[スポンサーリンク]

ケムステニュース

ミドリムシが燃料を作る!? 石油由来の軽油を100%代替可能な次世代バイオディーゼル燃料が完成

[スポンサーリンク]

いすゞ自動車株式会社と株式会社ユーグレナは、石油由来の軽油を100%代替可能な次世代バイオディーゼル燃料が完成したことをお知らせします。今後の本格的な次世代バイオディーゼル燃料供給に先立ち、ユーグレナ社からいすゞへの次世代バイオディーゼル燃料の供給が2020年3月中に完了し、いすゞの藤沢工場シャトルバスにて本燃料の使用を2020年4月1日より開始します。  (引用:MoTA 4月2日)

株式会社ユーグレナは2005年に設立された企業で、その名の通りユーグレナ(和名:ミドリムシ、以下会社名をユーグレナ、微生物名をミドリムシと表記)に関する製品の開発と販売を行っています。2011年には、東京大学の学生が通うラーメン店「山手らーめん」などでミドリムシ粉末を使った新商品「みどりラーメン」を発売し話題になりました。そのユーグレナはバイオ燃料の製造に関するビジネスも行っていて、トラックやバスの製造・販売大手であるいすゞ自動車とは、2014年から共同研究契約を締結し次世代バイオディーゼル燃料の実用化に向けた検討を行ってきました。

そして、石油由来の軽油を100%代替可能な次世代バイオディーゼル燃料が完成し、2020年4月1日よりいすゞではこのバイオ燃料を100%使用して湘南台駅といすゞ藤沢工場を結ぶシャトルバスの運行を始めたそうです。共同研究を始めた当時からバイオ燃料を使ってシャトルバスを運行していましたが、1%だけバイオ燃料を通常の軽油に添加していました。いすゞではバイオ燃料を使ってもエンジンが問題ないことを確認する全負荷性能試験と、通常の運転を模した条件でエンジンを動かして排ガス量を測定するWHTC排出ガス試験を実施し、石油由来の軽油と同等の性能であることを確認したため100%のバイオ燃料を使ったバスの運行を始めたようです。

WHTC排出ガス試験(出典:公益財団法人日本自動車輸送技術協会)

生物は嫌気状態においてミトコンドリアによるATP生産ができなくなるため、蓄えた糖類を分解してATPを作り出しますが、ミドリムシの場合パラミロン(β-1,3-グルカン)として糖を蓄え、嫌気状態ではパラミロンからATPを作り出します。

パラミロンの構造

さらに解糖によって発生したピルビン酸を脂肪酸とアルコールに変換し、ワックスエステル発酵によってワックスエステルが合成されます。ワックスエステルは水に不溶であるため細胞に留まるため、ミドリムシを乾燥させて抽出することで油脂分を容易に取り出すことができ、このワックスエステルをメチルエステル化するとバイオ燃料として広く使われている脂肪酸メチルエステル(FAME:Fatty acid methyl ester)が合成されます。ユーグレナでは、このFAMEを分解、精製し軽油で薄めることなく燃料として使えるようにしました。

ピルビン酸からFAMEまでの構造変化、1段階目と2段階目は微生物の細胞内の酵素によって反応が進み、抽出操作の上、メタノールとのエステル交換交換反応によってFAMEを得られる。(参考:ユーグレナ由来ジェット燃料生産の可能性)

そもそも微細藻類による燃料生産は、古くからミドリムシを含めていろいろな生物で研究されていましたが、生産効率などの問題から実用化には至ってきませんでした。ユーグレナでは健康食品向けの大量生産の技術をさらに発展させて、燃料として供給できるほどの規模でバイオ燃料を生産するスケールアップ研究を進めてきました。例えばワックスエステルを高収率で得るには、まずミドリムシをパラミロンの蓄積を促進する条件においた後、嫌気的な条件に移してワックスエステルを生産させる必要があることがわかっています。このような技術開発の結果、実証プラントでバイオ燃料を製造する段階まで成功しています。

またユーグレナでは、バイオ燃料に関して様々なアプローチを行っていて、バイオ燃料の生産に関して2019年2月20日に自動車部品大手のデンソーと包括的な業務提携を結ぶことで基本合意しバイオ燃料や微細藻類の培養技術の開発、食品や化粧品などへの藻類の応用、微細藻類による物質生産に協力して取り組むことを決めました。デンソーでは、2008年からコッコミクサKJ藻という種類の藻の生産性向上や機能性成分の究明に取り組んできたそうです。ユーグレナではこのコッコミクサKJ藻もバイオ燃料製造実証プラントで使用することで、バイオ燃料の安定的な生産を行う狙いがあるようです。ユーグレナでは自動車だけでなく航空燃料への応用も計画しています。2020年1月30日には代替ジェット燃料の規格であるASTM D7566にユーグレナの製造方法が記載され、民間機に搭載できるようになりました。これにより掲げていた2020年の民間機フライト実現という目標に一歩近づき、すでにANAホールディングスがバイオ燃料の採用を表明しているため、今年中にはミドリムシ由来のジェット燃料で空の旅を楽しめるかもしれません。

モビリティから排出される二酸化炭素を減少させるべく様々なテクノロジーが開発されていて、バイオ燃料の利用については光合成によって二酸化炭素を燃料に変換しているため環境負荷が限定的になると主張されています。パームや菜種、大豆などの作物を多く生産している国では、それらを使ったバイオ燃料の製造が促進され、燃料への混合比率が法律に引き上げられていますが、日本では燃料にできるほどいずれの作物も作られていないため活発ではありません。そんな中、このユーグレナの取り組みは日本で燃料を生産して日本で使用できるわけであり、地球温暖化を抑えるかつ自国でのエネルギーの安定供給化にも貢献できる技術なのではないかと思います。

原油には様々な鎖長の分子が含まれているため、蒸留してそれぞれの製品に使われます。そのため一部が石油代替に置き換わっても、他の製品を作るために原油の使用量は変わらない状態が続くと考えられます。ミドリムシはバイオ燃料に適するワックスエステルを生成しますが、石油の代替技術がさらに発展すればより鎖長が長いワックスエステルも有用性が見いだされ、他の微生物を使った油脂の生産も必要になることも考えられます。このように一つ一つの技術の積み重ねで石油に依存する産業に大きな変革がもたらされえるかもしれません。

関連書籍

[amazonjs asin=”4864690855″ locale=”JP” title=”藻類オイル開発研究の最前線―微細藻類由来バイオ燃料の生産技術研究”] [amazonjs asin=”4098252902″ locale=”JP” title=”僕はミドリムシで世界を救うことに決めた。 (小学館新書)”]

関連リンク

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 高校生が河川敷で化学実験中に発火事故
  2. 三菱ガス化学と日清ファルマ、コエンザイムQ10の合弁事業を開始
  3. PFAS代替素材市場について調査結果を発表
  4. 核のごみを貴金属に 現代の錬金術、実験へ
  5. 05年:石油化学は好調、化工全体では利益縮小
  6. サクラの酵母で作った赤い日本酒を商品化に成功
  7. 有機溶媒吸収し数百倍に 新素材のゲル、九大が開発
  8. 米デュポン、高機能化学部門を分離へ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 第23回日本蛋白質科学年会 企画ワークショップ『反応化学の目からタンパク質を理解し、制御する』
  2. 自分の強みを活かして化学的に新しいことの実現を!【ケムステ×Hey!Labo 糖化学ノックインインタビュー④】
  3. デヴィッド・ミルステイン David Milstein
  4. 続セルロースナノファイバーの真価【対面講座】
  5. 田辺製薬と三菱ウェルファーマが10月1日に合併へ‐新社名は「田辺三菱製薬」
  6. ナノ孔に吸い込まれていく分子の様子をスナップショット撮影!
  7. エノラートの酸化的カップリング Oxidative Coupling of Enolate
  8. バルツ・シーマン反応 Balz-Schiemann Reaction
  9. エレクトロクロミズム Electrochromism
  10. 薄くて巻ける有機ELディスプレー・京大など開発

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年4月
月 火 水 木 金 土 日
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930  

注目情報

最新記事

2026年ノーベル化学賞ケムステ予想当選者発表!

2026年のノーベル化学賞は、「不斉有機合成における非線形効果および自己触媒作用の発…

第64回ケムステVシンポ「データとともに進化する未来の化学」を開催します!

第64回ケムステVシンポの会告を致します。産業技術総合研究所主催の化学シンポジウムシリーズ(…

品質工学とマテリアルズ・インフォマティクス ― 両技術の概要と連携事例

開催概要材料開発やものづくりの現場では、探索すべき組成やプロセス条件が増えるほど組み合わせが爆発…

大学院留学してよかったこと, 悪かったこと【英語, 経済面, オーバードクターに関するお話】

海外の大学で、その大学に籍を置く大学 (院) 生として留学することは「学位留学」と呼ばれたりします。…

光前駆体法の活用によって、ヘプタセンで初の一重項分裂を観測!

第725回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院 理学研究科化学専攻 有機元素化学研究室(山田研…

【スタッフ・寄稿募集】Chem-Stationで、化学を「伝える側」になりませんか?

Chem-Station(ケムステ)は2000年に開設された国内最大の化学ポータルサイトです。大学・…

第17回大津会議―とある参加者の記録―

2026年9月28日~29日に開催された第17回大津会議についての、とある参加者の記録です。この記事…

第17回大津会議 -Otsu Conference- 2026 開催報告 ~新体制で紡ぐ「有機合成の夢」~

第17回大津会議が2026年9月28日(月)〜9月29日(火)びわ湖大津プリンスホテルにて開催されま…

有機合成化学協会誌2026年10月号:医薬品プロセス開発・σ芳香族性・含窒素複素環・メロテルペノイド二量体・高歪み化合物

有機合成化学協会が発行する「有機合成化学協会誌」2026年10月号がオンラインで公開されています。…

時代は水だ! セメントのように水と混ぜるだけで成形・硬化できる「水硬性」高分子

第724回のスポットライトリサーチは、東京科学大学物質理工学院(大塚研究室)博士前期課程2年の徳満玲…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP