[スポンサーリンク]

chemglossary

CRISPR(クリスパー)

[スポンサーリンク]

CRISPRは、clustered regularly interspaced short palindromic repeatの略で、クリスパーと呼ばれる。原核生物が持つ免疫システムの一種。ウイルス(ファージ)などの外来DNAが細胞に侵入してきた際に、そのDNAを認識して分解する役割を果たす(図1)。

図1. CRISPR-Casシステムの役割。

CRISPRのメカニズム

CRISPRによる免疫システムは、(i) スペーサーの獲得、(ii) crRNAプロセシング、(iii) 干渉(DNAの分解)というステップからなる(図2)。

図2. CRISPRによる免疫応答のメカニズム。

(i) において、外来DNAを自身のゲノムに取り込むことで抗原情報を記憶し、後の感染に備えることができる(免疫記憶)。CRISPRに関連するタンパクは、CRISPR-associated proteinの略で、Casタンパクと呼ばれる。

ゲノム編集への応用:CRISPR-Cas9

2012年、ジェニファー・ダウドナ教授(UC Berkeley)とエマニュエル・シャルパンティエ教授(ウメオ大学)らにより、CRISPR-Cas9を用いたゲノム編集技術が報告された。[1] この技術では、Cas9というDNA分解酵素(エンドヌクレアーゼ)を、ガイドRNAによって目的部位に導き、標的DNAの二本鎖を切断する(図3)。切断されたDNAは、細胞が本来持つDNAの修復機構(相同組替え修復(HDR)や非相同末端結合(NHEJ)など)によって自然に修復される。修復時のエラーを利用して、標的部位に様々な変異を導入したり、外部から供給したDNAを修復時に利用させ、遺伝子の挿入を行うなど、CRISPR-Cas9技術を応用すれば様々にゲノムを編集することが可能になる。

図3. CRISPR-Cas9技術による、標的DNAの部位特異的切断。

参考文献

  1. Jinek, M.; Chylinski, K.; Fonfara, I.; Hauer, M.; Doudna, J. A.; Charpentier, E. Science 2012337, 816. DOI: 10.1126/science.1225829
  2. Hille, F.; Richter, H.; Wong, S. P.; Bratovič, M.; Ressel, S.; Charpentier, E. Cell 2018, 172, 1239 (DOI: 10.1016/j.cell.2017.11.032)

 

Avatar photo

kanako

投稿者の記事一覧

アメリカの製薬企業の研究員。抗体をベースにした薬の開発を行なっている。
就職前は、アメリカの大学院にて化学のPhDを取得。専門はタンパク工学・ケミカルバイオロジー・高分子化学。

関連記事

  1. 原子分光分析法の基礎知識~誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-O…
  2. 生物指向型合成 Biology-Oriented Synthes…
  3. シトクロムP450 BM3
  4. 卓上NMR
  5. アトムエコノミー Atom Economy
  6. 溶媒の同位体効果 solvent isotope effect
  7. 非リボソームペプチド Non-Ribosomal Peptide…
  8. コールドスプレーイオン化質量分析法 Cold Spray Ion…

注目情報

ピックアップ記事

  1. ディストニックラジカルによる多様なアンモニウム塩の合成法
  2. バリー・シャープレス Karl Barry Sharpless
  3. 村橋 俊一 Shun-Ichi Murahashi
  4. 2013年就活体験記(1)
  5. 【書籍】機器分析ハンドブック1 有機・分光分析編
  6. 2010年日本化学会各賞発表-進歩賞-
  7. 電話番号のように文献を探すーRefPapers
  8. ReaxysPrize2015ファイナリスト発表!
  9. フリッツ・フェクトレ Fritz Vögtle
  10. サリドマイドの治験、22医療機関で 製薬会社が発表

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年7月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

注目情報

最新記事

山口 潤一郎 Junichiro Yamaguchi

山口潤一郎(やまぐちじゅんいちろう、1979年1月4日–)は日本の有機化学者である。早稲田大学教授 …

ナノグラフェンの高速水素化に成功!メカノケミカル法を用いた芳香環の水素化

第660回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院理学研究科(有機化学研究室)博士後期課程3年の…

第32回光学活性化合物シンポジウム

第32回光学活性化合物シンポジウムのご案内光学活性化合物の合成および機能創出に関する研究で顕著な…

位置・立体選択的に糖を重水素化するフロー合成法を確立 ― Ru/C触媒カートリッジで150時間以上の連続運転を実証 ―

第 659回のスポットライトリサーチは、岐阜薬科大学大学院 アドバンストケミストリー…

【JAICI Science Dictionary Pro (JSD Pro)】CAS SciFinder®と一緒に活用したいサイエンス辞書サービス

ケムステ読者の皆様には、CAS が提供する科学情報検索ツール CAS SciFind…

有機合成化学協会誌2025年5月号:特集号 有機合成化学の力量を活かした構造有機化学のフロンティア

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年5月号がオンラインで公開されています!…

ジョセップ・コルネラ Josep Cornella

ジョセップ・コルネラ(Josep Cornella、1985年2月2日–)はスペイン出身の有機・無機…

電気化学と数理モデルを活用して、複雑な酵素反応の解析に成功

第658回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院 農学研究科(生体機能化学研究室)修士2年の市川…

ティム ニューハウス Timothy R. Newhouse

ティモシー・ニューハウス(Timothy R. Newhouse、19xx年xx月x日–)はアメリカ…

熊谷 直哉 Naoya Kumagai

熊谷 直哉 (くまがいなおや、1978年1月11日–)は日本の有機化学者である。慶應義塾大学教授…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP