常不安定で、分子の対称性を落とすことで縮退を解いた構造が安定で…

鉄、助けてっ(Fe)!アルデヒドのエナンチオ選択的α-アミド化

鉄とキラルなエナミンの協働触媒を用いたアルデヒドのエナンチオ選択的α-アミド化が開発された。可視光照…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP