[スポンサーリンク]

世界の化学者データベース

ハーバート・ブラウン Herbert C. Brown

[スポンサーリンク]

ハーバート・チャールズ・ブラウン(Herbert Charles Brown、1912年5月22日(ロンドン、イギリス生)-2004年12月19日)は、アメリカの有機化学者である。元・米国パデュー大学教授(画像:C&EN)。「有機ホウ素化合物を用いる新しい有機合成法の開発」の功績にて、1979年のノーベル化学賞を受賞している。

経歴

1912年、イギリスのロンドンに生まれる。1914年にアメリカに移住。

1936 シカゴ大学 卒業
1938 シカゴ大学 博士号取得
1939 シカゴ大学 インストラクター
1943 Wayne州立大学 助教授
1946 Wayne州立大学 准教授
1947 パデュー大学 教授
1959 パデュー大学 R.B.Wetherill研究教授
1968 シカゴ大学 名誉教授
1977 パデュー大学 退官
1978 パデュー大学 名誉教授

2004年、心臓麻痺にて死去。

 

受賞歴

1959 Nichols Medal
1960 ACS Award Creative Research in Synthetic Organic Chemistry
1968 the Linus Pauling Medal
1969 National Medal of Science
1971 Roger Adams Medal
1973 Charles Frederick Chandler Medal
1975 Madison Marshall Award
1976 CCNY Scientific Acievement Award Medal
1978 Allied Award
1978 Ingold Memorial Lecturer and Medal
1978 Elliott Cresson Medal
1979 ノーベル化学賞 (George Wittigとの共同受賞)
1981 プリーストリーメダル
1982 Perkin Medal
1985 AIC Gold Medal
1987 The National Academy of Sciences Award in Chemical Sciences
1987 Order of the Rising Sun, with Gold and Silver Star
1990 ACS Ralph and Helen Oesper Award
1998 ACS Herbert C. Brown Award

 

研究概要


ホウ素化合物を用いた新規な有機合成法の開発

HCB_2.jpg

Brown教授は有機ホウ素化合物の研究を主軸テーマとし、数々の合成試薬の開発・合成方法論の開拓を成し遂げた。ノーベル賞の授与対象ともなった研究テーマである。

たとえば現在でもカルボニル化合物の還元目的で広く用いられる、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)と水素化ホウ素リチウム(LiBH4)は、彼にによって開発された試薬である。
これはもともと第二次世界大戦(WW II)の最中に、Hermann Irving Schlesinger教授とともに輸送可能な水素源の開発に取り組んでいた過程で発見された。

NaBH4_1.gif
水素化ホウ素ナトリウムにを用いるカルボニルの還元

またボラン(BH3)と多重結合の反応、引き続く酸化によってアルコールなどを合成するヒドロホウ素化反応は、現在でも精密合成領域で頻用される手法の一つである。

ene-ol11.gif
Brownヒドロホウ素化

さらに彼はこのヒドロホウ素化を応用し、キラルなホウ素化合物を種々創りだすことに成功した。後にこの研究は、カルボニル化合物の不斉還元法、アルデヒドの不斉アリル化反応を行う手法(Brownアリルホウ素化)へと結実していく。

asym_allylboration_1.gif
不斉アリルホウ素化反応(Brown法は、R*=Ipc)

コメント&その他

  1.  2010年にノーベル化学賞を受賞した根岸英一鈴木章の両氏は、ともにBrown教授に師事して研鑽を積んだ。特に鈴木教授はここでの研究経験にもとづき、独自のホウ素化学と、それを応用したクロスカップリング反応を開発するに至った。Brown教授自身もノーベル賞受賞者であり、有機化学界に彼が与えた影響は計り知れないものがある。
  2.  Brown教授が化学を生涯の仕事として選ぶことになったきっかけ、それは1936年の学士号取得時に、Sarah Baylen嬢(のちにBrown教授の妻となる)が彼にプレゼントした一冊の書物―『Hydrides of Boron and Silicon』(by A. Stock)―であった。これを読んだBrown教授はホウ素化学にのめり込み、後にノーベル賞を受賞するまでの研究成果をあげることになる。Sarahがこの本を選んだ理由は、大恐慌の時代にあって小遣いが少なく、たまたま書店でもっとも安く売られていた($2)ものを選んだ、ということだとか。
  3.  1935年にシカゴ大学に入学、わずか2年で全ての過程を終え、1936年に学士号を取得する。博士号もわずかに2年後の1938年に取得している。
  4. 彼の研究テーマで扱っていた元素はおもに水素(H)、炭素(C)、ホウ素(B)であり、驚くべきことにこれは彼のイニシャルH.C.B.とまったく同一の記号である!彼はそれをして「私がホウ素化学に携わることは運命であった」とまで言っている。まさしく。
  5.  2004年に死去するまで生涯現役の化学者として過ごし、66年の研究生活にわたって、1300報近くの論文を発表している。
  6. 彼は過去に「鈴木・根岸の両名をノーベル賞に推薦する」と述べた、と両氏は語っている。

 

名言集

 

関連動画

 

関連文献

[1] Brown, H. C.; 鈴木章 化学と工業 1989, 42, 90.

 

関連書籍

[amazonjs asin=”0125498756″ locale=”JP” title=”Borane Reagents (Best Synthetic Methods)”][amazonjs asin=”0805315012″ locale=”JP” title=”Hydroboration”][amazonjs asin=”3642080340″ locale=”JP” title=”Hydroboration and Organic Synthesis: 9-Borabicyclo 3.3.1 nonane (9-BBN)”]

外部リンク

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. ジョン・フレシェ Jean M. J. Frechet
  2. 山東信介 Shinsuke Sando
  3. ジェイ・キースリング Jay Keasling
  4. Junfeng Zhao
  5. グラーメ・モード Graeme Moad
  6. ジョアンナ・アイゼンバーグ Joanna Aizenberg
  7. 林松 Song Lin
  8. マイケル・オキーフィ Michael O’Keeff…

注目情報

ピックアップ記事

  1. タンパクの骨格を改変する、新たなスプライシング機構の発見
  2. カーボンナノペーパー開発 信州大、ナノテク新素材
  3. GRE Chemistry 受験報告 –試験対策編–
  4. 高分子ってよく聞くけど、何がすごいの?
  5. 凸版印刷、有機ELパネル開発
  6. (−)-Salinosporamide Aの全合成
  7. E.・ピーター・グリーンバーグ E. Peter Greenberg
  8. 企業の組織と各部署の役割
  9. 話題のAlphaFold2を使ってみた
  10. 高専シンポジウム in KOBE に参加しました –その 1: ヒノキの精油で和歌山みかんを活性化–

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2010年10月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

アクリルアミド類のanti-Michael型付加反応の開発ーPd触媒による反応中間体の安定性が鍵―

第622回のスポットライトリサーチは、東京理科大学大学院理学研究科(松田研究室)修士2年の茂呂 諒太…

エントロピーを表す記号はなぜSなのか

Tshozoです。エントロピーの後日談が8年経っても一向に進んでないのは私が熱力学に向いてないことの…

AI解析プラットフォーム Multi-Sigmaとは?

Multi-Sigmaは少ないデータからAIによる予測、要因分析、最適化まで解析可能なプラットフォー…

【11/20~22】第41回メディシナルケミストリーシンポジウム@京都

概要メディシナルケミストリーシンポジウムは、日本の創薬力の向上或いは関連研究分野…

有機電解合成のはなし ~アンモニア常温常圧合成のキー技術~

(出典:燃料アンモニアサプライチェーンの構築 | NEDO グリーンイノベーション基金)Ts…

光触媒でエステルを多電子還元する

第621回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域(魚住グループ)にて…

ケムステSlackが開設5周年を迎えました!

日本初の化学専用オープンコミュニティとして発足した「ケムステSlack」が、めで…

人事・DX推進のご担当者の方へ〜研究開発でDXを進めるには

開催日:2024/07/24 申込みはこちら■開催概要新たな技術が生まれ続けるVUCAな…

酵素を照らす新たな光!アミノ酸の酸化的クロスカップリング

酵素と可視光レドックス触媒を協働させる、アミノ酸の酸化的クロスカップリング反応が開発された。多様な非…

二元貴金属酸化物触媒によるC–H活性化: 分子状酸素を酸化剤とするアレーンとカルボン酸の酸化的カップリング

第620回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院工学研究院(本倉研究室)の長谷川 慎吾 助教…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP